田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

宮台真司、近田春夫 著『聖と俗』より。人ごとに違う凸と凹が噛み合って尊敬できるコラボがいい。

宮台 90年代の僕は一貫して、日教組的な言説に対抗してきました。日教組の「万人に無限の力がある」に対し、僕は「人ごとに違う凸と凹が噛み合って尊敬できるコラボがいい」と強調。「勝つ喜びよりも分かる喜びが大切だ」に対し、「感染動機さえあれば、す…

山内聖子 著『蔵を継ぐ』より。Think different!

行き場のない気持ちを抱えながら、家業の全てを否定するしか進む道はなかった。そこから一つ一つを変えていく。たとえ、どんなに辛い作業だったとしても、彼は信念を貫き通す。 なんと強靱な精神なんだろうと、私は圧倒された。「父と母、そして従業員の全部…

三浦英之 著『沸騰大陸』より。外に出よう。

そんな彼らの発信するニュースや写真を目にするたびに、私は彼らに対する尊敬の念と同時にある種の安堵感のようなものを覚えた。 自分は決して一人ではない――。 サン=テグジュペリが砂漠で墜落し、一滴の水も飲めずに砂の大地をさまよい歩き続けていたとき…

野矢茂樹 著『他者の声 実在の声』より。自分が変わってゆくこと。語りが変わってゆくこと。

他者 ―― 意味の他者 ―― は、固定された論理空間のもとでは姿を現さない。たとえ他者との出会いによって新たな論理空間が私のもとに開けたとしても、そこに位置づけられ理解された他者はもはや他者性を失った残滓でしかない。他者の他者性は論理空間の変化の…

山内聖子 著『いつも、日本酒のことばかり。』より。いつも、クラスのことばかり。

渡船は野生種だからこそ、のびのび育つのだと言います。「野生種は、人に育ててもらおうと思って生まれた米ではないために、自分で子孫を残そうするちからがあるので、もう、言うことを聞かないんです(笑)。でも、そこがかわいい。甘やかすと、どんどん伸…

山内聖子 著『夜ふけの酒評』より。読むと、呑みたくなる。

私にとって日本酒とは、飲むとホッとして肩の力が抜け、ゆっくりと日が沈むように、酔いが下へ下へと降りていくお酒です。 ところが、「AKABU 純米吟醸」を飲むと、一瞬、上半身がふっと5ミリ浮く、気がします。 もちろん、この酒も日本酒特有の肩の力が抜…

泉房穂 著『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より。日本はソ連にそっくり。

文部科学省に関しても、科学部門は残す必要がありますが、教育部門は要りません。教育は地方自治の根幹ですから、江戸時代の諸藩の藩校のような形で、300の圏域に教育の権限を付与すればよいと思います。これは昔話ではなく、世界を見ても、現在ほとんど…

宮本輝、吉本ばなな 著『人生の道しるべ』より。規範から外れる家族像など、どこにでもいっぱいある。

まだ書いていこう、輝先生が前にいるんだもん、と私は素直に思った。輝先生は昔に会ったときよりもうんと強く大きくなっていた。私も大きくなっていたきたい、こんなふうに、大きな木のように、そう思った。(宮本輝、吉本ばなな『人生の道しるべ』集英社文…

今井むつみ 著『学力喪失』より。はじめに記号接地ありき。

磯田さんは子どものころ、倉敷市にある弥生時代の墳丘墓、楯築遺跡に、岡山の自宅から何度も通っていた。自転車で10㎞の道のりである。雨の後、土器のかけらを探しに来ていたそうだ。そして、小学生のとき、自分の身長くらいの古墳を作ったそうだ。古墳の…

横道誠 著『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』より。すこやかに自閉する。

共同生活をするスナフキンは、不在のムーミン一家がとても恋しくなります。それはこの一家のメンバーのニューロマイノリティの特性が強く、それぞれの自閉度が高いからです。 はっと急に、スナフキンは一家のことが恋しくて、たまらなくなりました。あのひと…

吉見俊哉 著『大学とは何か』より。小学校とは何か。

プロテスタント系コミューンの信仰者としての森と初代文部大臣としての森をつなぐ一本の線を、園田英弘は「制度」への関心と要約している。園田によれば、『明六雑誌』時代までの前期の森の発言を重視して彼を自由主義の思想家と見る議論も、文部大臣となっ…

城山三郎 著『黄金峡』より。福島県只見川田子倉ダム補償事件をモデルにした社会派小説。

織元は、ダム建設に純粋に命を懸けている。なぜそれほど命懸けになるかは詳しく描かれていない。しかし、この小説が、足掛け8年に及ぶ補償交渉が1956年(昭和31年)に妥結した福島県只見川田子倉ダム補償事件をモデルにしていることを考えると彼の立…

井伏鱒二 著『太宰治』より。縁は二人で育むもの。

「あのころの太宰は、あなたに相当あこがれていましたね。実際、そうでした。」 桃子さんは、びっくりした風で、見る見る顔を赤らめて、「あら初耳だわ。」 と独りごとのように云った。「おや、御存じなかったんですか。これは失礼。」「いいえ、ちっとも。―…

高野秀行、清水克行 著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』より。空前絶後の奇書!

