子どもたちにとって学校がより良い場になることを願う団体や、学校を支援したい、学校と協働したいと考えている団体はたくさんあります。校内や教育委員会内のリソースだけで何とかしようとせず、ぜひ外部のリソースをうまく活用してください。
(吉村春美『みんなが「話せる」学校』学事出版、2024)
おはようございます。給特法には手をつけないそうです。現状の枠組みを維持したまま、教員調整額を少しだけアップさせてお茶を濁すそうです。中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の委員さんたちが話し合っているという、教員の待遇改善に向けた「素案」の話です。斎藤ひでみ(西村祐二)さんによれば、それはずっと主張してきた「最悪の結末」とのこと。最悪の結末が何を意味するのかといえば、それは、
長時間労働の放置です。
この問題、「調整額を4%から10%にしますでシャンシャン!」に済ませたら、おそらく「今後、50年は変わりませんよ」。だってこの問題は「50年変わらなかった」んです。わたしは50年後に、希望に満ちた若いひとが教職に集まる「未来の光景」を想定できません。
— 中原淳(なかはらじゅん) (@nakaharajun) April 13, 2024
吉村春美さんの大学院時代の指導教員だったという、中原淳さんが怒っているのも当然です。長時間労働に目を瞑ったまま、半数以上が休憩時間ゼロというノンストップ労働にも目を瞑ったまま、みんなが「話せる」学校をつくろうとしても、あるいは「外部のリソース」をうまく活用しようとしても、その学校に「すごい先生」と「すごい校長」がいない限り、
無理ですから。
吉村春美さんの『みんなが「話せる」学校』を読みました。昔々、吉村さんとはお会いしたことがあって、授業も観に来ていただいたことがあって、そのときに博士論文を一般書としてまとめるという話も伺っていて、
以来、待つこと数年。
吉村春美さんの『みんなが「話せる」学校』読了。吉村さんとはお会いしたことがある。縁を育むことができず、コラボには至らなかったけど、当時お話ししていた本がかたちになってよかった。内容もよかった。帯にある中原淳さんの言葉もよかった。学校は、外部のリソースを積極的に活用すべき。#読了 pic.twitter.com/rzqXKAwbfM
— CountryTeacher (@HereticsStar) April 10, 2024
コロナ禍を乗り越えての有言実行、さすがは中原淳さんの教え子です。中原さんと吉村さんに中央教育審議会に入ってほしい。そして、希望に満ちた若いひとが教職に集まる「未来の光景」をつくってほしい。以下、目次です。
第1章 今こそ、教員一人ひとりを大切にする学校づくりを
第2章 「教員一人ひとりのウェルビーイングを大切にし、挑戦する学校」のつくり方
第3章 「学び、挑戦する学校」の土台は「対話」から
第4章 今求められる「新しい」リーダーシップ
第5章 学校は対話で変わる! ―― 大きく変わった3つの小学校
第6章 対話で創る学校の未来
吉村さんの主張の核は「関係性の質を高めよう!」というところにあります。関係性の質が高まれば、思考の質が高まり、行動と結果の質も高まり、元に戻って関係性の質がさらに高まって、
好循環が生まれる。
もうピンときていると思いますが、そうです、ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」です。
教員の長時間労働、メンタルヘルスの悪化、離職者の増加など、問題の多くは「関係性の質の低下」が関係しています。学校現場で起きている問題がなかなか解決できないままになっていた背景には、「関係性の質」に着目することが不充分だったことが大きな要因となっているのです。
この「関係性の質」に着目したときに、必要とされるのが「対話」というわけです。サブタイトルが「対話で学びと挑戦の土壌を創る」となっているのは、そういった理由です。ちなみに吉村さんはこの「関係性」を「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」という言葉に置き換えて論を展開しています。簡単にいえば、教員のみなさんは学校内外につながりをつくって、多様な人たちと協働しましょう(!)という話です。西智弘さんいうところの『社会的処方』に近い見方・考え方といえるのではないでしょうか。
で、実際に「対話」と「外部とのコラボ」の合わせ技で大きく変わった3つの小学校が紹介されています。京都市立葵小学校と沖縄県うるま市立中原小学校、それから埼玉県戸田市立美女木小学校の3校。中原さんの《博士論文の実証研究だけでなく、学校でどう実装できるかを書いたほうがいい》というアドバイスがかたちになった「実装例」です。
研修の講師には、ファシリテーションや組織開発の専門家である合同会社ファミリーコンパス代表の渋谷聡子さんを招きました。3章で述べたように、対話には4つのフェーズがありますが、特に「生成的な対話」を行うことは簡単なことではありません。だからこそ、渋谷さんのようなファシリテーションの専門家の支援を受けながら「生成的な対話」を体験し、どうすれば表層的な会話ではなく深い対話ができるのかを教員が体験から学ぶ必要がありました。
昔々、渋谷さん(with 吉村さん)にも授業に来ていただいたことがあります。渋谷さんはカリスマなんですよね。圧倒的なカリスマです。だから正直、こう思ってしまいます。渋谷さんが介入した京都市立葵小学校については、
一般化は難しいな、と。
とはいえ、対話の時間のカリキュラム開発の仕方や保護者との協働など、学ぶべきところはたくさんあります。ぜひ手にとって読んでみてください。
- おかしいなと思うことについて管理職や皆と話す機会がない
- 対話したいのに意外とフリーで対話できる時間がない
- 時間を作りだせない
- 職員室にいる時間が少ない
- 日常的に話をする時間がとりにくい
- 時間
これは美女木小学校の教員が「対話の時間」の研修の中で出したという、組織の課題の一部です。美女木小と中原小は吉村さんが共同代表を務めるNPO法人「学校の話をしよう」が支援したとのこと。支援を通して、これらの課題を解決していくわけですが、冒頭の話につなげると、やはりこう思ってしまいます。長時間労働を放置したまま、普通の学校が、みんなが「話せる」学校を目指すのは難しい。外部のリソースを活用するのも難しい。とにかく、
時間がほしい。
本年度は6年生の担任です。4年、5年、6年と持ち上がりです。年間を通して協働予定の外部のリソースは大学と企業と一般社団法人の3つ。4年のときからコラボしている大学の先生は「協働することで先生たちの働き方が変わればいい」と話し、進んで授業に入ってくれます。同じく4年のときからコラボしている一般社団法人の代表の方は「若い先生たちが病まないようにしたい」と話し、教員と地域の大人をつなげるための対話の場を継続的につくってくれます。外部とのコラボと対話のハッピーセットといえるでしょうか。いずれにせよ、そういった人たちとつながるためにも、
長時間労働の解消で、学びと挑戦の土壌を創る。
まずはそこからだ。