田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2023-01-01から1年間の記事一覧

三浦英之 著『白い土地 ルポ 福島「帰還困難地域」とその周辺』より。How wonderful my life with you is !

彼はきっと「知らないの」のだ ―― かつての私がそうであったように。 廃炉作業が思うように進んでいない福島第一原発の現実も。《白地》と呼ばれる100年以上も住民が住めない帰還困難地区が広がる沿岸部の風景も。そこで暮らす人々の気持ちも。ただ故郷で…

畠山理仁 著『黙殺』より。映画『NO 選挙,NO LIFE』(前田亜紀 監督作品)とセットで、ぜひ。

2017年に行われた衆議院議員総選挙では、被選挙権を持つ25歳以上の有権者のうち、立候補した人の割合は「約7万5千人に1人」だった。2019年の参議院議員通常選挙(被選挙権30歳以上)では「約25万人に1人」の計算だった。この数字を見れば…

今井孝 著『らくらく売る人のアタマの中』より。らくらく売って、らくらく贈る人に。

ここで、最も楽な集客方法をこっそり教えます。 それは、「一人ひとりに声をかけること」です。 そう言うと多くの人が「面倒だ!」「余計にしんどい!」と言います。 しかし、これはウソではありません。本当にそれが最も楽に集客できるのです。(今井孝『ら…

村上靖彦 著『仙人と妄想デートする』より。自らの自由な実践の土台となるプラットフォームを生み出す。

看護実践は無数の多様さへと開かれている。看護師の個性だけでなく、さまざまな疾患に応じて、さまざまな病棟文化に応じて、個々の患者や家族の個性や文脈に応じて、一つとして同じ実践はないであろう。本書では精神科と助産、訪問看護を中心に、保護室での…

尾登雄平 著『「働き方改革」の人類史』より。映画『NO 選挙,NO LIFE』をもじれば「NO 労働,NO LIFE」。それって、本当?

ビジネス書は読者を啓発するためのものなので、ネガティブなことにはあまり触れません。あなたはどうすれば成功するのか、生き残れるか、といったことを書きます。「できない」人は想定読者ではないので、当たり前と言えば当たり前です。ただ、同じ社会の構…

ジョン・ハンター 著『小学4年生の世界平和』より。エンプティー・スペース(考える余地)をたっぷりと生み出す。

母は私に――それどころか誰にも――答えを与えてはくれなかった。その代わり、私たちが探求者、探検者、開拓者になれるだけの余地を創り出してくれた。こうして私はわずか9歳の小学生ではあったが、あのエンプティ・スペースに秘められたパワーのすごさに気づ…

阿部彩 著『弱者の居場所がない社会』より。弱者の居場所がある教室をつくる。

どのような状況にあっても、彼らが最後までかじりついていたのが「つながり」であり、「役割」であり、「居場所」であった。私たちが当たり前のように享受しているこれらが人間の生にとって、いかに大切なのか、いかに基礎的な存在なのか、それを彼らのエピ…

チョ・ナムジュ 著『82年生まれ、キム・ジヨン』より。それで、あなたは何を失うの?

「それで、あなたが失うものは何なの?」「え?」「失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友だちっていう社会的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だから失うもののことばっ…

東浩紀 著『訂正する力』より。東浩紀はじつは・・・・・・と言っていた。

訂正する力は、そのような「事前承認」は求めません。単に「このルールはおかしいから変えるべきだ、否、じつはもともとこう解釈できるものだったのだ」と行動で示し、そのあとで事後承認を求める。それが訂正の行為です。だからそれは、ある観点では単なる…

姫岡とし子 著『ヨーロッパの家族史』より。家族とはなにか。

16世紀フランスの哲学者モンテーニュは、「乳児期の子どもを2、3人なくし、残念に思わなかったわけではないが、ひどく悲しむというほどのことではなかった」と述べている。彼が特別だったわけではなく、乳幼児死亡が非常に高かった18世紀半ばころまで…

赤松啓介 著『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』より。この子の顔、俺に似とらんだろう?

