田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2024-01-01から1年間の記事一覧

井伏鱒二 著『太宰治』より。縁は二人で育むもの。

「あのころの太宰は、あなたに相当あこがれていましたね。実際、そうでした。」 桃子さんは、びっくりした風で、見る見る顔を赤らめて、「あら初耳だわ。」 と独りごとのように云った。「おや、御存じなかったんですか。これは失礼。」「いいえ、ちっとも。―…

高野秀行、清水克行 著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』より。空前絶後の奇書!

清水 僕もいくらか農村調査はやってきましたけど、確かに今はもう日本の農村に行っても、戦前の暮らしが垣間見えればいい方で、とても前近代は体感できないんですよね。だから、これから前近代史研究を志す人は世界の辺境に行ってみた方がいいのかもしれませ…

山内聖子 著『日本酒呑んで旅ゆけば』より。酒縁も書縁も、育むもの。

私はじっくり飲んで酒をわかりたい亀タイプ。唎き酒に近いちょっと口をつけた(喉を通した)程度の酒は、ただ上澄みをかすったようなもので、知っている銘柄にはカウントしていない。名前を聞いたことはある、てな具合。20年かけてようやく知っている銘柄…

松本俊彦、横道誠 著『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』より。依存は回復の始まり。

そこで私はふと毎夏ニュースになる「パチンコをやっていて子どもを高温の車中に置き去りにしてしまう」親のことを思い出しました。もし私にもっと仕事のストレスがかかっていたら? 家族からDVを受けていたら? 子猫よりもっともっと手のかかる人間の赤ち…

山内聖子 著『Beginnig Nihonshu・Japanese Sake ~はじめての日本酒~』より。酒屋万流、教室万流。

「酒屋万流」ということばがあるのですが、酒蔵によって「米を洗う」作業ひとつとっても手法は異なります。また、つくり手はとても研究熱心なので毎年のように新しい試みにチャレンジし、技術は時代ごとにどんどん更新されています。(山内聖子 著『Beginnig…

マルセル・モース 著『贈与論』より。この本自体が、贈与。

われわれは、このような道徳と経済が今もなお、いわば隠れた形でわれわれの社会の中で機能していることを示すつもりである。また、われわれの社会がその上に築かれている人類の岩盤の一つがそこに発見されたように思われる。それらによって、現代の法と経済…

宇佐見りん 著『推し、燃ゆ』より。この本、推します。

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。(宇佐見りん『推し、…

今井孝 著『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』より。タイトルが全てを物語っています。

幸せな人たちの1日の大部分は、普通の人と同じです。 しかし、ひとつだけ大きな違いがあったのです。(今井孝『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』すばる舎、2024) こんばんは。著者の人柄でしょう。とても親切なタイトルです。タイトルの『いつも…

谷崎潤一郎 著『陰翳礼讃』より。西洋の明るみに、日本の暗がりの深さがわかるものか。

拠んどころなくこういう風に致しましたが、やはり昔のままの方がよいと仰るお方には、燭台を持って参りますという。で、折角それを楽しみにして来たのであるから、燭台に替えて貰ったが、その時私が感じたのは、日本の漆器の美しさは、そういうぼんやりした…

千葉雅也 著『現代思想入門』より。別に飲みに行きたきゃ行けばいいじゃん。

ここでデリダに戻ってみます。 一方で、二項対立を組み立てることでひとつの意味を固定しようとするのが常識的思考です。たとえば「大人は優柔不断であってはいけない」といったもの。そこでは暗に子供的なあり方や、決断が揺らぐことが排除されています。そ…

磯田道史 著『日本史を暴く』より。教科書にはない史実を学び、授業に役立てよう。

日本では修学旅行は明治十年代から師範学校などで始まった。最初は「長途遠足」などと言っていたが、明治二十年に『大日本教育会雑誌』に「修学旅行」の文言が登場。翌年、「尋常師範学校設備準則」で、修学旅行は「定期の休業中に於て一ヶ年六十日以内」で…

