私はじっくり飲んで酒をわかりたい亀タイプ。唎き酒に近いちょっと口をつけた(喉を通した)程度の酒は、ただ上澄みをかすったようなもので、知っている銘柄にはカウントしていない。名前を聞いたことはある、てな具合。20年かけてようやく知っている銘柄のほうが増えてきたぐらいだ。
日本酒を書く人間としては、ずいぶんのんびりしすぎだと言われることもあるが、それでいい。知らない銘柄があるとは、これからも新しい酒の縁があるということ。「日本酒で知らない銘柄はない」と無理して大きく構えるよりも、何年経っても知らない酒があるとわくわくしていたい。しかも今までの経験上、そんな呑気なスタンスでいたほうが素直によい酒縁を引き寄せるのだ。
(山内聖子『日本酒呑んで旅ゆけば』イースト・プレス、2024)
こんばんは。母親の傘寿祝いに日本酒をプレゼントしようと思って近所の酒販店に足を運んだところ『Beginnig Nihonshu・Japanese Sake ~はじめての日本酒~』と題した小さな本が「無料でどうぞ」と置かれていたので日本酒ビギナーとしては「もらわない手はない」と思って一冊いただき家に帰ってから早速読み始めたところ表紙にも裏表紙にも作者の名前が書かれていなくてそれは書き手に失礼なんじゃないのと思いながら奥付を確認したところ構成/文のところに山内聖子とあっておそらくはこの人がメインのライターさんなんだろうなと勝手に判断しつつ好奇心が芽生えたので検索してみたところ山内さんはただのライターではなく「呑む文筆家」であると同時に「唎酒師」でもあってしかも何冊も本を出しているようでちょっとというかかなり頭の中が朝井リョウさんの「何者」みたいになってそういえば店頭に緑色の『日本酒呑んで旅ゆけば』が10冊近く置いてあったなと思い出したのでいつかあの本も読もうってパソコン上の積読リストに加えつつとりあえず前々回のブログにその小さな本の感想を書いて山内さんの名前も入れて公開してエックスにもポストしたところなんと山内さん御本人にリポスト&フォローしていただくという僥倖に恵まれあれよあれよという間に Facebook でもつながって句読点のない文章は酔いやすいかもしれないっていう感想はさておきこれってもしかしたら、
酒縁?
その縁が酒をきっかけにした酒縁だろうが、書をきっかけにした書縁だろうが、このブログで何度も書いているように、
縁は育むもの。
ありがとうございます😊
— 山内聖子 (@kiyoyoyamauchi) September 18, 2024
書縁が酒縁になっていつかお会いできたらいいなぁなんて思いながら、後日、その酒販店に再び足を運んで、山内さんの『日本酒呑んで旅ゆけば』を購入しました。残り1冊となっていた『Beginnig Nihonshu・Japanese Sake ~はじめての日本酒~』も、日本酒仲間にあげるために追加でもらっちゃいました。それにしても、近所にこんなにも素敵な酒販店があったなんて、日本酒を好きにならなかったら一生縁がなかったかもしれません。つまり、
これも酒縁。
山内聖子さんの『日本酒呑んで旅ゆけば』を読みました。酒縁を育み続ける「呑む文筆家」が、蔵元を訪ね、名酒の味の秘密に迫った、著者曰く「呑浪紀」です。蔵元さんや杜氏さんの人柄に迫った一冊でもあります。こういう生き方もあったのか(!)と、正直羨ましく思った一冊でもあります。山内さんがこの本の中で訪ねたお酒は、以下。
・AKABU 赤武酒造 ◎岩手県盛岡市
・七福神 菊の司酒造 ◎岩手県岩手郡雫石町
・七重郎 稲川酒造店 ◎福島県耶麻郡猪苗代町
・廣戸川 松﨑酒造 ◎福島県岩瀬郡天栄村
・冩樂 宮泉銘醸 ◎福島県会津若松市
・群馬泉 島岡酒造 ◎群馬県太田市
・喜正 野崎酒造 ◎東京都あきる野市
・開運 土井酒造場 ◎静岡県掛川市
・白隠正宗 高島酒造 ◎静岡県沼津市
・剣菱 剣菱酒造 ◎兵庫県神戸市
・神雷 三輪酒造 ◎広島県神石郡神石高原町
・賀茂金秀 金光酒造 ◎広島県東広島市
・雨後の月 相原酒造 ◎広島県呉市
・天狗舞 車多酒造 ◎石川県白山市
・獅子の里 松浦酒造 ◎石川県加賀市
驚きました。楽しみにもなりました。なぜなら、飲んだことのある日本酒がひとつもないからです。《世間にはまだ知らない日本酒がたくさんある》どころではありません。知らない日本酒ばかり。そして作り方についても知らないことばかり。例えば、宮泉銘醸の宮森義弘社長は、冩樂の甘みについて、次のように語ります。
「酒はいろんなファクター工程が重なってできるものだから、ひとつだけにポイントをしぼることはできないのね。しいて言うならば上槽のタイミングかな。搾る前のもろみをどのような形にするのかで味が変わります。長く引っ張れば辛くなるし、早めに上槽すれば甘めだけど重くなるよね、というように。最終的にはそれをベロ(舌)で決めます」
日本酒ビギナーには「いろんなファクター」と言われてもピンときません。「上槽のタイミング」と言われてもピンとこないし、「搾る前のもろみ」と言われてもピンときません。にもかかわらず、宮森さんのこの発言が、私には、何だか「いいなぁ」と感じるんです。なぜか。
学級づくりに似ているからです。
「一つ一つの工程の話をしてもらうのはいいけど、短絡的にとらえてはだめです。酒は、麹菌や酵母も含めた原料の選定やつくり方だけではなく環境によっても変わるから、全てのトータルを考えて設計し最終的に目標の味にたどり着くものです」
これも宮森さんの発言ですが、似ていますよね。次のように変換するとよくわかります。学級は、いろんなファクター工程が重なってできるものだから、短期的にとらえてはだめで、教材の選定や人間関係のつくり方、子どもたちが置かれた家庭環境や地域環境など、全てのトータルを考えて経営していかなければいけません。どうでしょうか。ピンとくるでしょうか。
日本酒づくりは、学級づくりに似ている。
「剣菱は麹づくりを見ただけでもわかるんだけど、なんでも簡略化しがちな今の酒蔵と真反対のことをやっているし、酒づくりの教科書も無視しているよね」
これは「群馬泉」の蔵元杜氏である島岡利宣さんの発言です。これも、似ていますよね。学級づくりの教科書や学校スタンダードを無視している担任って、いますから。それでいて、おもしろい学級ができていたりして、
奥が深い。
著者の山内さんと蔵元の人たちが、地元の料理と地酒で歓談するシーンを読んでいると、食べたくなるし飲みたくなるし、きっと山内さんとつくり手の関係性こそが日本酒の味をより深いものにしているのだろうなぁと思うし、この先、そういった時間をつくることができたら仕合わせだろうなぁという気持ちになります。私にとっての日本酒の旅は、まだ、始まったばかり。楽しみだな。
酒縁は育むもの。
おやすみなさい。