2024-01-01から1年間の記事一覧
単語を一つ書きとめるたび、不思議に胸がさわいだ。この本を必ず完成させたい。これを書く時間の中で、何かを変えることができそうだと思った。傷口に塗る白い軟膏と、そこにかぶせる白いガーゼのようなものが私には必要だったのだと。(ハン・ガン『すべて…
「これからどうすればいいんでしょう? 本はぼくらを助けてくれるんでしょうか?」「必要なものの三つめが手にはいりさえすれば。ひとつめは、最前いったとおり、情報の本質だ。二つめは、それを消化するための時間。そして三つめは、最初の二つの相互作用か…
低学年くらいのときは、たいした思い出がない。たまたま一緒にいる子と遊んでいるという感じかな。自閉スペクトラム症的なエピソードはちょこちょこあって、場の空気を凍らせたりとかは、ありました。人の心がないっていうか。道徳の授業で、車に撥ねられた…
学生に好かれるために教師をしているのではない。これは、幼稚園や小学校の先生でも同じである。子供に好かれることを動機や目的としていたら、先生として失格だ、と僕は考える。親も同じである。子供に好かれるために子育てをしているのではない。もちろん…
―― では、職員室での人間関係を除けば、教員生活も必ずしも不満ではなかったのですね?―― そうですね。(平野啓一郎『富士山』新潮社、2024) こんばんは。おそらくは学芸会の後に飲み会を開いて、そこにいない職員の噂話や悪口で盛り上がるような《職員室で…
他者に認められたい、という承認欲求が、このネット社会ではやや加熱しているように観察される。現代の子供たちは、相対的に大勢の大人に保護されている。しかも、褒めて育てる教育法が主流となっているから、幼い頃から、とにかく褒められるだろう。なにを…
ある一つの職業の偉大さは、もしかすると、まず第一に、それが人と人を親和させる点にあるのかもしれない。真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ。(サン=テグジュペリ『人間の土地』新潮文庫、1955) こんばんは。上記の引用の…
約6年後の1976年、日本の対中外交に背中を押される形で、米国もついに中国との国交正常化に踏み切るのです。 日中国交正常化以降、日中間の貿易額は7年間で6倍に増加していました。これに強い危機感を抱いたのが、米国の経済界でした。将来的に大きな…
まあ、そりゃ学校では推しの語り方、なんて授業はありませんよね。当然です。 でも、考えてみてください。読書感想文の宿題はありましたよね。 なんでもいいから一冊本を選んで、感想を夏休み中に書いてきてね、と学校の先生から言われたことがあるはずです…
共通項を抽象化すると、大人は「言葉、法、損得」へと閉ざされていて、子どもは「言外、法外、損得外」に開かれています。個体発生は系統発生を模倣するというヘッケルの法則は出生後にも拡張できます。これら子どもの特性は、数十万年オーダーで続いた遊動…
宮台 90年代の僕は一貫して、日教組的な言説に対抗してきました。日教組の「万人に無限の力がある」に対し、僕は「人ごとに違う凸と凹が噛み合って尊敬できるコラボがいい」と強調。「勝つ喜びよりも分かる喜びが大切だ」に対し、「感染動機さえあれば、す…
行き場のない気持ちを抱えながら、家業の全てを否定するしか進む道はなかった。そこから一つ一つを変えていく。たとえ、どんなに辛い作業だったとしても、彼は信念を貫き通す。 なんと強靱な精神なんだろうと、私は圧倒された。「父と母、そして従業員の全部…
そんな彼らの発信するニュースや写真を目にするたびに、私は彼らに対する尊敬の念と同時にある種の安堵感のようなものを覚えた。 自分は決して一人ではない――。 サン=テグジュペリが砂漠で墜落し、一滴の水も飲めずに砂の大地をさまよい歩き続けていたとき…
他者 ―― 意味の他者 ―― は、固定された論理空間のもとでは姿を現さない。たとえ他者との出会いによって新たな論理空間が私のもとに開けたとしても、そこに位置づけられ理解された他者はもはや他者性を失った残滓でしかない。他者の他者性は論理空間の変化の…
渡船は野生種だからこそ、のびのび育つのだと言います。「野生種は、人に育ててもらおうと思って生まれた米ではないために、自分で子孫を残そうするちからがあるので、もう、言うことを聞かないんです(笑)。でも、そこがかわいい。甘やかすと、どんどん伸…