汐見稔幸 編著『学校とは何か』より。公立の学校のおもしろさは、世界に一番近い状態にあるというところ。

教育は歴史的に古くからあったのですが、本書でも先に述べたように(73ページ参照)、全てはすぐれた師を見つけ、弟子入りを願い、許されて教えを請う関係に入る形で行われてきました。 ところが現代の学校は異なります。教員は、教える方法のプロですが、…

今井むつみ、秋田喜美 著『言語の本質』より。はじめに身体接地ありき。はじめにオノマトペありき。はじめに初等教育ありき。

日本語の音象徴における清濁の重要性は、それがオノマトペ以外でも見られることからもわかる。「子どもが遊ぶさま」の「さま」に対して、「ひどいざま」の「ざま」は軽蔑的な意味合いを持つ。「疲れ果てる」の「はてる」に対する「ばてる」んもぞんざいなニ…

鶴見済 著『0円で生きる』より。無料のやり取りの輪を作る。

それほど遠くない昔、我々は効果的にシェアを行っていた。小津安二郎監督の1953年の映画『東京物語』のなかにこんなシーンがある。 田舎から出てきた老夫婦が、一人暮らしの娘のアパートの部屋にやってきた。そこで娘は隣の部屋の主婦から酒を借りに行く…

小川糸 著『針と糸』より。大きな決断をしなければ、見えない景色がある。

私にその意思さえあれば、ここで遊牧民として生きることだって、決して不可能ではないということ。自分はそれくらい自由で、どこにでも住めるのだ、とはっきり自覚したのである。そうしたら、ものすごく楽になった。自分をがんじがらめに縛っていたのは、他…

猪瀬直樹 著『持続可能なニッポンへ』より。持続可能な公教育へ。

東京都足立区では児童・生徒数の42.5%が就学援助を受けている、と朝日新聞は格差の拡大の証明のように報じた(06年1月3日付)。だが足立区では4人家族で年収329万円~412万円(幅は家族の年齢構成による)、また6人家族は年収410万円~5…

さくらももこ 著『ひとりずもう』より。私の人生は私のものでしかない。

夏休み前に、短大の国文科への推薦希望者は、作文の模擬テストを受ける事になった。私は作文は得意だったので、気軽な気持ちで作文を書いた。 その作文が、ものすごくほめられた。評価のところに、「エッセイ風のこの文体は、とても高校生の書いたものとは思…

猪瀬直樹 著『この国のゆくえ』より。政局ではなく、政策を報じてほしい。

2005年夏、郵政国会は参議院でヤマ場を迎えていた。新聞社の政治部は、解散だ、解散だ、と煽り立てている。政治記者は首相の交替だ、いや政権交替だ、と騒ぎたい。政局が仕事だと勘違いしている。彼らにとって4年も続く長期政権は、髀肉の嘆を託つもの…

小川てつオ 著『このようなやり方で300年の人生を生きていく』より。やりたい事をやる。

さらにいえば、このような旅行をしていると必ず「若いうちだけだよ」とか「思い出作りにね」とかいう言葉をはげましとして言われたのだが、これもあたいは、イヤだ。旅行をいつまで続けるかということではなく、このようなやり方・精神で、三百年の人生を生…

上田岳弘 著『旅のない』より。芥川賞作家が紡ぐ4つのストーリー。

ナビを見ると、新幹線の駅まで残り10分ほどだった。僕は、彼が撮ろうとした映画の話を切り出すタイミングを見計らっていた。なぜか気になっていた。それは言葉に置き換えるべき何かが発見できる予感があったからかもしれない。時々、そんなことがある。言…

さくらももこ 著『ももこの世界あっちこっちめぐり』より。ももこは天才だし、子供心を失っていない。

そこはもう、ガウディの世界一色だった。ガウディの世界に触れた人は皆「ガウディは、子供心を失っていない天才だ!!」と一様に言うが、まさしくその言葉に尽きる。ガウディは天才だし、子供心を失っていない。(さくらももこ『ももこの世界あっちこっちめ…

