それにしても、10歳から明石市長を目指していたとはすごい。
泉 はい。冷たいまち・明石を優しくするのが自分の使命だと思い、そのために生きていこうと心に決めたのです。東大受験のための勉強中に眠くなっても、「今、寝てしまったら救える人も救えなくなる」と本気で考えてました。自分には使命があり、その使命を果たすためには「受験ぐらい通らなあかん」と。
(泉房穗『政治はケンカだ!』講談社、2023)
こんにちは。小学5年生のときから明石市長を目指していたとはすごい。子どもたちにも伝えなければ(!)と思います。特に、受験産業に踊らされ、偏差値に踊らされ、使命感どころか優越感を得るために受験勉強をしているのではないか(?)と見受けられる一部の子どもたちには必ず伝えなければ(!)と思います。受験ができるという恵まれた家庭環境で育っているのだから、
使命感をもたなあかん、と。
昨日、桜の町を歩きました。桜の名医として知られる和田博幸さんに《人がいて、桜があって桜も人がいるから、桜であるという、そんな感じがしますけどね》という言葉があります。市長と市民の関係も、同じではないでしょうか。泉房穗さんの『政治はケンカだ!』を読んで、そんな感じがしました。
もと明石市長・泉房穗さんの『政治はケンカだ!』を読みました。聞き手は1994年から2021年まで朝日新聞に勤めていた、ジャーナリストの鮫島浩さんです。手に取ったきっかけは、プライベートで参加している読書会の課題図書だったから。昨夜がその読書会(オンライン)でした。
すっかりマスコミに騙されていた、私が。
まず、そんな感想が出てきました。泉さんに対するマスコミのネガティブ・キャンペーンを真に受けてしまったということです。本を読んだら、違った。いま話題になっている静岡県の川勝平太知事(3日、辞職する意向を表明)も、実際のところはどうなのかわかりません。
アナウンサーも現場にいたから、「事実じゃない」と私を擁護してくれるのかと思っていたら、全然言ってくれなくて。結局は、テレビ局の広報がバッシングに追随してしまった。あれはビックリしましたね。「真実は違うと知ってるのに、黙ってるどころか嘘に乗っかるのか」と。
たまたま、近くに市会議員も含めて人がいっぱいいましたから、ネット上ではあの発言はなかったということになってますけど、「また泉が暴言を吐いた」と世の中には謝って伝わってしまった。私、そんなのばっかりですけどね。
第6章の「マスコミ論」より。ちなみに第1章が「闘いの日々」、第2章が「議会論」、第3章が「政党論」、第4章が「役所論」、第5章が「宗教・業界団体論」、そして最終章に当たる第7章が「リーダーシップ論」です。
本を読んだら、違った。
東京都知事だった猪瀬直樹さんに対するネガティブ・キャンペーンもそうでした。猪瀬さんの『東京の敵』を読んだら、違った。
泉さんも猪瀬さんもマスコミに叩かれました。二人の共通点は「本物」ということでしょう。本物だから、予算を組み替えた。忖度なしに、大胆に組み替えた。Aというところに使われていた予算をBに移して恨みを買った。なぜBに移したのかといえば、
困っている人たちに対する感度が高いから。
他の政治家と比べたときに、泉さんが突出している能力のひとつに、この感度の高さが挙げられます。読書会でも話題になっていました。クラスの子どもたちにも身につけてほしい感度です。隣の席のクラスメイトが困っていたら、その困り感を感じ取って、泉さんのように「どうですか? 大変ですか?」と話しかけてほしい。勉強をするのは、畢竟、困っている人たちを助ける力をつけるためだと知ってほしい。以下は第4章の「役所論」より。コロナ禍のときの話です。
泉 私は国なんか答えを持っているわけないとわかっているから、街に出て商店街のおやじに「どうですか? 大変ですか?」と聞きました。「大変やわ・・・・・・市長、テナント料払われへんねや。見てや、ガラガラや! 先月払っていないし、今月も払えそうもないし、2ヵ月払われへんかったら、終わりやぁ。市長さんにこんなこと言うてもしょうがないけどな」
泉さんはこの感度の高さを武器に、市民を味方につけ、議会や既得権益をもつ人たちと闘います。闘う、つまりケンカです。
困っている人を助ければ、友達になれる。
勉強よりも大事な理路でしょう。受験勉強は、困っている人たちに対する感度を下げる方向に作用していると感じるのですが、どうでしょうか。ちなみに猪瀬さんもこの感度が高いように思います。市井の人々をインタビューしてまとめた『日本凡人伝』というシリーズものの著作がありますからね。
故郷の明石を誰よりも愛し、誰よりも憎んでいる。
もしも6年生の担任になったら、この言葉を社会の政治の授業の導入に使いたい。そして泉さんの使命感を語りたい。そう思いました。泉さんの弟は障害をもっていて、当時の社会から、すなわち明石市から、理不尽な扱いをされているんですよね。そのことが(そのことも)、泉さんの「誰よりも憎んでいる」につながっています。
当時は「優生保護法」という法律があり、国を挙げて障害者を差別する施策を推進していました。なかでも兵庫県は悲惨な状況でした。当時の兵庫県知事が自ら音頭を取って「不幸な子どもの生まれない運動」という政策を推し進めていたのです。障害者への不妊手術等の強制や、妊娠の出生前診断を奨励し、羊水検査で障害を持つ可能性が高いとわかったら、生ませないようにする運動でした。
では、泉さんの「明石を誰よりも愛し」はどこから来ているのか。18歳で東京大学に進学した泉さんは、故郷の明石を離れた後も、神戸新聞を取り続けます。その理由を次のように書いています。
それは世の中の誰よりも明石に詳しくなる必要があったから。おそらく、いまの私は全人類の中で一番明石に詳しいはずです。だからこそ、私は故郷・明石のことを心から憎み、心から愛しているんです。誰よりも明石について知っているからこそ、まだ消えない理不尽に対して、誰よりも強い憎しみを抱いている。
大切なのは知ることだ。だからまず、知ろう。勉強しよう。子どもたちにはそう伝えます。泉さんや猪瀬さんが「持続力のある公への貢献」で抜きんでているのは、誰よりも日本について知っているからでしょう。
子どもの養育費条例やインクルーシブ条例、優生保護法被害者支援条例など、泉さんは様々な施策を「条例」にして残しました。泉さん曰く「明石でできたことは他の自治体でもできる。まして国なら簡単にできる」云々。
泉さんのこれからの活躍に、期待大です。
教育もケンカだ?