彼はきっと「知らない」のだ ―― かつての私がそうであったように。
廃炉作業が思うように進んでいない福島第一原発の現実も。《白地》と呼ばれる100年以上も住民が住めない帰還困難地区が広がる沿岸部の風景も。そこで暮らす人々の気持ちも。ただ故郷で暮らしたいと願う、県外でそれぞれ避難生活を送る家族が離れて見る夢も。
自信満々に回答を述べた総理大臣のその晴れやかな表情を見たとき、私は絶望にも似た感情と共に、誰かが彼にそれを伝えなければならないという焦燥感を覚えた。
(三浦英之『白い土地 ルポ 福島「帰還困難地区」とその周辺』集英社文庫、2023)
こんにちは。3日前の水曜日にちょっとというかかなり凹むことがあって、あまりそういうことはしないのですが、帰路、自棄酒をあおってしまいました。で、絶望にも似た感情と共に、誰かにそれを聞いてほしいという感情を覚え、
発信。
心はご一緒してます🍶
— 勅使川原真衣|「能力」の生きづらさをほぐす (@maigawarateshi) December 6, 2023
お疲れ様です。
そしたらですね、なんと、名著『「能力」の生きづらさをほぐす』の作者である勅使川原真衣さんがリプをくれたんです。二児の母であり、2020年から乳ガンと闘っている、あの勅使川原さんが、です。心はご一緒してますって、
嬉しい。
誰かに話を聞いてほしい。おそらくは乳ガンと闘っている勅使川原さんの方が、そう思う機会は圧倒的に多いはずです。それなのに、どこの馬の骨ともわからない私にリプをくれるなんて、やさしい。もしも同僚に勅使川原さんのような人がいたら、沼ってしまうかもしれません。否、間違いなく沼るでしょう。胃ガンと闘っていた浪江町長の馬場有さんをはじめとする、福島「帰還困難地域」とその周辺の人々が、じわじわと三浦さんに沼っていったように。私の師匠が「一緒に震災を生きる意味を考え、何度も取材に応えた人。彼は理解力と人情を併せもつ優秀な記者でした」と絶賛していた、新聞記者の三浦英之さんに、です。
「どうしても後世に伝えて欲しいことがあります」と彼は事前に準備していたのだろう、今度は私の両目をしっかりと見つめ、胸の中に詰め込まれていたものを吐き出すように話し始めた。「今でも『原発事故による死者はいない』と言う人がいますが、あれは完全に間違いです。浪江町にはあの日、本来の情報が届いていれば、命を助けることができたかもしれない人がいた。それをどうしてもあなたに伝えて欲しく・・・・・・」
三浦英之さんの『白い土地 ルポ 福島「帰還困難地域」とその周辺』を読みました。日本人全員に「知ってほしい」、それが無理なら義務教育学校で働いている全教員に「知ってほしい」、大事な一冊です。ちなみにタイトルの「白い土地」は、簡単にいうと政府から見捨てられたエリア、すなわち《帰還困難区域の中でも特定復興再生拠点区域以外のエリア》のことを指します。全く知りませんでした。
大切なのは、知ることだ。
疲れていたし、三浦英之さんの『白い土地 ルポ 福島「帰還困難区域」とその周辺』の続きが読みたかったし、年休1。疲れが癒えるというか、疲れたなんて言ってられないというか、三浦さんのような記者がもっといたら、新聞の衰退も、日本の衰退も、もっと緩やかなものになっていただろうに。#読了 pic.twitter.com/JgovLfpKdo
— CountryTeacher (@HereticsStar) December 8, 2023
何を知ってほしいのかといえば、副題にそうあるように、福島「帰還困難地域」とその周辺の現状と、福島の原発事故によって戦争にも似た暴力を受けた一人ひとりの物語です。教室に足を運ばない、学級通信にも目を通さない管理職が、「アンダーコントロール」だなんて言えないように、福島のリアルを知っていれば、「アンダーコントロール」だなんて、
言えない。
私はいつからかこの「アンダーコントロール」という言葉こそが今の福島を苦しめている元凶ではないか ―― もっと踏み込んで言えば、今の福島の現状は「アンダーコントロール」という言葉によってコントロールされているのではないか ―― と考えるようになった。
アンダーコントロールというのはもちろん、安倍晋三元首相が東京オリンピックを誘致する際に使った言葉です。三浦さんの見方・考え方によれば、先の戦争で「全滅」を「玉砕」、「敗戦」を「終戦」と言い換えたのと同じように、この「アンダーコントロール」もまた、為政者たちの責任を曖昧にする言葉として機能してしまっている。しかも、残念なことに、安倍元首相は《本当にそう信じているらしい》。
大切なのは、知ることだ。
知れば、東京オリンピックのときに掲げられた「復興五輪」という言葉の対象が原発被災地や津波被災地ではないことにも気づくかもしれません。福島県浪江町で新聞配達をしながら現地の人々の生活を取材し、原発被災地に3年半住み込んだ三浦さんは、アンダーコントロールとは反対の、アウトオブコントロールの現状を知って、
気づきます。
政府が掲げる「復興五輪」―― その言葉自体に偽りはない。ただ、その対象が彼らと私では違っていたのだ。彼らが掲げる「復興」とは、原発被災地や津波被災地の「復興」ではなく、彼らが暮らす首都・東京の「復興」。もっと踏み込んで言えば、その東京に電気を送る東京電力の「復興」ではなかった。
知れば、見方・考え方が変わります。だから、知らないといけません。伝えないといけません。子どもたちに教えないといけません。知ってもらうために、三浦さんは物語のようなルポタージュを描きます。旧満州に設立された満州建国大学の卒業生のその後を物語った『五色の虹』と同じように、忘却に抗うべく災後を生きる現地の人々を物語った『災害特派員』や『南三陸日記』と同じように、
静かに熱く。
知って、気づいてしまった三浦さんは、ルールを破って直接訊ねるんですよね、当時の最高権力者に。次の場面は、終章の前の章に出てきます。
「すいません!」
次の瞬間、私はテレビカメラの三脚の下から手を上げて、冷静に大きな声で安倍の背中を呼び止めた。
「地元・福島の記者なのですが、質問をさせていただけませんでしょうか」
(中略)
ルール違反 ―― 内閣府担当者や総理番からの鋭い視線が私へと注がれた。
三浦さんをこのような行動へと駆り立てた「原発被災地での3年半」はどのようなものだったのか。どんな人物に出会い、どんな会話を交わし、どんな思考を積み重ねたのか。どんな感情に揺さぶられたのか。全11章の物語。ぜひ手に取って、読んで、知ってほしい。そして、可能であれば、
大切な人にプレゼントしてほしい。
美味しいお酒と、世界でたったひとつの音楽と、「How wonderful my life with you is !」と思えるあたたかい人たちと。ちょっと回復。 pic.twitter.com/Q9HPEw6IoC
— CountryTeacher (@HereticsStar) December 8, 2023
昨夜、服部龍生さんのライブを聴きに行きました。服部さんは、既存のジャンルには収まらない音楽を創っている、三浦さん同様に稀有な人です。稀有故に「実際に足を運んでもらわないことにはわかってもらえない」とのこと。やはり、現地に足を運ぶって大事です。そして現地にこそ、服部さんの名曲のタイトルに相応しい「素晴らしさ」が、ある。
How wonderful my life with you is !
これから所見を書きます(涙)。