田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2023-01-01から1年間の記事一覧

布施祐仁+三浦英之 著『日報隠蔽 自衛隊が最も「戦場」に近づいた日』より。喜劇と悲劇。犠牲になるのはいつだって真実。

開示された日報を読んで私が最も強く思ったのは、このような現地の激しい戦闘の実態や派遣部隊の厳しい情勢認識が2016年7月の段階で公にされていれば、自衛隊の派遣期間延長や新任務付与は果たしてできたのだろうかということであった。 逆に考えると、…

三浦英之 著『牙』より。風が吹けば桶屋が儲かる。日本人が象牙の印鑑を買えば、どうなる?

「本当にひどい」と滝田は意図的に言葉を尖らせて言った。「なんで日本人はそんなに象牙の印鑑を欲しがるのかな? 私は6歳で父の仕事の関係で日本を離れてしまっているから、そこら辺の事情、よくわからないのよ。印鑑にしても、アクセサリーにしても、それ…

三浦英之 著『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』より。十年一昔ではない。断じて違う。

「彼らはいつもハキハキとしていて、一生懸命農作業に取り組んでくれた」 古民家を舞台にアイドル自らが田植えや炭焼きを体験し、自給自足の生活を送る。そんな農作業の風景が高齢者には懐かしく、都会の若者の目には新鮮に映った。 TOKIOは「農業アイ…

フィリップ・K・ディック 著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』より。学力も大事だけど、共感性はもっと大事。

あんなにすばらしい歌手だったのに――映話をすませて受話器をもどしながら、リックはそう考えた。おれにはわからない。あれだけの才能が、どうしてわれわれの社会の障害になるわけがある? だが、問題は才能じゃない、と自分にいいきかせた。アンドロイドだっ…

ボブ・グリーン 著『デューティ』より。原爆を落とした男のこと、知っていますか?

「トヨタを購入する前に躊躇しませんでしたか?」「わたしはその日本車が気に入っている。なんの含むところもない。いい製品だし、理想どおりだった。だから購入したのだ」「おかしな気分にはなりませんでしたか?」「全くならなかった。わたしは日本人に敵…

ピート・ハミル 著『ニューヨーク・スケッチブック』より。恋愛というのはできるうちにせっせとしておいた方が良い。

長い沈黙のあとで、彼女は声をふるわせて言った。「あたし、あの頃とは見分けがつかないくらい老けちゃったわよ」「おれだってそうさ」サルの声は、歌手志望の頃の低音域に落ちた。「あたし、成人した子供が三人いるの。それから、毎日庭の手入れなんかして…

朱野帰子 著『わたし、定時で帰ります。3』より。100年前に闘ってくれた労働者に申し訳ない。

「残業時間は月20時間まで。超過はダメですよー。東山さんの評価に響いちゃうので。」(朱野帰子『わたし、定時で帰ります。3』新潮文庫、2023) こんばんは。これですよ、これ。職員室でも聞きたい台詞は。引用の《東山さん》は管理職です。だからこの台…

池田信夫 著『日本人のためのピケティ入門』より。資本主義では格差も不平等も拡大する。

今までの経済学では「資本主義の発展とともに富が多くの人に行き渡って所得分配は平等化する」とされてきました。これは資本の生産性が労働を上回れば投資が増えて資本収益率が下がり、労働生産性に近づくと考えられていたからです。現実にも、クズネッツな…

三浦英之 著『太陽の子』より。日本がアフリカに置き去りにした秘密とは?

コンゴは世界的に見ても資源が極めて豊かな国であり、それゆえにその膨大な資源の恩恵に与ろうと先進国が蟻のように群がっている。地下の資源が豊かすぎるために、地上では何かを生み出そうとする産業が育たず、人々はレオポルド二世の時代から何一つ変わる…

沢木耕太郎 著『夢ノ町本通り』より。深夜特急の旅に出る直前に書いたという幻のエッセイを初収録!

