田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方と生き方」&「本、旅、人」

変形労働時間制は「日本の先生方は、世界で一番忙しいから」への処方箋はではない、という話。

 日本ではゆとり教育批判と並んで、総合的な学習の時間も風前の灯火になっているが、世界の趨勢は逆だ。ヨーロッパの多くの国では科目の融解とも言える現象が始まっている(もちろん教育は常に試行錯誤を繰り返すので、ヨーロッパでもいわゆる基礎学力を重視する動きも同時に起こっているのだが)。
 私がかつて訪れたスイスのある州は、小学校では科目という概念がほとんどなかった。算数が週に三コマほど残っているくらいで、あとはすべて総合的な学習のようなイメージの授業が続く。だから子どもたちに「どの科目が好きか?」と聞いても、きょとんとして答えが返ってこない。
平田オリザ『わかりあえないことから』講談社現代新書、2012)

 

 スイスの子どもたちのようにきょとんとすることはありませんが、「どの科目が好きか?」と聞かれたら、私の場合、科目(各教科)ではなく、「総合的な学習の時間が好き」と答えます。好きというか、正確には、楽しい。学びは本来、総合的なものだからです。

 

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子どもたちと一緒につくった、愛着100%の田んぼ

 写真は、学校の裏手から流れてくる沢の水と、地域の土建屋さんのショベルカー、そして農業を営む教え子の祖父の力を借りて、総合的な学習の時間に子どもたちと一緒につくった、愛着100%の田んぼ(校庭の端っこ)です。恩師の教務主任(当時)曰く「先生がいなくなっても、田んぼはずっと残りますね」。同僚に恵まれ、保護者にも恵まれ、地域の人たちにも恵まれ、そしてもちろん子どもたちにも恵まれ、田舎教師としての私を育ててくれた小学校でしたが、2011年の震災で学区の3分の2が流され、校庭には仮設住宅が建ち並ぶことに。震災後、当時の教え子から「仮設住宅が当たりました! 先生とつくった田んぼの目の前です!」って、連絡をもらいました(涙)。何だか泣けて泣けて……。

 

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地域の田んぼで絶滅危惧種イチョウウキゴケを発見

 次の小学校でも校庭に田んぼをつくりたい、と思ったものの、土地柄それはかなわず。でも、地域の田んぼを借りられることに。途中、絶滅危惧種イチョウウキゴケを見つけて大騒ぎ、なんてことがあったり、田んぼの代わりに畑をつくって20種類近くの野菜を育て、食べたり売ったりの大騒ぎ、なんてことがあったり。テレビや新聞の取材も入ったりして、楽しかったなぁ~。

 

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プランクトンの秘密を探しに、ジャンボタクシーで養殖場

 田舎の小学校は一クラスの人数が少なくて、都会と違って機動力に優れます。大型のバスを借りなくても、ジャンボタクシーでの移動が可能だったり、引率が担任一人でもOKだったり。プランクトンネットを持ってジャンボタクシーで養殖場へ行ったときのクラスは、わずか8人でした。 当時5年生だったあの子たちももう、パパやママに。

 

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旅仲間が教室に来てくれたことも

 

 旅先で出会ったバックパッカーが教室に来てくれたこともありました。北米と南米を自転車で縦断した、私よりも5歳年上の強者お兄さんバックパッカー。ウユニ塩湖の右端に映っているのがそのお兄さんです。総合的な学習の時間(テーマは国際理解)を活用して南北アメリカのことを調べていた子どもたちに、興味深い旅話をたくさん披露してくれました。上記の写真は上から順にアラスカのユーコン川ボリビアのウユニ塩湖、それからアルゼンチンのモレノ氷河です。それ以外にももちろんたくさんあったのですが、中には子どもたちの絶叫を誘う、こんな写真も。

 

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羊のスープ、子どもたち絶叫

 

 環境とか、
 福祉とか、
 国際理解とかキャリアとか。

 

 時代のニーズや子どもたちの関心に合わせてテーマを決め、その中に様々な教科の学びの要素を埋め込んでいく、総合的な学習の時間。2000年から段階的に始められたこのフレキシブルな時間は、様々な教科を教えている小学校の教員にとって、恩師曰く「俺たちが待ち望んでいた」時間です。

 

 が、風前の灯火。

 

 なぜでしょうか。劇作家の平田オリザさんは、その理由を「日本の先生方は、世界で一番忙しいから」と書いています。忙しさゆえ、テーマに関する体験知を得ることや、授業の血肉となる本を読むことがなかなかできない。では、なぜ日本の先生は世界で一番忙しいのでしょうか。

 

 問いを学ぶと書いて、学問。

 

 こんなふうに「問い」を重ねていくことが、総合的な学習の時間をよりよいものにします。このケースのテーマは「働き方」でしょうか。ちなみに、子どもの幸福度ランキング世界一のオランダでは、「先生は週休3日が普通」だそうです。

 以前、総合的な学習の時間で「福祉」のことを取り上げた際に、こんな言葉を見つけてきた子どもがいました。「介護する人がしあわせなら、介護される人はもっとしあわせ」。教育に置き換えれば、こうなります。


 先生がしあわせなら、子どもはもっとしあわせ。
 先生に学ぶ時間があれば、子どもはもっと学ぶ。
 

 変形労働時間制は、私たちからさらに学ぶ時間を奪います。先生に学ぶ時間があれば、子どもはもっと学ぶというロジックを考えると、変形労働時間制は、子どもたちからも学びを奪うことになります。

 

 私たちに、もっと時間を!