伊坂幸太郎、東野圭吾、他『時ひらく』より。じつに素晴らしい。

仙台駅の西口方面には、東西に走る大通りが三つあり、北から、「常禅寺通り」「広瀬通り」「青葉通り」と名前がついている。その常禅寺通りを駅側の端から十分ほど歩いたあたり、大きな交差点の角に百貨店「三越」があった。建物は二つあり、常禅寺通りにく…

小池陽慈 編『つながる読書』より。本に対する愛を紐帯として、つながろう。

私、今回の企画にあたってお声がけした方々の全員と、つい数年前まではまったくの他人だったんです。それが、SNSや各種のイベントを通じ、こうしてつながった。もちろん、本に対する愛を紐帯として。すごいですね。本は、人と人とをつなげてくれるんです…

吉藤健太朗 著『「孤独」は消せる。』より。念願の「分身ロボットカフェ DAWN」に行ってきました!

テクノロジーが進歩し、インターネットで世界中の誰とでもリアルタイムにやりとりができて、ネットで注文したものが即日届くこの時代。それでも我々は毎日顔を洗い、着替え、時間をかけてバスや電車に乗って教室やオフィスに集まる。なぜだろうか。朝起きて…

授業づくりネットワーク編集委員会 編『揃わない前提の授業を見る・感じる・考える』より。定時に準備が終わる前提の授業も考えたい。

ネットワーク運動というのは、「異質な者どうしの学び合い」を方針に掲げているので、私は当時、大学の先生や企業の方など色んな人と関わっていく中で、自分の実践にもすごく役立つし、面白かったので、続けてきました。今、石川さんが向山さんとは別の方向…

池波正太郎 著『ル・パスタン』より。あなた様はまだ生活をご存じないのでは……。

ジュリオは、子供たちにあたえる果実ひとつにも季節が消えてしまった現代をなげいて、「いまは、いつでも何でもある。けれど、子供に思い出がなくなってしまった」 と、哀しげに、つぶやく。 思い出をもたぬ人間の不幸を、現代人は不幸とおもわぬ。国の歴史…

大岡昇平 著『野火』より。戦争を知らない人間は、半分は子供である。

或る時、川は岸からかしいだ大木の蔭で、巨大な転石の間を早瀬となって越し、渦巻いていた。私は靴を脱し、足を水に浸した。足の甲はいつか肉が落ち、鶏の足のように干からびて、水に濡れにくかった。手の皮膚も骨に張りつき、指の股が退いて、指が延びたよ…

宮崎智之 著『モヤモヤの日々』より。普通のまま発狂したい。

父は中也の代表的な詩「サーカス」の「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という擬音に戯けた抑揚をつけて、僕に聴かせてくれた。それが耳に残り、何度も何度も朗誦をせがんだものだ。父自身は「含羞」という詩が好きで、「なにゆゑに こゝろかくは羞ぢらふ」と…

新藤宗幸 著『教育委員会』より。今も昔も、なぜ、教育委員会が問われるのか?

ほんとうにこの国は、「過剰同調社会」ではないだろうか。経営組織における業績評価と成績主義は行政組織にも導入されるべきだとの言説が展開されるのは、1990年代以降である。いわゆるNPM(新しい行政管理)として、イギリスやニュージーランドには…

堀越英美 著『親切で世界を救えるか』より。学校道徳とは異なる「ケアの倫理」とは?

大正時代の貧しい炭焼き小屋の長男として生まれ、父亡きあと母を支えて家業と弟妹の世話と家事を担っていた炭治郎の行動の基盤は、「ケアの倫理」にある。ケアの倫理とは、儒教道徳のように秩序を守るために一般化された原理ではなく、それぞれ異なる他者の…