田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

石井光太 著『物乞う仏陀』より。聖職のゆくえ、過労死レベルで働く教員は世界をどう見ているのか。

ただ、ここはカンボジアである。乞食には乞食の、地雷障害者には地雷障害者の生き方というものがある。おのおのが地雷を踏んだ運命をうけいれて自分なりの方法で生きている。 日本でいわれている乞食だとか地雷障害者のイメージとは程遠いけれど、彼らを非難…

中村文則 著『自由思考』より。上手く言えないが、平和って素晴らしいと思った。

足を開いた女優に、男優が真珠のネックレスを手に近づいていく。その設定の意味がもうわからないが、やがて男優は女性の首にそれをかけるのではなく、女性の大切な部分にその真珠のネックレスを入れていくのである。何でそんなものを入れるのか当時はわから…

鈴木大裕 著『崩壊するアメリカの公教育』& 映画『HELLO WORLD』(伊藤智彦 監督作品)より。髭ダンの人気と教ダンの不人気について。

「真に理性的な社会では、我々の中で最も優秀な者が教師になり、それ以外の者は他の仕事で我慢せざるを得ないであろう」。そう言ったのはアメリカの伝説的経営者、リー・アイアコッカ(Lee Iacocca)だ。教育関係者に限らず、この言葉に頷く人は少なくないだ…

宮台真司 著『 〈世界〉はそもそもデタラメである』より。教職を希望する若者こそ「踊れる身体」を持っていてほしい。

クラブブームだった90年代前半、学生らを連れていくと、すぐ踊れる学生と踊れない学生が分かれた。連れていく前から、誰が踊れ、誰が踊れないか、見当がついた。 ゼミで優秀な発言をする学生こそ「踊れる身体」を持っていてほしいと私は望んだ。期待を抱か…

川田龍平 著『川田龍平 いのちを語る』より。不幸だけれどしあわせ。

龍平 そうなのです。知らない、知識がないということが差別を生むことは少なくありません。理解しようとすることが大事なのです。ぼくは実際に大学で教えるようになって、ますます教育の必要性を感じました。今の大学生は薬害エイズのことも知りません。19…

博報堂大学 幸せのものさし編集部『幸せの新しいものさし』より。ものさしを変えて、他者と仕合う。

そのころ農家を回って聞いた話はショッキングだった。アメリカでは既に禁止されていた農薬を使い続けて意識障害を発病した農家の人の話、自家消費の野菜には絶対に農薬は使わない、という彼らの告白。気づいたのは、「知らないから何でもできてしまう」とい…

鶴見俊輔 編著『新しい風土記へ 鶴見俊輔座談』より。教員に「learn」と「unlearn」の時間を。

戦前、私はニューヨークでヘレン・ケラー(1880~1968)に会った。私が大学生であると知ると「私は大学でたくさんのことを学んだが、そのあとたくさん、学びほぐさなければならなかった」といった。学び(ラーン)のちに学びほぐす(アンラーン)。「アンラ…

村上春樹 著『中国行きのスロウ・ボート』より。きちんと芝を刈ることと、きちんと学級をつくること。

僕はその年、芝刈りのアルバイトをしていた。芝刈り会社は小田急線の経堂駅の近くにあって、結構繁盛していた。大抵の人間は家を建てると庭に芝生を植える。あるいは犬を飼う。これは条件反射みたいなものだ。一度に両方やる人もいる。それはそれで悪くない…

大前研一 著『マネー力』より。ストリート・スマートを育てるために、学校は午前だけでよい。

今後、日本の経済力が上がるかどうかは、ストリート・スマートをどれだけ輩出できるかにかかっているといってもいい。 ところが日本の教育界はこの期に及んで、まだアカデミック・スマートを育てることしか頭にないようだ。(大前研一『マネー力 資産運用力…

内田樹 著『修業論』より。昨夜、師匠と会って思い出した「いい人」の話。

Aさんは「理」を見るしかたをシベリアで学んだ。それに対して、元参謀はついに「理」を見ることができなかった。帝国の瓦解について、それがどういう理路によって起きたことなのか、ひさしく超法規的統帥権を行使してきた部署の責任者のひとりとして、一言…