結婚と夜這いは別のもので、僕は結婚は労働力の問題と関わり、夜這いは、宗教や信仰に頼りながら過酷な農作業を続けねばならぬムラの構造的機能、そういうものがなければ共同体としてのムラが存立していけなくなるような機能だと、一応考えるが、当時、いま…

サマセット・モーム 著『雨・赤毛』より。国家が、あとからやってきた。宣教師も、あとからやってきた。

「いいですか、彼らは生まれながらに堕落しているのです。だから何と言ってやっても、自分の罪悪がわからないのです。彼らでは自然な行為のつもりでいるものを、罪悪だと意識させてやる必要があったのです。姦淫を犯したり、嘘をついて物を盗むばかりではな…

松村圭一郎 著『くらしのアナキズム』より。国家が、あとからやってきた。学校も、あとからやってきた。

「国家」について意識しはじめたのは、22歳で訪れたエチオピア西南部のコンバ村でのことだ。当時60代半ばだった農民男性、アッバ・オリは、彼の人生と村の歴史について教えてくれた。それはとても衝撃的だった。国家が、あとからやってきた(・・・・・…

佐藤愛子、田辺聖子 著『男の背中、女のお尻』より。みっともない大人に俺はなる。

私が佐藤愛子さんを知った最初の頃、彼女はみずみずしく、そして、若かった。 襟ぐりの広いワンピースかなにかを着ていて、そこに白い肌が現われて、私は、〈やりたいなあ〉と思ったこともある。 今でも佐藤愛子さんはきれいである。ときどき、〈おや〉と思…

伊坂幸太郎 著『777』より。他人と比べた時点で、不幸は始まる。

二十代前半の社会人といったところだろうか、久しぶりの再会に花を咲かせている様子もある。同窓会のような集まりなのかもしれない。背の高い男が自分の会社の残業代についての愚痴を洩らすと、別の男が、「それくらい、俺なんて」と嘆きながらも誇らしげな…

東浩紀 著『訂正可能性の哲学』より。家族も一般意志も、変わらないために変わり続ける。

そして20世紀が終わるころには、そもそもソ連が崩壊したこともあり、大きな物語のような発想はほとんど支持されなくなった。1971年生まれのぼくは、学生時代にまさに「大きな物語の終わり」を叩き込まれた世代にあたる。人類の歴史にまっすぐな進歩な…

阿川佐和子、村上春樹、吉田直哉、他『おいしいアンソロジー ビール』より。子どもに任せるって、難しい。

クリント・イーストウッドの映画『グラン・トリノ』で主人公の、超頑固でタフな元自動車組み立て工のおっさんが、常に国旗を掲げた自宅のポーチで飲むのも、常に缶入りのブルー・リボンだった。手すりに足を載せ、狭い前庭を面白くもなさそうに眺めながら、…

池田賢市 著『学校で育むアナキズム』より。How wonderful my life with you is !

ところが、このように学校にとって大切であるはずのチャイムをなくす取り組みをしている学校がある。しかも、それほど珍しくなくなってきているようだ。これは、アナキズムにとって朗報かと思いたくなるのだが、実はそうではない。子どもたちの自由を保障す…

メルヴィル 著『白鯨(下)』より。もしもエイハブ船長がサードプレイスから白鯨のことを考えていたとしたら。

凪のあとには嵐があり、嵐のあとには凪がある。人生はただ事もなく一直線にすすむことはない。人生は階段をのぼるように進行し、それをのぼりつめたところで、はい、おしまい ―― というようなものではない。幼児期の無意識の魅惑、少年期の盲信、青年期の迷…

メルヴィル 著『白鯨(中)』より。「小説」も「教育」も、つまるところ「何でもあり」なのだ。

幹から枝が生え、枝から小枝が生えるように、豊饒なる主題から、あまたの章が生まれる。 前章でふれたクロッチについては、独立の章をもうけて論じる価値がある。それは先端が三叉に割れた特殊な形態をもつ棒で、長さが二フィートほどあり、ボートの舳先近辺…

