田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2019-01-01から1年間の記事一覧

坂口恭平 著『徘徊タクシー』より。わかりあえないことから。

「ばあちゃん、どっちね?」 大声をあげて尋ねると、彼女は右の人差し指をまっすぐに伸ばした。そこは小さいころ従兄弟たちとよく歩いていた道であった。トキヲを背負った僕は彼女の指を道標に少しずつ歩きはじめる。 トキヲをおんぶしたのはこれが初めての…

坂口恭平 著『幻年時代』より。視点の共存と多重空間と宮沢賢治。

幼少期に二つの記憶がある。どちらも僕はベビーカーに乗っている。どちらも楽しい思い出ではない。~中略~。二つの記憶には共通点がある。自分の目から見た視点、その坂口恭平を遠くから眺めているもう一つの視点が共存していることだ。(坂口恭平『幻年時…

三浦瑠麗、乙武洋匡 著『それでも、逃げない』。だいじょうぶ(?)職員室。

三浦 今までに、主戦場となる場所はなかったんですか? 乙武 ゼロではないですよ。テレビでコメンテーターを務めたり、スポーツライターとして選手の思いを読者に伝えたり、それぞれやりがいはあったし、楽しかった。ただ自分の使命を全うできているのかと考…

ちきりん 著『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』より。保護者に伝えたくなったこと。

世の中の取引には、売り手と買い手が「等価な価値を交換する取引」と「両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引」があります。 日常的なお買い物の大半は前者です。500円のお弁当と500円分の現金を交換する。3000円分のセーター…

宮口幸治 著『ケーキの切れない非行少年たち』より。ケーキの切れない非行少年たちに、クリスマスケーキを!

私が本書を書こうと思ったきっかけは、本文中でも引用した元衆議院議員の山本譲司氏の著書『獄窓記』(新潮文庫)を読んだことでした。さまざまな障害を抱え、本来なら福祉によって救われるべき人たちが、行き場がないがゆえに罪を犯して刑務所に集まってし…

小熊英二 著『インド日記 牛とコンピュータの国から』より。教員採用試験日記、都会と田舎の2次試験から。

値切るという行為は、いわばその行為を通して、「顔見知り」になる手間を支払うことであるともいえる。その手間を惜しむならば、金をよけいに払うか、毎日きて自然に顔見知りになって安くなるのを待つかという手順を踏むのだろう。貨幣はすべての価値を数字…

ヤニス・バルファキス 著『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』より。がんばる子どもはOK。でも、がんばりすぎる教員はNGかもしれない。

しかし市場社会では、漁師はみな起業家として競争しあうことになっているので、競争に反する約束(や法律)は起業家精神に反する。地元のパブでビールを飲みながら、100人の漁師全員が、漁をするのは1日1時間にするのが合理的だと同意しても、実際には…

大谷ノブ彦、平野啓一郎 著『生きる理由を探している人へ』より。バンコクの美女と八方美人だった同級生の話。

『私とは何か』の中でも書いたんですけど、「分人という考え方は八方美人のススメなのか?」って聞かれることがあるんですね。だけど、それはまったく違っていて、両者はむしろ逆なんですよ。分人を考える人は、「相手によって自分が変わる」ということを理…

寺脇研 著『それでも、ゆとり教育は間違っていない』より。ゆとり教育は間違っていない。忘年会スルーよりもサビ算スルーを。

人間力というのはどんな権威あるブランドや金よりも、人を魅了し生き方を変える力を持っている。 例えばこの本の編集者である澤田氏も、寺脇氏に「説得」された一人だ。高校時代、学校や授業のあり方に大きな疑問を抱き、上京して単身、文部省に乗り込み、「…

是枝裕和、樋口景一 著『公園対談 クリエイティブな仕事はどこにある?』より。明日は「忘年会スルーの反対」です。好き ⇔ 嫌い。

僕は、今の自分が、若い頃に考えてきた自分よりも保守的な気がしているんです。今年のお正月も、十数人で新年会をやって書初めをした。そういうのが意外と嫌いじゃない。お年玉配って、みんなでボーリングして、焼き肉食べて、今年も頑張りましょうと言って…

