田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

日垣隆 著『学問のヒント』より。せっかく日本に生まれたんだ。神様がいろいろ見て回れって言ってるんだよ。

この偉大な翁がいたからこそ、日本の近代地図は鎖国時代に誕生することができ、江戸時代人は日本列島の自己像を、黒船ペリー来航のずっと以前に知悉しえたのであった。それゆえに、ペリー司令長官の配下によって列島で全国測量が強行される事態は避けられ、米国式に各地が「発見」されたり「命名」される事態も回避された。つまり日本列島が植民地の色彩を帯びる道を免れる、その大きな要因の一つが、伊能忠敬のつくりあげた正確な日本地図にあったといっても過言ではない。
(日垣隆『 学問のヒント』講談社現代新書、1997)

 

 こんばんは。今日はこれから、かつて同じ小学校で働いていた師匠との「さし飲み」です。Google マップに負けないくらいの「人生の地図」をもっている師匠。師匠と話をするときの高揚感といったらそれはもう……。

 

 ワクワク。

 

 同様に、〇〇県の〇〇〇教育委員会から採用通知が届き、地図帳を開いて〇〇〇小の場所を探しているときの高揚感といったらそれはもう……。20年近く前のことになりますが、思い出すたびに当時のワクワク感がよみがえってきます。リアル・ダーツの旅。次に赴任した△△町のときも、そして教員採用試験を受け直して県をまたぐことにおもしろさを見出すようになってからも、その都度、同じように興奮しながら地図帳を手に取っています。旅好きの身には、地図帳はバイブルみたいなもの。地図帳のベースとなるさまざまな地図をつくってくれた先人には、ただただ感謝するばかりです。

 

 ありがとう、伊能忠敬さん。

 

f:id:CountryTeacher:20190919230338j:plain

地図や地図帳は、旅人のバイブル🎵

 

 同種のワクワク感をもっていたかどうかはわかりませんが、多くを比べるべく、伊能忠敬が地図作りの旅(=多比)に出たのは56歳のときのこと。井上ひさしさんの『四千万歩の男』(講談社文庫、1990)に描かれているように、その後16年の歳月を経て、本邦初の実測による日本地図が完成します。当事は軍事情報であり、国家の最高機密であった日本地図ですが、しあわせなことに、今では小学校の教室で簡単に目にすることができます。家に持ち帰っても、国外に持ち出しても、首を斬られて塩漬けにされる心配はありません。

 

 日本史の教科書にも登場する「シーボルト事件」とは、忠敬がつくり幕府に納められていた日本地図の一つがドイツ人(長崎オランダ商館医官)シーボルトに密かに渡され、「犯人」が首を斬られて塩漬けにされたというミステリアスな事件である。
 明治時代にできる国土地理院の前身は陸軍参謀本部の陸地測量部であったし、東欧やソ連の地図を持ち帰ることは、1991年まで犯罪を構成するに充分であったのだ。
 冷戦の崩壊によって、初めて地図が「軍事情報」から解き放たれ、そして70年代以来のデジタル化とリアルタイム化が、近代地図200年の歴史を大きく塗り替えようとしているのである。

 

 解き放たれたしあわせをしっかりと噛み締めるために、以前、帝国書院の社員さんを教室に招いて「地図の授業」をしていただいたことがあります。子どもたちの名字を使って、例えば「橋本さんを探してみよう!」と索引経由で地名を探したり、札幌や福岡などの都市を例に挙げて、人口規模を表わす記号について学習したり。あのときの子どもたち(4年生)、歓声を上げながら地図上を散策していたなぁ~。

 

 問題「古座川!」

 

f:id:CountryTeacher:20190919225317j:plain

古座川にて。日本には、美しいところがいっぱい🎵

 

 冒頭に引用した、日垣隆さんの『学問のヒント』には、記憶の探究や時間の探究、性愛の探究やメディアの探究、大学の探究や家族の探究など、国際人としてこれだけは知っておきたいという、14の「知」の最前線が「~の探究」という章立てで収められています。「探究」が高校の新科目になることを、日垣さんは1997年の段階で予想していたのかもしれません。さすがです。引用は、その中にある「地図の探究」という章から。地図ってやはりいいですよね。かつてラオスのサワンナケートで出会った若者(といってもほぼ同い年)が、ビア・ラオを飲みつつ「せっかく日本に生まれたんだ。神様がいろいろ見て回れって言ってるんだよ」と口にしていたことを思い出します。いろいろ見て回る ≒ リアル地図の探究 ≒ 旅 ≒ 人生。

 

f:id:CountryTeacher:20190920182759j:plain

ラオスのサワンナケートにて

 

 せっかく日本に生まれたのだから。過労死レベルの労働に人生を食い尽くされることなく、未来の地図帳を開いて、旅をするように生きていたいものです。

 

 師匠の探究。

 

 行ってきます。