田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

2023-01-01から1年間の記事一覧

メルヴィル 著『白鯨(上)』より。鯨を恐れないような者は、私のボートにはひとりも乗せん。

「白鯨のゆがんだあぎとでも、死のあぎとでも、わたしはひるみません。エイハブ船長、それがちゃんとした商売の道理にかなっているのならば、です。わたしがここにおりますのは、鯨をとるためでして、船長の復讐に手をかすためではありません。たとえあなた…

中野円佳 著『なぜ共働きも専業もしんどいのか』より。主婦のしんどさを生み出す構造と、教員のそれは似ている。

その答えは、専業であれ、兼業であれ、さまざまな負担を主婦に押し付けることで社会を回してきた日本の循環構造にあったと私は思う。政府、企業、学校や保育の在り方。そして人々の意識。「女性が輝く社会」という標語がむなしく思えるのも、構造的な女性の…

朝井リョウ 著『正欲』より。地球に留学しているみたいな感覚なんだよね、私。

こっちはそんな、一緒に乗り越えよう、みたいな殊勝な態度でどうにかなる世界にいない。マイノリティを利用するだけ利用したドラマでこれが多様性だとか令和だとか盛り上がれるようなおめでたい人生じゃない。お前が安易に寄り添おうとしているのは、お前が…

山内健生 著『新装版 私の中の山岡荘八 思い出の伯父・荘八』より。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

それはともかく、伯父の作品の根底には、すべてとは言わないまでも、ことに長編の場合、「天下国家のより良いあり方」を志向する傾きがあった。現代風に言うと「公」への意識があって、つねに「公」と「私」のかね合いが頭にあったようだ。その意味で「私」…

朱野帰子 著『会社を綴る人』より。山崎豊子さんの『白い巨塔』に勝るとも劣らない社会派小説。

口頭ではなく文書で残す。それが会社の原則だ。会社は夥しい数の社内文書によって、様々な社員の手によって綴られている。 その社内文書を改竄することを許してしまった会社が、こまめに粉の掃除ができるだろうか。過去の事故の記憶を正確に語り継ぎ、悲劇が…

秋山大輔 著『萩原健一と沢田研二、その世紀』より。我と汝、その世紀。

秋山 今の世相ですと皆無ですね。蜷川 学生に教えてあげたいわ。もっと過激に創作する方法や思考を。猪瀬 やっぱりそうだよね。当時はそういう野放図な感じがありましたね。(秋山大輔『萩原健一と沢田研二、その世紀』デザインエッグ、2023) こんにちは。…

朝井リョウ 著『時をかけるゆとり』より。著者の6年生のときの担任、素晴らしいってよ。

ひたすら日記を書き続けていた小学六年生の私にとって、世界でたったひとりの読者は当時の担任の先生だった。毎日提出する日記に返ってくる一言コメントが、唯一の感想だったのだ。まるでどこかで連載をしているプロになったかのような勘違いを、私は精一杯…

平野啓一郎 著『三島由紀夫論』より。執筆開始から23年。670頁の大作。読まねばならない!

本書は、三島が最後の行動に至る軌跡を、その作品に表現された思想に忠実に辿るものだが、では、その死が必然的なものであり、不可避であったかと言えば、必ずしもそうとは思わない。三島自身が政治思想の偶然性を強調している通り、『鏡子の家』に対する文…

佐藤厚志 著『荒地の家族』より。祭りを通して学ぶ、ここが他のどこでもない地元だという根拠の大切さ。

滑らかな白いコンクリートがどこまでも続く。道路ができ、防潮堤が聳え、土地は整備された。日がな一日風が吹きすさび、ひとつとして特徴を見出せない浜を見渡すと、ここがどこだかわからなくなる。実際、どこでもなかった。荒浜でも吉田でも鳥の海でもない…

織守きょうや、坂井希久子、額賀澪、原田ひ香、柚木麻子 著『ほろよい読書』より。君たちはどう生きるか。

「でもま、しょうがないよね。もうナオのいない世界には戻れないし、考えたくもない。体はキツいし悩みごとも増えたけど、全部帳消しになっちゃう瞬間があるから。妊活頑張った甲斐があったよ」「そっかぁ」「いいよ、子供。予測不可能で」 カランと、手にし…