國分功一郎 著『暇と退屈の倫理学 増補新版』より。通知表よりも面談を、3期制よりも2期制を、退屈よりも興奮を。

楽しむことは、しかし、けっして容易ではない。容易ではないから、消費社会がそこにつけ込んだのである。 ラッセルはこんなことを言っている。「教育は以前、多分に楽しむ能力を訓練することだと考えられていた」。ラッセルがこう述べることの前提にあるのは…

坂口恭平 著『家族の哲学』より。パパはおかしくない。

「アオちゃんは何を書きたいの?」 アオは力いっぱい「せ」と書いている。「せ?」「今日、国語の授業で習ったの。だから、書いてみたかったの」 私の涙はいつまでも止まらない。「早く、パパも書いてよ」 ようやく鉛筆を動かした私は、漢字で「幸福」と大き…

コルクラボ 編『居心地の1丁目1番地』より。コルクの社員さん presents 映画『マチネの終わりに』を語る会🎵

本の制作過程からわかったことは、コルクラボは居心地のいい居場所を設計しようとしていることでした。それは、コルクラボが掲げる4つの行動指針にも表れています。 1 自分の安心安全を知る 2 自分の言葉を紡ぐ 3 好きなことにのめりこむ 4 人の頼り方…

前野ウルド浩太郎 著『バッタを倒しにアフリカへ』より。「幸せのハードル」と「小確幸」について。

一度、ラマダン中とは知らずに野外調査に出向いたことがあるが、炎天下でもモーリタニア人は一口も水を飲まなかったので、熱中症にならないか心配していた。ただでさえ厳しい自然環境なのに、何ゆえ過酷な状況にその身を追い込むのか。答えを求めて自分も彼…

トーマス・マン 著『魔の山』より。教員の時間感覚についての補説。

一般には、生活内容が興味深く新奇であれば、そのために時間は「追い払われる」、つまり時間の経つのが短くなるが、単調とか空虚とかは、時間の歩みにおもしをつけて遅くすると信じられているが、これは無条件に正しい考えではない。一瞬間、一時間などとい…

坂口恭平 著『思考都市』より。描きたいことを、描けばいい。

ある日、喫茶店で打ち合せをしていて 支払いのとき、レジ裏の棚に豆本が並んでいて そのおかげで、この未来工房の作品群を知った。 グーグルにのっていない情報を見つけること。 それが僕の仕事でもある。(坂口恭平『思考都市』日東書院、2013) 未来工房の…

乙武洋匡 著『ただいま、日本』より。我慢強さよりも、自由を。

英語には「過労死」に該当する単語がなく、「KAROSHI」と表記されるという。仕事は生活のためにすることなのに、なぜ日本人は仕事のために命を落とすのか、まるで理解できないと言われるが、返す言葉がない。死に至らずとも、ストレスから心身を蝕ま…

最相葉月 著『星新一 1001話をつくった人』より。1001話をつくった星新一 VS 1001コマ以上の授業をもつ教員

でも、1001編を書き上げてからは、家族で過ごすことが多くなり、心は少し和らいだようだった。~中略~。 ある日、若い編集者が家にやってきたとき、壁に飾っていたピカソやビュッフェのリトグラフを見て驚かれたことがあった。 すると新一は、「いやあ…

沢木耕太郎 著『銀河を渡る』より。沢木耕太郎さんと田辺聖子さんに学ぶ、てっぺんとふもとと三合目。

会社づとめをしている人の中に、出世することより現場の仕事を愛するという人がいる。「てっぺん」好きの人は、そんな人のことを軽蔑したりする。しかし、と田辺さんは言うのだ。《私はといえば、ふもとや三合目をみずから望んで、人生をたのしんでいる人が…

松田公太 著『すべては一杯のコーヒーから』より。Tully'sにて。誕生日おめでとうの前に、誕生日ありがとう。

次第に病状が悪化していくなかでも、母は自分のことより私の体調を気遣ってくれた。久し振りに父と暮らすことになった千葉・行徳から地下鉄を乗り継ぎ、銀座まで通うのも大変だったに違いない。それでも私に弁当を届けた後、客が少ないのを見ると心配して、…