日垣隆 著『学問のヒント』より。せっかく日本に生まれたんだ。神様がいろいろ見て回れって言ってるんだよ。

この偉大な翁がいたからこそ、日本の近代地図は鎖国時代に誕生することができ、江戸時代人は日本列島の自己像を、黒船ペリー来航のずっと以前に知悉しえたのであった。それゆえに、ペリー司令長官の配下によって列島で全国測量が強行される事態は避けられ、…

駒崎弘樹 著『「社会を変える」を仕事にする』より。溺れる赤ん坊のメタファーと給食と変形労働時間制の話。

あなたは旅人だ。旅の途中、川に通りかかると、赤ん坊が溺れているのを発見する。あなたは急いで川に飛び込み、必死の思いで赤ん坊を助け出し、岸に戻る。 安心してうしろを振り返ると、なんと、赤ん坊がもう一人、川で溺れている。急いでその赤ん坊も助け出…

平田オリザ 著『わかりあえないことから』より。日本の先生方は、世界で一番忙しい。

日本ではゆとり教育批判と並んで、総合的な学習の時間も風前の灯火になっているが、世界の趨勢は逆だ。ヨーロッパの多くの国では科目の融解とも言える現象が始まっている(もちろん教育は常に試行錯誤を繰り返すので、ヨーロッパでもいわゆる基礎学力を重視…

映画『海よりもまだ深く』(是枝裕和 監督)& 成毛眞 著『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。』より。人生の正午における教員の働き方について。

ミドルエイジが人生の一大転機であるという捉え方は、決して新しいものではない。 心理学者のユングは、四十歳前後を「人生の正午」と呼んだ。 正午を過ぎたあとは、ただ日が暮れるのを待つだけ、すべてが下降線をたどるというイメージに捉えがちだが、ユン…

平川理恵 著『あなたの子どもが「自立」した大人になるために』より。キーワードは主体性と協働。夢をかたちに。

リンダ・グラットン教授によれば、近未来の2025年は50億人が携帯端末で結びついている時代。主体的に選び取るのであれば、みんなの力で大きな仕事をやり遂げることができるに違いありません。OECD(経済協力開発機構)が進めている世界的な学力調査・P…

宮台真司、苅部直、渡辺靖 著『民主主義は不可能なのか? コモンセンスが崩壊した世界で』より。俺はいいけど、あの人は大丈夫か?

宮台 中国は、アメリカと違い、AI統治と信用スコアを全面化しつつある。前者から言えば、ネットを使っていると公安が訪れて「あなたはAIによってマークされた」と連行される。「政治ネタは書いていない」と反論しても「AIの判断。我々には分からない」…

上田紀行 著『かけがえのない人間』より。会おうと思えばいつでも会えると思える人には、絶対に会えない。

小学生の学力が低下したとか言われているけれども、テストの点数に一喜一憂するよりも、もっと大切なものがあることを忘れてはいけない。小学校6年までの教育では、周りにいる人間が仲間なんだ、という意識を身につけることが決定的に重要なんだよ。人間は…

是枝裕和 著『映画を撮りながら考えたこと』より。新文科相の就任会見の記事を読みながら考えたこと。

残された学生時代の詩や作文、官僚時代の福祉についての論文を一つひとつ繙くと、行政側に立ったひとりの良心的な人間が福祉切り捨ての時代のなかで自己崩壊していく過程が感じられました。このように、取材で発見したものを構成に組み込むことで、番組はよ…

井上雄彦 著『空白』より。変形労働時間制の前に、もっとできることがあるだろう、という話。

でも結局、その感想、批判、中傷、様々な意見、ポジティブな意見も含め、すべてはそれを発信した「その人自身」なんじゃないかと思うんです。 さっきFMラジオで、ある女性シンガーソングライターの曲がかかっていて、「人が見る自分は鏡に映る自分だから」…