青山美智子、朱野帰子、一穗ミチ、奥田亜希子、西條奈加 著『ほろよい読書 おかわり』より。読書は日常。

「月並みだけど、生牡蠣食べるならこれだよね」と行人が選んだのはシャブリだった。レモンのように酸味が強く、生牡蠣のミネラル感と同調してくれる。一杯目はいつもこれだ。「ワインもいいけど……」と莉愛は迷っていたが、「やっぱ日本酒かな」と純米吟醸を…

村上靖彦 著『客観性の落とし穴』より。これからの社会に必要なのは、数値化の鬼ではなく、物語化の鬼。

「弱肉強食」ではなく「人は弱い」ということを前提とした制度設計が必要である。無償のケア労働におけるジェンダー不平等、無償の家族介護を前提とした介護保険制度、あるいは福祉・介護職における非正規労働・低賃金、そして広義にはケアワーカーであると…

小川糸 著『私の夢は』より。生きている限り、夢は増えていくもの。

日本に戻ってきて、人工物の多さにぎょっとした。ウランバートルは大都会だけど、そこから車で30分も走れば、もう電気もない大草原だったから。日本の町並みを見て、よくぞここまでいろんな物を作ったなぁ、と感心してしまう。 そして、人の多さにもびっく…

今木智隆 著『算数日本一の子ども30人を生み出した究極の勉強法』より。根拠は、小学生30億件の学習データ!

宿題がなくても、子どもたちは毎日学校に通い、5時間、場合によっては6時間も授業漬けなのです。学校が終わってようやく帰宅するころには、脳も肉体も消耗しきっています。そんなフラフラの状態の子どもに宿題を課し、家でもさらに何時間も勉強させようと…

小川糸 著『食堂かたつむり』より。新鮮な心で、厨房に立っていたい。新鮮な心で、教壇に立っていたい。

薪割り作業を終えた熊さんと一緒にお昼の釜揚げうどんを食べた後、私はさっき摘んできた山ブドウを丁寧に洗って煮つめ、バルサミコ酢の仕込みにかかった。 完成するのは、十二年後。どんな味に生まれ変わるのか、目を閉じて想像してみる。 もしかしたら途中…

町田そのこ 著『52ヘルツのクジラたち』より。メルヴィルの『白鯨』にも、村上龍さんの『歌うクジラ』にも負けない傑作。

52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿はいまも確認されていないとい…

リヒテルズ直子、苫野一徳 著『公教育で社会をつくる』より。保護者は、学校にとってかけがえのないリソースだ。

また、教員と保護者の協働は、教員の仕事を軽減するためではなく、子どもたちが直接触れる大人の社会が市民社会として機能していることを学校を舞台として見せるため、言い換えるならば、学校を、子どもを取り巻く「共同体」にするためという積極的な目的の…

重松清 著『せんせい。』より。贈与の受取人(児童生徒)は、その存在自体が贈与の差出人(先生)に生命力を与える。

僕は教師という職業が大好きで、現実に教壇に立っていらっしゃるすべての皆さんに、ありったけの敬意と共感を示したいと、いつも思っている。けれど、僕は同時に、教師とうまくやっていけない生徒のことも大好きで、もしも彼らが落ち込んでいるのなら「先生…

小林祐児 著『リスキリングは経営課題』より。日本人のキャリアの特徴は「中動態的」。だから世界一学ばない。

実際に日本の現場で目にするのは、キャリアの主導権を企業に握られつつも、「なんだかんだ、そこそこ楽しく」働いている多くの会社員の姿です。すごく仕事を楽しんでいるわけではないけれど、とはいえ居酒屋で愚痴っていれば解消するくらいの不満しか抱えな…

映画『怪物』(是枝裕和 監督作品)より。こどもはおそろしい? それともおもしろい?