中村哲、澤地久枝 著『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』より。中村哲さんの死。父として、母として。

2001年10月、国会での中村医師の証言には、万感のこもると思われる一節がある。「(アフガンが直面する)餓死については、自民党だとか共産党だとか社民党だとか、そういうことではなくて、一人の父親、一人の母親としてお考えになって、私たちの仕事…

坂口恭平 著『モバイルハウス 三万円で家をつくる』より。誤魔化さない生き方を🎵

今回のモバイルハウス制作において、ロビンソンはただの協力者ではないのかもしれない、と僕はふと思った。この計画をきっかけにして、彼は徹底的に僕に対して技術を伝承しようとしているのかもしれない。 道具の使い方、家の建て方、空間の捉え方、そして誤…

坂口恭平 著『現実脱出論』より。現実脱出って、定住漂泊のことだなぁ。

このように人生初の海外旅行は、僕が知らぬ間に限定していた価値観の幅を大きく拡張してくれた。 しかし、これに味を占めて、その後もどんどん海外へ行ったのかというとそうではない。僕はもっといろんな世界を見てみたいと思うよりも、当たり前だと思い込ん…

坂口恭平 著『まとまらない人』より。まとまらなくて、いい。

「好きなものがわからない」とかも言うんだよね。でも「赤と青どっちが好き?」って聞けば「青」とかはっきり答えるからね。それなんだけど、好きなものって。なんで、でっかい、自分の人生を、すべて背負うようなものを、考えちゃうの? 青と赤、体動かすの…

真木悠介 著『気流の鳴る音』より。一匹の妖怪が日本を徘徊している。学校スタンダードという名の妖怪が。

人間の根源的な二つの欲求は、翼をもつことの欲求と、根をもつことの欲求だ。 ドン・ファンの生き方がわれわれを魅了するのは、みてきたように、それがすばらしい翼を与えてくれるからだ。しかし同時にドン・ファンの生き方がわれわれを不安にするのは、それ…

寺山修司 著『家出のすすめ』より。田中泰延さんに倣えば、服部龍生さんは「聴きたい音を、出せばいい。」

しかし、ともかく、わたしは自分を「それはわたしです」と言い得る簡潔な単独の略号をおもいつきません。ましてや、先生が生徒に、「君はだれ? 何する人? って聞かれたら、すぐ大きな声でわたしは何々です、と答えられるような人間になりなさい」 などと教…

105回目の投稿。松井博さん、坂口恭平さん、田中泰延さん、磯野真穂さんに感謝。

実際には、社会的にも政治的にも利害関係は複雑で錯綜しており、アテにしていた反応・反響が得られないことはしばしばあります。すべてを計算し尽くして行動することは不可能です。「やってみないとわからない」のが現実であり、何らかの行動を選択した後に…

川村元気 著『仕事。』より。香港とマカオの話。小学生のときに読書が習慣づくと、未来が笑う。

川村 ちゃんと戻ります(笑)。というのも、常に戻るために書いているところもあって、そこは旅のスタイルにも通じているんです。僕は10代の頃に沢木さんの『深夜特急』を読んでわかりやすく香港から旅を始めた人間で、いまだに1年に一度はバックパッカー…

磯野真穂 著『ダイエット幻想』より。ダイエット幻想&きちんとした社会人でありたい幻想を捨てたい。

ここでは外見を変える身体変工に注目しましたが、見かけをふるまいにまで拡張させれば、似たような事例はもっとあります。寝坊をしたら朝ご飯を抜いて会社に駆けつける、仕事を終わらせるためへとへとなのに長時間の残業をする。こういうふるまいもよくよく…

宮野真生子、磯野真穂 著『急に具合が悪くなる』より。急に具合が悪くなる。でもだからこそ、或いは、だからといって。

次々とふりかかる「かもしれない」の中で動きが取れなくなる。「死から今を照らして悔いのない生き方をする」ことについて宮野さんが感じる欺瞞や、次々とリスクが提示される中で「ふつうに生きてゆく可能性がとても小さくなった気がする」感覚は、こんな構…