以前、私は書く側における「方法への疲労」というものについて考えたことがあった。明確な方法意識を持って書きつづける書き手には、ある時、その方法に対する疲労感とでもいうべきものが生まれ、そこからの脱出を夢見るようになるのではないか、と。しかし…

三浦英之 著『白い土地 ルポ 福島「帰還困難地域」とその周辺』より。How wonderful my life with you is !

彼はきっと「知らない」のだ ―― かつての私がそうであったように。 廃炉作業が思うように進んでいない福島第一原発の現実も。《白地》と呼ばれる100年以上も住民が住めない帰還困難地区が広がる沿岸部の風景も。そこで暮らす人々の気持ちも。ただ故郷で暮…

畠山理仁 著『黙殺』より。映画『NO 選挙,NO LIFE』(前田亜紀 監督作品)とセットで、ぜひ。

2017年に行われた衆議院議員総選挙では、被選挙権を持つ25歳以上の有権者のうち、立候補した人の割合は「約7万5千人に1人」だった。2019年の参議院議員通常選挙(被選挙権30歳以上)では「約25万人に1人」の計算だった。この数字を見れば…

今井孝 著『らくらく売る人のアタマの中』より。らくらく売って、らくらく贈る人に。

ここで、最も楽な集客方法をこっそり教えます。 それは、「一人ひとりに声をかけること」です。 そう言うと多くの人が「面倒だ!」「余計にしんどい!」と言います。 しかし、これはウソではありません。本当にそれが最も楽に集客できるのです。(今井孝『ら…

村上靖彦 著『仙人と妄想デートする』より。自らの自由な実践の土台となるプラットフォームを生み出す。

看護実践は無数の多様さへと開かれている。看護師の個性だけでなく、さまざまな疾患に応じて、さまざまな病棟文化に応じて、個々の患者や家族の個性や文脈に応じて、一つとして同じ実践はないであろう。本書では精神科と助産、訪問看護を中心に、保護室での…

尾登雄平 著『「働き方改革」の人類史』より。映画『NO 選挙,NO LIFE』をもじれば「NO 労働,NO LIFE」。それって、本当?

ビジネス書は読者を啓発するためのものなので、ネガティブなことにはあまり触れません。あなたはどうすれば成功するのか、生き残れるか、といったことを書きます。「できない」人は想定読者ではないので、当たり前と言えば当たり前です。ただ、同じ社会の構…

ジョン・ハンター 著『小学4年生の世界平和』より。エンプティー・スペース(考える余地)をたっぷりと生み出す。

母は私に――それどころか誰にも――答えを与えてはくれなかった。その代わり、私たちが探求者、探検者、開拓者になれるだけの余地を創り出してくれた。こうして私はわずか9歳の小学生ではあったが、あのエンプティ・スペースに秘められたパワーのすごさに気づ…

阿部彩 著『弱者の居場所がない社会』より。弱者の居場所がある教室をつくる。

どのような状況にあっても、彼らが最後までかじりついていたのが「つながり」であり、「役割」であり、「居場所」であった。私たちが当たり前のように享受しているこれらが人間の生にとって、いかに大切なのか、いかに基礎的な存在なのか、それを彼らのエピ…

チョ・ナムジュ 著『82年生まれ、キム・ジヨン』より。それで、あなたは何を失うの?

「それで、あなたが失うものは何なの?」「え?」「失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友だちっていう社会的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だから失うもののことばっ…

東浩紀 著『訂正する力』より。東浩紀はじつは・・・・・・と言っていた。

訂正する力は、そのような「事前承認」は求めません。単に「このルールはおかしいから変えるべきだ、否、じつはもともとこう解釈できるものだったのだ」と行動で示し、そのあとで事後承認を求める。それが訂正の行為です。だからそれは、ある観点では単なる…

姫岡とし子 著『ヨーロッパの家族史』より。家族とはなにか。

16世紀フランスの哲学者モンテーニュは、「乳児期の子どもを2、3人なくし、残念に思わなかったわけではないが、ひどく悲しむというほどのことではなかった」と述べている。彼が特別だったわけではなく、乳幼児死亡が非常に高かった18世紀半ばころまで…

赤松啓介 著『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』より。この子の顔、俺に似とらんだろう?