メルヴィル 著『白鯨(上)』より。鯨を恐れないような者は、私のボートにはひとりも乗せん。

「白鯨のゆがんだあぎとでも、死のあぎとでも、わたしはひるみません。エイハブ船長、それがちゃんとした商売の道理にかなっているのならば、です。わたしがここにおりますのは、鯨をとるためでして、船長の復讐に手をかすためではありません。たとえあなた…

中野円佳 著『なぜ共働きも専業もしんどいのか』より。主婦のしんどさを生み出す構造と、教員のそれは似ている。

その答えは、専業であれ、兼業であれ、さまざまな負担を主婦に押し付けることで社会を回してきた日本の循環構造にあったと私は思う。政府、企業、学校や保育の在り方。そして人々の意識。「女性が輝く社会」という標語がむなしく思えるのも、構造的な女性の…

朝井リョウ 著『正欲』より。地球に留学しているみたいな感覚なんだよね、私。

こっちはそんな、一緒に乗り越えよう、みたいな殊勝な態度でどうにかなる世界にいない。マイノリティを利用するだけ利用したドラマでこれが多様性だとか令和だとか盛り上がれるようなおめでたい人生じゃない。お前が安易に寄り添おうとしているのは、お前が…

山内健生 著『新装版 私の中の山岡荘八 思い出の伯父・荘八』より。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

それはともかく、伯父の作品の根底には、すべてとは言わないまでも、ことに長編の場合、「天下国家のより良いあり方」を志向する傾きがあった。現代風に言うと「公」への意識があって、つねに「公」と「私」のかね合いが頭にあったようだ。その意味で「私」…

朱野帰子 著『会社を綴る人』より。山崎豊子さんの『白い巨塔』に勝るとも劣らない社会派小説。

口頭ではなく文書で残す。それが会社の原則だ。会社は夥しい数の社内文書によって、様々な社員の手によって綴られている。 その社内文書を改竄することを許してしまった会社が、こまめに粉の掃除ができるだろうか。過去の事故の記憶を正確に語り継ぎ、悲劇が…

秋山大輔 著『萩原健一と沢田研二、その世紀』より。我と汝、その世紀。

秋山 今の世相ですと皆無ですね。蜷川 学生に教えてあげたいわ。もっと過激に創作する方法や思考を。猪瀬 やっぱりそうだよね。当時はそういう野放図な感じがありましたね。(秋山大輔『萩原健一と沢田研二、その世紀』デザインエッグ、2023) こんにちは。…

朝井リョウ 著『時をかけるゆとり』より。著者の6年生のときの担任、素晴らしいってよ。

ひたすら日記を書き続けていた小学六年生の私にとって、世界でたったひとりの読者は当時の担任の先生だった。毎日提出する日記に返ってくる一言コメントが、唯一の感想だったのだ。まるでどこかで連載をしているプロになったかのような勘違いを、私は精一杯…

平野啓一郎 著『三島由紀夫論』より。執筆開始から23年。670頁の大作。読まねばならない!

本書は、三島が最後の行動に至る軌跡を、その作品に表現された思想に忠実に辿るものだが、では、その死が必然的なものであり、不可避であったかと言えば、必ずしもそうとは思わない。三島自身が政治思想の偶然性を強調している通り、『鏡子の家』に対する文…

佐藤厚志 著『荒地の家族』より。祭りを通して学ぶ、ここが他のどこでもない地元だという根拠の大切さ。

滑らかな白いコンクリートがどこまでも続く。道路ができ、防潮堤が聳え、土地は整備された。日がな一日風が吹きすさび、ひとつとして特徴を見出せない浜を見渡すと、ここがどこだかわからなくなる。実際、どこでもなかった。荒浜でも吉田でも鳥の海でもない…

織守きょうや、坂井希久子、額賀澪、原田ひ香、柚木麻子 著『ほろよい読書』より。君たちはどう生きるか。

「でもま、しょうがないよね。もうナオのいない世界には戻れないし、考えたくもない。体はキツいし悩みごとも増えたけど、全部帳消しになっちゃう瞬間があるから。妊活頑張った甲斐があったよ」「そっかぁ」「いいよ、子供。予測不可能で」 カランと、手にし…