田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

横道誠 著『唯が行く!』より。大切なのはポリフォニー、複数性の共存です。

 一対一の対話は、たしかに既に「ダイアローグ」なのです。でもオープンダイアローグとしては不充分なんです。ひとつの声でもふたつの声でもなく、多数の声が響いてほしい。というのも、声がふたつだけならハーモニーを奏でやすく、つまり調和しやすく、結果的にモノフォニーとなってしまうからです。大切なのはポリフォニー、複数性の共存です。
(横道誠『唯が行く!』金剛出版、2022)

 

 こんばんは。ニューロマイノリティー(神経学的少数派)の横道誠さんらしい見方・考え方だなぁと思いつつ、教室につくっていかなければいけないのもポリフォニー、複数性の共存だなぁと、続けてそう思いました。教室だけでなく、職員室も然りです。不登校が増えているのも、教員の精神疾患が増えているのも、もしかしたらポリフォニーという概念の暗示すらなくなってきたことが原因かもしれません。目指す児童像とか、教員に求められる資質能力とか、なぜ「複数性の共存」と真逆のメッセージを出していることに違和を覚えないのでしょうか。横道さんの言葉を借りれば、ひとつになんかならないし、

 

 なれないのに。

 

唯が行く!

唯が行く!

Amazon

 

 横道誠さんの『唯が行く!』を読みました。副題は「当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記」です。当事者研究というのは《苦労に関する研究テーマを経て、「生きやすく」なるための「自助」の物語を作る》研究のこと。オープンダイアローグは、もともと統合失調症の治療のために開発されたもので、《クライアントが新しい人生の物語を作るのを、そのクライアントが属する共同体ごと進めることを目的とする》療法のことです。当事者研究とオープンダイアローグの共通点のひとつは、

 

 新しい物語をつくるということ。

 

 なぜ新しい物語をつくる必要があるのかといえば、それはもちろん「自己変容」のためです。自己変容が起きて現在を肯定することができれば、過去の苦労も《運命が用意してくれた大切なレッスン》になる。もちろんこれは、松任谷由実さんの「ダンデライオン」の歌詞の一節です。

 

 きみはダンデライオン 傷ついた日々は彼に出逢うための
 そうよ 運命が用意してくれた大切なレッスン 今素敵なレディになる

 

 近内悠太さんが新刊の『利他・ケア・傷の倫理学』にこの歌詞を引用しているんですよね。その近内さんの新刊の副題は「『私』を生き直すための哲学」です。どうでしょうか。似ていると思いませんか。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 

 ナラティブ・セラピーについての説明は端折りますが、ナラティブ・セラピーの課題を発展的に解消したのが当事者研究であり、オープンダイアローグであると思ってください。おそらく、当たらずとも遠からず。いずれにせよ、横道さんも近内さんも、そして批評家の東浩紀さんも、同時多発的に「自己変容を促す個人史の再構築」を謳っているというわけです。それぞれ違う声で。すなわちポリフォニーで。

 

 なぜ?

 

 生きづらさを抱えている人が増えているからでしょう。例えば、性別違和を感じている☆乃さんの場合。

 

☆乃 いまの悩みは、もう人生に疲れはてたということ。働きに出ると、帰ってくる途中で休憩しないと帰れないくらいに疲れてしまいます。お風呂や夕食の準備に辿りつけずに、化粧も落とさずに寝入ってしまう。いま参加している会も、参加中は楽しいのだけど、家に戻ると虚しいやらなんやらで、押しよせた疲労に対処できません。それでここに来るのが億劫になり、何年もご無沙汰してしまいました。

 

 ☆乃さんの当事者研究から始まり、この後、オープンダイアローグ的なことに移行していきます。

 

Q菜さん ・・・・・・。
 ☆乃さん、私たち発言してもよろしいでしょうか。
☆乃さん 喜んで。
Q菜 じゃあ、みんなで☆乃さんにいろいろ質問する時間だ。まず私からやる。☆乃さん、答えたくなかったら答えなくていいんですが、ねぎらってくれる存在は身近にいますか。

 

 ねぎらってくれる存在、かぁ。私も「蕣」(あさがおと読みます)に参加したくなってきました。「蕣」というのは、当事者研究とオープンダイアローグにチャレンジしている「自助グループ」の名前です。この「蕣」を舞台に、著者である横道さんがリアルワールドで行ってきた取り組みをフィクション仕立てで教えてくれるのが『唯が行く!』というわけです。

 

 読者も行く!

 

 自助グループ内の対話だけでなく、途中、横道さんのアバターによる講義も挟み込まれていて、これがまた勉強になるんです。中動態だったり、ハイデガーだったり、バフチンの『ドストエフスキーの詩学』の話だったりが出てきますから。詳しくはぜひ手にとって読んでみてください。

 

 

 新年度が始まり、3日が経ちました。正直、帰ってくる途中で休憩しないと帰れないくらいに疲れています。休憩のお供は横道さんの本です。疲れていますが、生きづらさも感じていますが、楽しいこともあります。

 

 雨、ときどき曇り、まれに晴れ。

 

 おやすみなさい。