田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

谷口たかひさ 著『シン・スタンダード』より。教員が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから。

 僕は、毎日のように全国の学校で講演させてもらっている。
 そんななか違和感を抱くのは、今の日本の小学校の先生たちの驚きを隠せないほどの「仕事量の多さ」だ。
 通知表だって、とても大変な仕事のはず。
「当たり前のようにある」「これまでもそうしてきた」という先入観を取っ払い、なくすことができたなら、子どもたちはもっと勉強が好きになるかもしれないし、そうなれば、親たちもガミガミ言わずに済むはず。
(谷口たかひさ『シン・スタンダード』サンマーク出版、2023)

 

 おはようございます。引用は、本の表紙に「デンマークでは通知表禁止?」と書かれている、谷口たかひささんの初著書より。試しに ChatGPT に「小学校の通知表を禁止、あるいは制限している代表的な国を5ヶ国教えてください。その理由も教えてください。学級通信に掲載したいので正確に教えてください。」と入力すると、次のように出てきます。

 

 1. フィンランド
 2. スウェーデン
 3. ノルウェー
 4. アイスランド
 5. デンマーク

 

 5ヶ国ではなく、10ヶ国としても出てきます。ではなぜ、それらの国では通知表をなくしたのでしょうか。その理由については、ぜひ ChatGPT を使って調べてみてください。

 

「攻めてますね(笑)」。

 

 学級通信を読んでくれた同僚(6年担任、多忙)にそう言われました。別の同僚(ママ先生、多忙)には「管理職に響けばいいけど……」とメッセージをもらいました。響かなくても、

 

 攻め続けなければいけません。

 

 一昨日の夜に教育居酒屋で出会った茅ヶ崎市の教育関係者が、「校長次第」と話していました。茅ヶ崎市立香川小学校が通知表を廃止した(!)というニュースは記憶に新しいところです。

 

 校長次第。

 

 いずれにせよ、これまでにもそうしてきたからって、当たり前のように勤務時間外に通知表の所見を書くのはおかしい。勤務時間外に勝手にやっている仕事という位置付けなのに、細かくチェックが入って書き直しを命じられたりするのもおかしい。教育先進国と呼ばれている国々が禁止、あるいは制限をしている代物に子育ての時間を奪われるのはおかしい。昨夜会った産婦人科医で働く医師の知り合いが「10年前に働き始めたときの出生数は100万人だったのに、今では75万人。10年後には50万人を下回ると予想されている。お産が少なくなっていることを肌で感じている。寂しい。産婦人科もそうだけど、この寂しさは、学校はもちろん、今後あらゆる分野に広がっていく」というようなことを話していました。通知表なんて書いている場合ではないんです。教員に限らず、働き方を変えなければいけないんです。「教育を通して HIV などに代表される性的な営みの危険性を煽るだけ煽っておきながら、そういったことの素晴らしさを教える機会が、学校にはほとんどない。フランスやハンガリーのような少子化対策を採り入れるわけでもない。衰退していくのみ。寂しい」というようなことも続けて話していました。日本社会にシン・スタンダードが求められる所以です。

 

 

 谷口たかひささんの『シン・スタンダード』を読みました。書店で見つけ、表紙に載っている「デンマークでは通知表禁止?」という言葉に惹かれてパラパラとめくったところ、通知表の所見に追われてこころの余裕を失っていた私にも読みやすそうな構成だったので購入しました。著者の谷口さんは《80ヵ国を渡り歩き世界に精通する、人気インスタグラマー》だそうです。世界を渡り歩いた結果、言い換えると多くを比べた結果、旅(多比)の効能でたくさんの「ここがヘンだよ日本人」を発見したのでしょう。それを処女作としてまとめたというわけです。ここがヘン(!)として言及されている内容(CHAPUTER)は、HAPINESS、MONEY、EDUCATION、FOOD、POLITICS、RULE、ENVIRONMENTの7つ。副題は「日本人が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから」です。

 

 教員が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから。

 

「おすすめの本」をよく聞かれるが、そんな時は「スウェーデンの小学校の社会科の教科書」と答えている。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 CHAPTER3の「EDUCATION」より。スウェーデンの教科書では「SNSで世界の人に影響を与えられます」って教えているんですよね。SNS の危険性だけを煽りがちな日本の教育とは大違いです。同 chapter にはこんなことも書かれています。

 

 大学からは、イギリスに留学した。
 その後は80ヵ国ぐらいを訪れ、直近はドイツに移住した。
 一緒に活動しているドイツ人の女性に聞いて驚いたのは、ドイツでは成績評価の60%は「授業中の発言」で決まるということだ。


 つまり、
・授業中に、自分の意見を主張できたか
・他の人の意見を尊重できたか
 この2つの点が成績を左右していたというのだ。

 もちろん、そういう社会では、「自分の意見を主張し、人の意見を尊重しよう」とする人が育まれるだろう。

 

 13年前の日本の震災を機に原発をやめたドイツが、原発をやめられない日本の名目 GDP を抜き去ったのは、つい最近のこと。社会学者の宮台真司さんの言い回しに「原発をどうするか」から「原発をやめられない社会をどうするか」へ、というものがありますが、それを援用すれば「通知表をどうするか」から「通知表をやめられない学校をどうするか」へ、となります。さて、どうするか。自分の意見を主張し、

 

 攻め続けるしかないでしょう。

 

 

 アイスランドでは週休3日が当たり前(!)など、教育以外のこと(HAPINESS、MONEY、FOOD、POLITICS、RULE、ENVIRONMENT)に関しても、目から鱗の世界常識(日本の非常識)がたくさん載っている一冊です。シン・スタンダードをつくっていくために、ぜひ手にとって読んでみてください。

 

 今週末は卒業式です。

 

 晴れますように。