田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

猪瀬直樹 著『東京からはじめよう』より。つねに好奇心をもちながら。

 後藤新平という人物を考えるときに面白いと思うのは、彼は、岩手の水沢の出身なので、藩閥出身でないし、中央の出でもない。岩手で生まれて、名古屋に行って、台湾、満州で経験を積んで、最後に東京へ戻ってきた。だから、東京の問題点がよく見えて、改造の必要性にいち早く気づいた、と思うのだ。若いときに、中央志向の流れに乗らなかったため、周縁からものを見ることを覚え、複眼的な思考力を身につけることができた。つねに好奇心をもちながら。いつの時代も、風化するものは中心にあるが、新しいものは周縁にある。
(猪瀬直樹『東京からはじめよう』ダイヤモンド社、2007)

 

 こんばんは。3学期からはじめよう、6年生になる準備を。というわけで、昨日、6年生の0学期(=5年生の3学期)がスタートしました。0学期という表現は、次の学年に進むための準備をする学期、という意味で使われる業界(?)用語です。東京の0学期を担当した後藤新平(1857ー1929)の業績を思えば、この0学期の大切さがイメージできるのではないでしょうか。

 東京の2学期を担うはずだった元都知事の猪瀬直樹さん曰く《後藤の描いた復興プランは、彼の意思を受け継いだ人材によって継承され、実現されたものも多い。焼失した市街地の区画整理、昭和通り、靖国通りなどの幹線道路の建設、大小橋梁の架橋、公園・学校の整備、中央卸売市場の再建など、都市インフラの復興が徐々に進み、現在に至る東京の骨格が造られた》云々。後藤の意思を受け継いだ人材が1学期に骨格を造り、猪瀬さんがそこに肉付けをするはずだったんですよね。それなのに「東京の敵」がやらかしてしまった。ホント、

 

 残念です。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 東京の敵だけでなく、道路公団民営化のときにも猪瀬さんにはたくさんの「敵」がいたそうで、著書の『道路の決着』には《僕のところには毎日のように殺すぞとか無言電話の強迫があります》とあります。同じようなことを、先週のマル激トーク・オン・ディマンド (第1187回)に登場していた元明石市長の泉房穂さんも話していました。18歳までの医療費や中学校の給食費、第2子以降の保育料などを無料化した名物市長さんです。泉さんもまた、毎日のように強迫されていたとのこと。

 

 明石の敵がいたのでしょう。

 

www.videonews.com

 

 マル激を視聴するまで泉さんのことはよくわかっていませんでした。02年に暗殺された故・石井紘基元衆院議員の秘書だったということすら知りませんでした。びっくりです。と同時に、猪瀬さんにせよ泉さんにせよ、石井さんのような目には絶対に遭ってほしくないなぁと思います。泉さん曰く「市長の仕事は、方針を決め、予算をシフトさせ、人事を適正化すること」云々。予算をシフトさせると「敵」を生むんですよね。教育に予算が回ってこないのも、おそらくはそういった事情があるのでしょう。石井さんや猪瀬さんや泉さんのように、公のためには「敵」をも恐れず(!)という志をもった政治家がもっともっと出てこない限り、学校も社会も、

 

 変わらない。

 

 

 明石からはじめよう。泉さんの明石での取り組み、特に子育て支援によって、《2015年から2020年の5年間で明石市の人口は約1万人増え、その増加率は全国62の中核市の中で1位の3.55%を記録》し、さらに《明石市の2021年の合計特殊出生率は全国平均1.30を大きく上回る1.65まで上昇》したそうです。今や明石は他の自治体のロールモデルとなって、国の再生に寄与しているというわけです。だからやっぱり、こう思います。もしも猪瀬さんが都知事を続けていたら、明石と同様に、ロールモデルになっていたはずなのに。東京都の教員採用試験(小学校)の倍率が過去最低の1.1倍を記録するなんてことにはなっていなかったはずなのに。ホント、

 

 残念です。

 

 

 猪瀬直樹さんの『東京からはじめよう』を読みました。副題は「国の再生をめぐる9つの対論」です。対論者は冨山和彦さん、平野岳史さん、菅義偉さん、大田弘子さん、山田昌弘さん、林良博さん、島田晴雄さん、片山善博さん、そして増田寛也さんの9人。さて、みなさん。名前と顔が一致するのは、何人ですか?

 

 3人。

 

 私は菅義偉さんと山田昌弘さんと増田寛也さんしか名前と顔が一致しません。勉強不足の一言に尽きるわけですが、言い訳をさせてもらえれば、長きに渡る長時間労働も「無知であること」の大きな要因のような気がします。教員を働かせれば働かせるほど、教室に還元できる知のクオリティーが下がっていくというわけです。ちなみに泉さんは10歳の時に明石の市長になろうと決めていたそうです。小学4~6年生の中には、情報と体験と環境次第で、それくらいのことを考えられる子がいるということです。だからこそ教育への予算シフトが必要でしょう。教員の質を高めて、公のためには「敵」をも恐れず(!)という志をもった大人を育てていかない限り、学校も社会も、

 

 変わらない。

 

猪瀬 僕が面白いと思ったのは、「”カイゼン方式” の成果」です。これ、トヨタ式カイゼンって言われたものですよね。成果は実際のところどうだったんですか。
増田 業務量を1年間30%削減しようという目標を立てまして、達成しました。3年で達成して、結果として、超過勤務時間を一人当たりですけれども、月9.5時間から8.3時間に減らすことができました。

 

 一番最後に収録されている、猪瀬さんと増田さんの対論「カイゼンで県政運営」より。岩手県知事を3期12年間務めた増田さんに対して、猪瀬さんが《トヨタのカイゼンを採り入れたのは画期的だったと思います》と感想を述べている場面です。なるほど確かに、トヨタのカイゼンはすごいのかもしれない。でも、でもですね、教員はきっと引用した部分を読んでこう思うはずです。

 

 超過勤務時間が月9.5時間だって?

 

 95時間の間違いじゃないのか、と。やはり教員の世界はブラックです。それと同時にこうも思います。猪瀬さんが書いているように《周縁からものを見ることを覚え、複眼的な思考力を身につけ》ていかない限り、学校も社会も、

 

 変わらない。

 

 

また食べたい

 

 それぞれの学年、或いは人生の0学期がうまくいくようにと、つい先程まで酔り道していました。かなり飲み食いしてしまって、正月太りの解消どころかちょっとヤバイ感じです。前回のブログにも書きましたが、必ずや、年内にバキバキにします。口にすれば、叶う。国の再生をめぐる9つの対論だって、口にしたからこそ叶っている願いがいくつもあります。詳しくは、ぜひ手にとって確かめてみてください。

 

 つねに好奇心をもちながら。

 

 おやすみなさい。