この映画は、こどもたちの現実を母親と教師の視点からそれぞれに描き、親と子、教師と生徒の関係の困難さを浮き彫りにするが、映画が最終的に辿り着くのは、育てる側ではなくこどもたち自身の世界だ。(劇場用パンフレット『怪物』東宝ライツ、2023) こんに…

藤原章生 著『差別の教室』より。一方的な見方はやめろよ、違うんだよ。

計15年ほど世界各地に暮らし、現地の人と親しんできました。そうした友人たちを振り返ったとき、その人を語る上で、例えば「コロンビア人」「中国人」といった国籍はさほど大きくないと気づきました。国籍は、その人のいくつかある属性の一つにすぎず、そ…

マルティン・ブーバー 著『我と汝』(野口啓祐 訳)より。ごん、youだったのか。

〈われ〉ー〈なんじ〉の根源語は、自分の全身全霊を傾けて語るよりほか方法がない。わたしが精神を集中して全体的存在にとけこんでゆくのは、自分の力によるのではない。しかし、そうかといって、自分なしでできることでもない。まことに、〈われ〉は、〈な…

橋爪大三郎 著『核戦争、どうする日本?』より。台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。

台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。 台湾侵攻は、台湾に対する攻撃である。中国と台湾との戦争である。それは、中国とアメリカとの戦争になる。そして自動的に、中国と日本との戦争になる。台湾有事とは、日中の軍事衝突にほ…

内田良、小室淑恵、田川拓磨、西村祐二 著『先生がいなくなる』より。学校の働き方改革は「先生以外の人たち」とも無関係でない。

小室 若い教員の方と話をしていると、「給特法というのは教員の仕事が特別で、その特殊性を守るために作った法律だから残すべき」とおっしゃる方もいます。しかし実際は、当時労働時間に関する訴訟が増えて、そういった裁判に国が負けないために定額働かせ放…

水野敬也 著『夢をかなえるゾウ4』より。夢のかなえ方と、夢の手放し方。子どもたちにも教えよう。

「頑張ることが『良い』とされればされるほど、頑張らへんことは『悪い』ことになる。若さを保つことが『良い』とされればされるほど、老いることは『悪い』ことになる。夢をかなえることが『良い』とされればされるほど、夢をかなえてへんことは『悪い』こ…

映画『午前4時にパリの夜は明ける』(ミカエル・アース監督作品)より。余白が教育になる。

葛藤の不在にもかかわらず、映画を印象的で夢中になれるものにするために、音楽性、色調、抒情性を表現しようと挑戦しています。自分の人生観を反映した映画を作ろうと思っています。私は、人生において、余白だと思われるような部分を描いた映画を作りたい…

村上龍 著『ユーチューバー』より。恋とその不確かな壁。

「インドドレスのことは不思議に強烈に覚えてるんだ、他のことは曖昧になってるんだけどね。スミコはあるとき、クスリを大量に飲んで、病院に入り、田舎から、岡山から母親が来て、連れて帰った。~中略~。ここまでが受賞前だ。おれは二十三歳で、その年の…

凪良ゆう 著『汝、星のごとく』より。過去は変えられる。

会社と刺繍のダブルワークに加えて、母親の世話をしていたあのころに比べたら軽いと思える。ならば、あのころのわたしを絶望させていたことも無駄ではなかった。過去は変えられないと言うけれど、未来によって上書きすることはできるようだ。とはいえ、結局…

ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ 著『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』より。事例がおもしろい。

FBI捜査官の任務は多岐にわたる。母国に対してスパイ活動を行うよう外国の人間をスカウトすることもあれば、犯人を割り出して自白させることもある。そうした任務をこなしているうちに、人に好かれ、信用してもらい、相手を意のままに動かすうえで非常に…

松岡亮二、髙橋史子、中村高康 編著『東大生、教育格差を学ぶ』より。教員も、学びましょう。

ヒラノ 私は10歳ぐらいまで、漫画という存在すら知らない状態で育ちました。松岡 これも「あるある」だと思います。漫画もそうだし、あとはどんなテレビ番組を家族で見ていたか。多分似たような経験を持っている人はいると思うけど、私が小学生の頃は、N…