結婚と夜這いは別のもので、僕は結婚は労働力の問題と関わり、夜這いは、宗教や信仰に頼りながら過酷な農作業を続けねばならぬムラの構造的機能、そういうものがなければ共同体としてのムラが存立していけなくなるような機能だと、一応考えるが、当時、いま…

サマセット・モーム 著『雨・赤毛』より。国家が、あとからやってきた。宣教師も、あとからやってきた。

「いいですか、彼らは生まれながらに堕落しているのです。だから何と言ってやっても、自分の罪悪がわからないのです。彼らでは自然な行為のつもりでいるものを、罪悪だと意識させてやる必要があったのです。姦淫を犯したり、嘘をついて物を盗むばかりではな…

松村圭一郎 著『くらしのアナキズム』より。国家が、あとからやってきた。学校も、あとからやってきた。

「国家」について意識しはじめたのは、22歳で訪れたエチオピア西南部のコンバ村でのことだ。当時60代半ばだった農民男性、アッバ・オリは、彼の人生と村の歴史について教えてくれた。それはとても衝撃的だった。国家が、あとからやってきた(・・・・・…

佐藤愛子、田辺聖子 著『男の背中、女のお尻』より。みっともない大人に俺はなる。

私が佐藤愛子さんを知った最初の頃、彼女はみずみずしく、そして、若かった。 襟ぐりの広いワンピースかなにかを着ていて、そこに白い肌が現われて、私は、〈やりたいなあ〉と思ったこともある。 今でも佐藤愛子さんはきれいである。ときどき、〈おや〉と思…

伊坂幸太郎 著『777』より。他人と比べた時点で、不幸は始まる。

二十代前半の社会人といったところだろうか、久しぶりの再会に花を咲かせている様子もある。同窓会のような集まりなのかもしれない。背の高い男が自分の会社の残業代についての愚痴を洩らすと、別の男が、「それくらい、俺なんて」と嘆きながらも誇らしげな…

東浩紀 著『訂正可能性の哲学』より。家族も一般意志も、変わらないために変わり続ける。

そして20世紀が終わるころには、そもそもソ連が崩壊したこともあり、大きな物語のような発想はほとんど支持されなくなった。1971年生まれのぼくは、学生時代にまさに「大きな物語の終わり」を叩き込まれた世代にあたる。人類の歴史にまっすぐな進歩な…

阿川佐和子、村上春樹、吉田直哉、他『おいしいアンソロジー ビール』より。子どもに任せるって、難しい。

クリント・イーストウッドの映画『グラン・トリノ』で主人公の、超頑固でタフな元自動車組み立て工のおっさんが、常に国旗を掲げた自宅のポーチで飲むのも、常に缶入りのブルー・リボンだった。手すりに足を載せ、狭い前庭を面白くもなさそうに眺めながら、…

池田賢市 著『学校で育むアナキズム』より。How wonderful my life with you is !

ところが、このように学校にとって大切であるはずのチャイムをなくす取り組みをしている学校がある。しかも、それほど珍しくなくなってきているようだ。これは、アナキズムにとって朗報かと思いたくなるのだが、実はそうではない。子どもたちの自由を保障す…

メルヴィル 著『白鯨(下)』より。もしもエイハブ船長がサードプレイスから白鯨のことを考えていたとしたら。

凪のあとには嵐があり、嵐のあとには凪がある。人生はただ事もなく一直線にすすむことはない。人生は階段をのぼるように進行し、それをのぼりつめたところで、はい、おしまい ―― というようなものではない。幼児期の無意識の魅惑、少年期の盲信、青年期の迷…

メルヴィル 著『白鯨(中)』より。「小説」も「教育」も、つまるところ「何でもあり」なのだ。

幹から枝が生え、枝から小枝が生えるように、豊饒なる主題から、あまたの章が生まれる。 前章でふれたクロッチについては、独立の章をもうけて論じる価値がある。それは先端が三叉に割れた特殊な形態をもつ棒で、長さが二フィートほどあり、ボートの舳先近辺…