清水 僕もいくらか農村調査はやってきましたけど、確かに今はもう日本の農村に行っても、戦前の暮らしが垣間見えればいい方で、とても前近代は体感できないんですよね。だから、これから前近代史研究を志す人は世界の辺境に行ってみた方がいいのかもしれませ…

山内聖子 著『日本酒呑んで旅ゆけば』より。酒縁も書縁も、育むもの。

私はじっくり飲んで酒をわかりたい亀タイプ。唎き酒に近いちょっと口をつけた(喉を通した)程度の酒は、ただ上澄みをかすったようなもので、知っている銘柄にはカウントしていない。名前を聞いたことはある、てな具合。20年かけてようやく知っている銘柄…

松本俊彦、横道誠 著『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』より。依存は回復の始まり。

そこで私はふと毎夏ニュースになる「パチンコをやっていて子どもを高温の車中に置き去りにしてしまう」親のことを思い出しました。もし私にもっと仕事のストレスがかかっていたら? 家族からDVを受けていたら? 子猫よりもっともっと手のかかる人間の赤ち…

山内聖子 著『Beginnig Nihonshu・Japanese Sake ~はじめての日本酒~』より。酒屋万流、教室万流。

「酒屋万流」ということばがあるのですが、酒蔵によって「米を洗う」作業ひとつとっても手法は異なります。また、つくり手はとても研究熱心なので毎年のように新しい試みにチャレンジし、技術は時代ごとにどんどん更新されています。(山内聖子 著『Beginnig…

マルセル・モース 著『贈与論』より。この本自体が、贈与。

われわれは、このような道徳と経済が今もなお、いわば隠れた形でわれわれの社会の中で機能していることを示すつもりである。また、われわれの社会がその上に築かれている人類の岩盤の一つがそこに発見されたように思われる。それらによって、現代の法と経済…

宇佐見りん 著『推し、燃ゆ』より。この本、推します。

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。(宇佐見りん『推し、…

今井孝 著『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』より。タイトルが全てを物語っています。

幸せな人たちの1日の大部分は、普通の人と同じです。 しかし、ひとつだけ大きな違いがあったのです。(今井孝『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』すばる舎、2024) こんばんは。著者の人柄でしょう。とても親切なタイトルです。タイトルの『いつも…

谷崎潤一郎 著『陰翳礼讃』より。西洋の明るみに、日本の暗がりの深さがわかるものか。

拠んどころなくこういう風に致しましたが、やはり昔のままの方がよいと仰るお方には、燭台を持って参りますという。で、折角それを楽しみにして来たのであるから、燭台に替えて貰ったが、その時私が感じたのは、日本の漆器の美しさは、そういうぼんやりした…

千葉雅也 著『現代思想入門』より。別に飲みに行きたきゃ行けばいいじゃん。

ここでデリダに戻ってみます。 一方で、二項対立を組み立てることでひとつの意味を固定しようとするのが常識的思考です。たとえば「大人は優柔不断であってはいけない」といったもの。そこでは暗に子供的なあり方や、決断が揺らぐことが排除されています。そ…

磯田道史 著『日本史を暴く』より。教科書にはない史実を学び、授業に役立てよう。

日本では修学旅行は明治十年代から師範学校などで始まった。最初は「長途遠足」などと言っていたが、明治二十年に『大日本教育会雑誌』に「修学旅行」の文言が登場。翌年、「尋常師範学校設備準則」で、修学旅行は「定期の休業中に於て一ヶ年六十日以内」で…

汐見稔幸 編著『学校とは何か』より。公立の学校のおもしろさは、世界に一番近い状態にあるというところ。

教育は歴史的に古くからあったのですが、本書でも先に述べたように(73ページ参照)、全てはすぐれた師を見つけ、弟子入りを願い、許されて教えを請う関係に入る形で行われてきました。 ところが現代の学校は異なります。教員は、教える方法のプロですが、…

今井むつみ、秋田喜美 著『言語の本質』より。はじめに身体接地ありき。はじめにオノマトペありき。はじめに初等教育ありき。

日本語の音象徴における清濁の重要性は、それがオノマトペ以外でも見られることからもわかる。「子どもが遊ぶさま」の「さま」に対して、「ひどいざま」の「ざま」は軽蔑的な意味合いを持つ。「疲れ果てる」の「はてる」に対する「ばてる」んもぞんざいなニ…

鶴見済 著『0円で生きる』より。無料のやり取りの輪を作る。

それほど遠くない昔、我々は効果的にシェアを行っていた。小津安二郎監督の1953年の映画『東京物語』のなかにこんなシーンがある。 田舎から出てきた老夫婦が、一人暮らしの娘のアパートの部屋にやってきた。そこで娘は隣の部屋の主婦から酒を借りに行く…

小川糸 著『針と糸』より。大きな決断をしなければ、見えない景色がある。

私にその意思さえあれば、ここで遊牧民として生きることだって、決して不可能ではないということ。自分はそれくらい自由で、どこにでも住めるのだ、とはっきり自覚したのである。そうしたら、ものすごく楽になった。自分をがんじがらめに縛っていたのは、他…

猪瀬直樹 著『持続可能なニッポンへ』より。持続可能な公教育へ。

東京都足立区では児童・生徒数の42.5%が就学援助を受けている、と朝日新聞は格差の拡大の証明のように報じた(06年1月3日付)。だが足立区では4人家族で年収329万円~412万円(幅は家族の年齢構成による)、また6人家族は年収410万円~5…

さくらももこ 著『ひとりずもう』より。私の人生は私のものでしかない。

夏休み前に、短大の国文科への推薦希望者は、作文の模擬テストを受ける事になった。私は作文は得意だったので、気軽な気持ちで作文を書いた。 その作文が、ものすごくほめられた。評価のところに、「エッセイ風のこの文体は、とても高校生の書いたものとは思…

猪瀬直樹 著『この国のゆくえ』より。政局ではなく、政策を報じてほしい。

2005年夏、郵政国会は参議院でヤマ場を迎えていた。新聞社の政治部は、解散だ、解散だ、と煽り立てている。政治記者は首相の交替だ、いや政権交替だ、と騒ぎたい。政局が仕事だと勘違いしている。彼らにとって4年も続く長期政権は、髀肉の嘆を託つもの…