田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、旅行、映画」

三浦英之 著『南三陸日記』より。「生きる」ということは、「守る」ということ。

 卒業式の直前、教頭は生徒の作文を読んで驚いた。「津波が起きて『良かった』と思えるようになりたい」とある女子生徒は書いていた。
 大切な人や家も失い、悲しくて、苦しくて、今はどうにもならないけれど、それをいつか「良かった」と思えるぐらい、自分は大きくなりたい――。
 教頭は、「大丈夫だ」と自分に言い聞かせた。
「この不条理を乗り越えていく力を、たぶんもう、この子たちは持っている」
(三浦英之『南三陸日記』朝日新聞出版、2012)

 

 おはようございます。読みたかった本を読むとか、会いたかった人に会うとか、ネットカフェ初体験とか、そういった特別なことは何もしないまま三が日が終わってしまいました。家族とまったり過ごした3日間。12月があまりにもハードだったので、充電が必要だったようです。

 

「何もしない」は最高の何かにつながる。

 

 くまのプーさんの名言です。今のところ「つながり」という概念の暗示すらありませんが、まぁ、それはそれで仕方ありません。ちなみに教室の中でも「プーさんの弟子か?」というような子どもに出くわすことがあります。そんなとき、一昔前の私は「最高の何かの代わりに先生の小言が飛んでくることをそろそろ理解してほしい」という思いで何もしないその子を無理矢理せき立てていましたが、今はそういった子を見かけてもほとんど何もしません。ケースバイケースとはいえ、基本的には「そういう気分じゃないんだね」って、あたたかく見守るだけです。

 

 何もしないをするをよしとする。

 

 少し意味合いは違うかもしれませんが、初任校のときの師匠も「与える=定着するという発想に陥らないように」と、プーさんと似たようなことを話していました。続けて「今はわからなくても、いつかわかるときがくる」という話も。さすが師匠です。カッコいい。数年後に朝日新聞社の三浦英之さんから取材を受けるだけのことはあります。

 

南三陸日記 (集英社文庫)

南三陸日記 (集英社文庫)

  • 作者:三浦 英之
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: 文庫
 

 

 三浦英之さんの『南三陸日記』を読んだのは2014年です。文庫本ではなく、単行本(2012年3月  発行)で読みました。発売直後に読まなかったのは、単に知らなかったからです。震災の数年前に教員採用試験を受け直し、東北から遠く離れた他県に旅立っていたため、書店の入り口に『南三陸日記』が平積みされているというようなこともありませんでした。

 

 三浦さんが実際に被災地に住み、現地で書き続けた『南三陸日記』。

 

 人災と天災という違いはあるものの、村上春樹さんの『アンダーグラウンド』と同じように、その場にいた一人ひとりの心の揺れやその後の葛藤のようなものが皮膚感覚で伝わってくる作品です。再読であっても、一度読み始めると目を離すことができません。一つひとつのエピソードに挟み込まれた写真も、文章との相性が抜群でとてもいい。個人や家族へのインタビューをもとに構成されていることから、最初に読んだときには「知っている人が出てくるかもしれない」と思いながら読み進めていったことを覚えています。

 

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被災地にて(2011.4.30)

 

 読み進めている途中で、ある中学校の名前に目がとまりました。師匠が震災時に「教頭」として勤めていた中学校です。もうおわかりだと思いますが、冒頭に引用した文章に出てくる「教頭」が、私の師匠です。

 

 この不条理を乗り越えていく力を、たぶんもう、この子たちは持っている。

 

「2012年  春」という章に出てくる師匠の言葉です。師匠らしい台詞に、ちょっと泣けてきてしまいました。復旧したばかりの新幹線に乗って、2011年の4月末に被災地に行ったときには、師匠は話をできるような状態ではありませんでした。私が会いに行ったことすら覚えていないかもしれません。それから1年後の、この力強いコメント。

 

 師匠は、大丈夫だ。

 

 三浦さんの《私はこの町で取材ができることを、心の底からうれしいと思った》という文章も、うれしく思いました。地域の復興に尽力する師匠や学校関係者の活躍に光が当てられているような気がしたからです。

  

「生きる」ということは、「守る」ということなのだと、私は今回の震災で改めて学びました。守るべきものはいつだって、小さく、ささやかで、壊れやすい。それらをどうやって守っていくのか、そのヒントのようなものを、私はこの被災地で学んだような気がしています。出会えた多くの「家族の風景」に、心から感謝しています。

 

 三浦さんのあとがきより。取材者である三浦さん自身が、守るべき小さな子どもを二人抱えたパパであることから、上記の「家族の風景」という言葉には、本当に大きな実感が込められているのだろうなと想像します。

 

 家族の風景。

 

 特別なことは何もできないまま過ぎてしまった三が日でしたが、『南三陸日記』をパラパラと読み返し、《大切な人や家も失い、悲しくて、苦しくて、今はどうにもならないけれど》なんていう文章を眺めていると、家族とまったり過ごすっていうのは、最高の贅沢なのかもしれないって、そう思えてきました。あっ、そうか。「『何もしない』は最高の何かにつながる」の最高の何かって、このことか。

 

 師匠、わかりました!
 

 

プーと大人になった僕 (ディズニーアニメ小説版)

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アンダーグラウンド (講談社文庫)

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  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/12
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