コンゴは世界的に見ても資源が極めて豊かな国であり、それゆえにその膨大な資源の恩恵に与ろうと先進国が蟻のように群がっている。地下の資源が豊かすぎるために、地上では何かを生み出そうとする産業が育たず、人々はレオポルド二世の時代から何一つ変わることなく、そこにある資源を奪い合う「ゼロサムゲーム」を繰り返している。豊かすぎるゆえにこの国は貧しく、豊かすぎるゆえに人々は今も殺し合って生きているのだ。
そしてその「ゲーム」の一つの結末として、今、私と田邊が取材している日本人の子どもたちがいる。
(三浦英之『太陽の子』集英社、2022)
おはようございます。かつての同僚に「コンゴに住んでいたことがある」という変わった経歴をもつ先生がいて、「当時、絶大な人気を誇っていたモブツ大統領が、軍用ヘリに乗って学校にやってきて、小学6年生だった私が児童を代表して花束を渡した」とか「6年生は2人しかいなかった」とか「父は日本鉱業という会社に勤めていた」とか「先に父が赴任して、1年くらい経ってから家族で行った」とか、そういった話をしばしば聞いていたので、三浦英之さんの『太陽の子』の舞台がコンゴだとわかって、さらにその舞台で大きな役を演じているのが日本鉱業だとわかって、大興奮というか、
即連絡。
三浦英之さんの『太陽の子』読了。かつての同僚が、舞台となっているコンゴのルブンバシに「小学生のときに住んでいた」と口にしていたことを思い出し、即連絡。本の内容を伝えると、母からそういった話を聞いたことがある、必ず読むし、できれば著者に会いたい、と興奮していた。私も興奮。#読了 pic.twitter.com/4GehyvOwwI
— CountryTeacher (@HereticsStar) December 16, 2023
その先生も、この土日で『太陽の子』を読んでいるのではないでしょうか。おそらくはその先生の母も。太陽の子が放った光が、一冊の優れた本となって、《ゲーム》の周辺にいた人たちのもとへと届く。
三浦さん、すごいなぁ。
三浦英之さんの『太陽の子』を読みました。第22回新潮ドキュメント賞と第10回山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞したルポタージュで、副題は、
日本がアフリカに置き去りにした秘密。
秘密を解き明かすにあたって、三浦さんは所属組織である朝日新聞社と闘っています。秘密の内容があまりにもセンシティブなものだったからです。
『太陽の子』といえば、小学校の教員にとっては、灰谷健次郎さんの同タイトルの作品を連想するのではないでしょうか。沖縄県出身者を両親にもつ少女が、父の精神疾患をきっかけに沖縄戦や沖縄県出身者の置かれた立場と心情に触れていく様子を描く、映画にもなった長編小説です。一方、三浦さんの『太陽の子』は、日本人の父とコンゴ人の母を両親にもつ数多くの子どもたちが、父の帰国をきっかけにって、えっ?
日本人の父とコンゴ人の母?
そうなんです。いわゆるミックス・ルーツの子どもたちが、冒頭の引用でいうところの「ゼロサムゲーム」を繰り返しているコンゴに、たくさんいるんです。朝日新聞社のアフリカ特派員として南アフリカのヨハネスブルグに駐在していた三浦さんもさぞかし驚いたことでしょう。しかも、三浦さんがそのことを知ったのは、次のような投稿(Twitter、2016.3)だったというのだから、
なおさらです。
〈朝日新聞では、1970年代コンゴでの日本企業の鉱山開発に伴い1000人以上の日本人男性が現地に赴任し、そこで生まれた日本人の子どもを、日本人医師と看護師が毒殺したことを報道したことはありますか?〉
子ども? 毒殺? 日本人医師?
もちろん、そこは新聞記者です。すぐには信じなかったそうですが、フランスの国際ニュースチャンネル「フランス24」でも同内容の報道がなされていることを知り、さらには取材途中にイギリスの公共放送BBCでも同内容の報道がなされていることを知り、三浦さんは報道されている内容は本当なのか(?)という問いとともに、複数の「なぜ?」を抱えます。Twitterの投稿主が教師で、三浦さんが児童だとすると、教師の発問によって児童の頭の中にいくつもの問いが生まれたのだから、授業としては花丸の展開です。
ただし、重い。
日本がアフリカに開設した巨大鉱山で一体何が起きたのか。日本人の父親から生まれたと主張する「子どもたち」はなぜ、最貧国のアフリカの地に「置き去り」にされなければならなかったのか――。
三浦さんは、その「子どもたち」に会いに行きます。一人一人に話を聞きに行きます。著書『黙殺』で知られる畠山理仁さんに「取材の鬼」と呼ばれる三浦さんです。当然、日本鉱業で働いていた人たちや当時の医師たちにも取材します。さらに、フランス24やBBCにも取材します。いわば「NO 取材,NO WRITE」。この子どもたちの声を、存在を、
黙殺してはいけない。
多くのみなさんにこの『太陽の子』を手にとって欲しいので、黙殺されている日本人残留児の声を、三浦さんの静かで熱い言葉と合わせて、ふたつ引用します。
「俺、実は空手をやっていてね」とジョーは筋肉でTシャツが張り裂けそうな胸の前でガッツポーズを作って言った。「小さい頃、親父がいない家で育ったから、やっぱりいじめられた。で、格闘技を始めた。人より強くなりたくてね。そうしたらもう、空手かなって。俺、日本人だからさ」
多くの日本人残留児がそうであるように、ジョーもまた自らのアイデンティティーを、激しくすがりつくように、日本のどこかに求めていた。
泣けます。
誰だってそうなのだ、と私は思おうとした。我が子が生まれる瞬間は誰にとっても人生に与えられた最高の瞬間であるはずだった。タカシの父親に限らず、今も多くの日本人労働者たちがコンゴに残してきた家族のことを心のどこかで想い続けていると信じたかった。うまくいけば将来、失われた親子の絆をつなぎ直せる日がやってくるかもしれない……。
「もし、お願いできるなら、日本で僕のお父さんを探してくれないか」とタカシは取材の最後に私の手を握って言った。「僕がここで生きていることを知ったら、お父さんはきっとまた駆けつけてきてくれると思う」
泣けます。
『白い土地』も『五色の虹』も『災害特派員』も『南三陸日記』も、泣けます。年末年始に三浦さんのその他の本も、全部、読む。
まずは『牙』かな。
コンゴに住んでいたことがあるというかつての同僚といい、三浦さんの『災害特派員』や『南三陸日記』に登場する私の初任校時代の師匠といい、これは何かの縁だなと思って、勝手に思って、そして縁は育むものと思って、勝手に思って、その旨、昨夜、DMに綴って三浦さんに送ったところ、深夜に返信がありました。めちゃくちゃ忙しいはずなのに、
泣けます。
太陽の子、ぜひ。