私にとって日本酒とは、飲むとホッとして肩の力が抜け、ゆっくりと日が沈むように、酔いが下へ下へと降りていくお酒です。 ところが、「AKABU 純米吟醸」を飲むと、一瞬、上半身がふっと5ミリ浮く、気がします。 もちろん、この酒も日本酒特有の肩の力が抜…
文部科学省に関しても、科学部門は残す必要がありますが、教育部門は要りません。教育は地方自治の根幹ですから、江戸時代の諸藩の藩校のような形で、300の圏域に教育の権限を付与すればよいと思います。これは昔話ではなく、世界を見ても、現在ほとんど…
まだ書いていこう、輝先生が前にいるんだもん、と私は素直に思った。輝先生は昔に会ったときよりもうんと強く大きくなっていた。私も大きくなっていたきたい、こんなふうに、大きな木のように、そう思った。(宮本輝、吉本ばなな『人生の道しるべ』集英社文…
磯田さんは子どものころ、倉敷市にある弥生時代の墳丘墓、楯築遺跡に、岡山の自宅から何度も通っていた。自転車で10㎞の道のりである。雨の後、土器のかけらを探しに来ていたそうだ。そして、小学生のとき、自分の身長くらいの古墳を作ったそうだ。古墳の…
共同生活をするスナフキンは、不在のムーミン一家がとても恋しくなります。それはこの一家のメンバーのニューロマイノリティの特性が強く、それぞれの自閉度が高いからです。 はっと急に、スナフキンは一家のことが恋しくて、たまらなくなりました。あのひと…
プロテスタント系コミューンの信仰者としての森と初代文部大臣としての森をつなぐ一本の線を、園田英弘は「制度」への関心と要約している。園田によれば、『明六雑誌』時代までの前期の森の発言を重視して彼を自由主義の思想家と見る議論も、文部大臣となっ…
織元は、ダム建設に純粋に命を懸けている。なぜそれほど命懸けになるかは詳しく描かれていない。しかし、この小説が、足掛け8年に及ぶ補償交渉が1956年(昭和31年)に妥結した福島県只見川田子倉ダム補償事件をモデルにしていることを考えると彼の立…
「あのころの太宰は、あなたに相当あこがれていましたね。実際、そうでした。」 桃子さんは、びっくりした風で、見る見る顔を赤らめて、「あら初耳だわ。」 と独りごとのように云った。「おや、御存じなかったんですか。これは失礼。」「いいえ、ちっとも。―…
清水 僕もいくらか農村調査はやってきましたけど、確かに今はもう日本の農村に行っても、戦前の暮らしが垣間見えればいい方で、とても前近代は体感できないんですよね。だから、これから前近代史研究を志す人は世界の辺境に行ってみた方がいいのかもしれませ…
私はじっくり飲んで酒をわかりたい亀タイプ。唎き酒に近いちょっと口をつけた(喉を通した)程度の酒は、ただ上澄みをかすったようなもので、知っている銘柄にはカウントしていない。名前を聞いたことはある、てな具合。20年かけてようやく知っている銘柄…
そこで私はふと毎夏ニュースになる「パチンコをやっていて子どもを高温の車中に置き去りにしてしまう」親のことを思い出しました。もし私にもっと仕事のストレスがかかっていたら? 家族からDVを受けていたら? 子猫よりもっともっと手のかかる人間の赤ち…
「酒屋万流」ということばがあるのですが、酒蔵によって「米を洗う」作業ひとつとっても手法は異なります。また、つくり手はとても研究熱心なので毎年のように新しい試みにチャレンジし、技術は時代ごとにどんどん更新されています。(山内聖子 著『Beginnig…
われわれは、このような道徳と経済が今もなお、いわば隠れた形でわれわれの社会の中で機能していることを示すつもりである。また、われわれの社会がその上に築かれている人類の岩盤の一つがそこに発見されたように思われる。それらによって、現代の法と経済…
あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。(宇佐見りん『推し、…
幸せな人たちの1日の大部分は、普通の人と同じです。 しかし、ひとつだけ大きな違いがあったのです。(今井孝『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』すばる舎、2024) こんばんは。著者の人柄でしょう。とても親切なタイトルです。タイトルの『いつも…