村上春樹 著『雑文集』より。働き方を変えて、一生懸命弱るのはやめて、ただの「よその人」に関心を。

でもひとつだけ目に見えて変化したことがある。それは電車に乗ったときに、まわりの乗客をごく自然に見渡すようになったということだ。そして、「ここにいるこの人たちみんなに、それぞれの深い人生があるのだな」と考える。「そうだ。僕らはある意味では孤…

木村秋則、石川拓治『土の学校』より。緒川小学校に学ぶ、ひとりひとりみんな違うに応えるということ。

もちろん、人間だってそうです。ひとりひとりみんな違う。 それなのに、それこそリンゴ箱のようにひとつの教室に同じ年齢の子供を集めて、みんな同じという前提で教育をしています。それがそもそもの間違いだと思います。 1本のリンゴの木になるリンゴの実…

柳治男 著『〈学級〉の歴史学』より。みんな同じ? みんな違う? 教師のコントロール欲求について考える。

パックツアーにせよ「学級」にせよ、制御工学的にいえば、フィードフォワード・コントロール(事前制御)の世界である。フィードバック・コントロールが、対象の変化に応じて制御を変えていくのに対し、フィードフォワード・コントロールとは、先まわりして…

ミヒャエル・エンデ 著『モモ』より。どろぼうにかじられない働き方を、すべての大人に。

時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしていることには、だれひとり気がついていないようでした。じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようと…

鹿島茂 著『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』より。家族のかたち=小学校の夏休み作品展。

私からすると、トッドがトランプ当選を理にかなっていると言ったのには、もっと大きな理由があるはずのように思えます。 それは家族類型のちがいによる教育熱心の度合いの差が、ここに来て顕在化してきていることではないでしょうか? つまり、アメリカ合衆…

國分功一郎 著『中動態の世界』より。過労死という言葉を必要としない未来を、意志する!

ある単語の不在は、出発点ではなくて結果である。 たとえば、「オオカミ」という単語をもたない言語があるとすれば、それはその言語の使い手たちが、オオカミを特別に認識する必要をもたなかったからに過ぎない。認識の必要だけでなく、さまざまな事例ごとに…

中原淳、金井壽宏 著『リフレクティブ・マネジャー』より。対話の今と昔、中原淳さんのラーニングバーを思い出しつつ。

私がラーニングバーを始めたのは、アメリカ留学がきっかけだった。当時は、MITとハーバードのちょうど中間辺り、ケンブリッジのセントラルスクエアにアパートを借りて住んでいたのだが、毎日が知的興奮に満ちていた。その理由の一つが、両大学のキャンパ…

映画『新聞記者』(藤井道人 監督作品)より。正直、これはヤバイぞ。さて、どうするか。

「詩森ろばさんが書かれたシナリオは、政治サスペンスとして非常に完成度が高かった。そこに説明や補足を加えたり、逆に映像で語る手法を考えたりして、より広い層からのアクセスを集めるのが僕の役割でした。脚本作りの行程では原案の望月さんはもちろん、…

幡野広志 著『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』より。「残りの人生を楽しみます!」 VS.「 私は、絶対に負けません!」

もしも間に合うのなら、いろんな仕事をしている僕の友だちや知り合いを、息子に会わせたい。夢によって、叶えやすい働き方と、そうでない働き方もあるだろう。会社員のメリット、フリーランスのメリットも、実際にやっている人に聞いたほうがよくわかるだろ…

隈研吾 著『僕の場所』より。コミュニケーションの本質とは? 職員室から遠く離れて。

大学院で原研究室に進んで驚いたのは、いつ行っても研究室に誰もいなかったことです。ゼミなんていうものもなくて、原先生は学生のことにはまるで関心がなく、自分のことにしか関心がありませんでした。先生も先輩もいなくて、研究室は面白いほどに静かでし…

藤原新也 著『印度放浪』より。歩むごとに見えてくる虚偽。所変われば教育変わる。

歩むごとに、ぼく自身と、ぼく自身の習って来た世界の虚偽が見えた。(藤原新也『印度放浪』朝日文庫、1993) こんばんは。8月が終わってしまいました。この夏は家族で沖縄に行ったことがいちばんの思い出です。家族としてははじめての、個人としては10年…