田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

宮島未奈 著『成瀬は信じた道をいく』より。成瀬はニューロ・ダイバーシティを体現する。

みゆきに礼を言ってスマホを確認すると、普段どおりナチュラルな無表情のあかりと、緊張で無表情になった慶彦が写っていた。あかりは母親似だと思っていたけれど、こうしてみると自分ともなんとなく似ている。見た目は無表情でも、心のなかではちゃんと喜ん…

横道誠 著『みんな水の中』より。誠をめぐる冒険。

私が発達障害の診断を受けたのは、2019年4月のことだった。仕事を休職してしまい、長年の自分の「謎」を解くために、以前から疑っていた自分の鍵穴に、「発達障害の診断」という秘密の鍵を挿しこんだのだった。 そこから私は発達障害支援センター「かが…

宮島未奈 著『成瀬は天下を取りにいく』より。成瀬はジェンダー・バイアスを覆す。

「この短時間でわたしのどこに惹かれたのか教えてくれないか」 成瀬さんが俺の目を見て尋ねる。「だれにも似てないところかな」 考える前に口から出ていた。少なくとも、これまで俺が出会ってきた女子の中に成瀬さんのような人はいなかった。成瀬さんは「な…

横道誠、斎藤環、小川公代、頭木弘樹、村上靖彦 著『ケアする対話』より。全員、一人なのにポリフォニー。

斎藤 なぜポリフォニーがよいのか。ポリフォニーは隙間、余白が多いのです。ポリフォニーの対義語にあたるのがハーモニーと言われます。ハーモニーの場合は、一つの調和した意見が全体を支配するという状況で、一見すごく満足度が高いように見えますけど、実…

吉村春美 著『みんなが「話せる」学校』より。関係性の質を高めよう。

子どもたちにとって学校がより良い場になることを願う団体や、学校を支援したい、学校と協働したいと考えている団体はたくさんあります。校内や教育委員会内のリソースだけで何とかしようとせず、ぜひ外部のリソースをうまく活用してください。(吉村春美『…

常井健一 著『おもちゃ 河井案里との対話』より。権力闘争の「おもちゃ」とはどういう意味だったのか。

「私ね、人生をちょっとゆったりと長めに考えるようになったの。ここで一区切りして、ドロドロした広島の政界とも、距離を置きたいなって。ホントは私、(昨年春に)県議を辞めて、ミラノにファッションの勉強に行こうと思ってたんです。でも参院選に出るこ…

泉房穗 著『政治はケンカだ!』より。故郷の明石を誰よりも愛し、誰よりも憎んでいる。

それにしても、10歳から明石市長を目指していたとはすごい。泉 はい。冷たいまち・明石を優しくするのが自分の使命だと思い、そのために生きていこうと心に決めたのです。東大受験のための勉強中に眠くなっても、「今、寝てしまったら救える人も救えなくな…

横道誠 著『唯が行く!』より。大切なのはポリフォニー、複数性の共存です。

一対一の対話は、たしかに既に「ダイアローグ」なのです。でもオープンダイアローグとしては不充分なんです。ひとつの声でもふたつの声でもなく、多数の声が響いてほしい。というのも、声がふたつだけならハーモニーを奏でやすく、つまり調和しやすく、結果…

横道誠 著『ひとつにならない』より。ひとつになんかならないし、なれない。

ADHDがあると、無軌道な人生を爆走する傾向があるが、自閉スペクトラム症者には規範意識が強いという逆向きのベクトルが備わっている。結果として、支離滅裂な日々を送りながら、不思議なくらいマジメという謎の人生が出現してくる。私も全くそういう人…

近内悠太 著『利他・ケア・傷の倫理学』より。自己変容とは、物語文の予期せぬ改訂の別名である。

やさしさの一人相撲から、二人相撲へ。 あなたと私が関わることで、私自身が変容する。私自身が救われることになる。 そんな理路を、一緒に進んでいってもらえたら。(近内悠太『利他・ケア・傷の倫理学』晶文社、2024) こんばんは。昨日、勤務校のお別れの…

笠井亮平 著「『RRR』で知るインド近現代史」より。非・非暴力の価値。

ガンディーの「不在」は多くの評論家やメディアが気になったようで、S・S・ラージャマウリ監督にこの点を問い質している。たとえば米誌『ニューヨーカー』は彼へのインタビューで、「スバース・チャンドラ・ボースやバガト・シンのような歴史的人物を目立…

横道誠 著『イスタンブールで青に溺れる』より。横道誠さんの本に溺れる。

発達障害の診断を受けてから、当事者研究(自分の疾患や障害を仲間と共同研究することで、生きづらさを軽減させる精神療法)に取りくんだ僕は、本書を書きながら、自分に何が起こっていたのかを、遅ればせながら理解できるようになっていった。当事者研究の…

横道誠 著『ある大学教員の日常と非日常』より。苦悩することによって人生は輝きを増す。

僕は従来からフランクルには強く共鳴し、論文を書いたこともあるし、『唯が行く!』で当事者研究の思想的源泉として解説した。苦悩することによって人生は輝きを増す、苦悩することそのものに「体験価値」があるというフランクルの思想は、苦悩だらけの僕の…

谷口たかひさ 著『シン・スタンダード』より。教員が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから。

僕は、毎日のように全国の学校で講演させてもらっている。 そんななか違和感を抱くのは、今の日本の小学校の先生たちの驚きを隠せないほどの「仕事量の多さ」だ。 通知表だって、とても大変な仕事のはず。「当たり前のようにある」「これまでもそうしてきた…

横道誠 著『村上春樹研究』より。目には目を、ポリフォニーにはポリフォニーを。

確実に言えることは、大江がいなければ村上は存在しなかったということだ。そして、村上が大江を否定しながらサンプリングすることで、村上は村上になることができた。ふたりの「魂」はあまりにも近すぎて、年少の作家として出発した村上は、自分が自分にな…

朝井リョウ 著『風と共にゆとりぬ』より。為になりつつ、心配にもなりつつ、ただただ楽しい。

勤めていた会社を辞めてから、早くも二年が経過した。今のところ心身(肛門以外)共に健康に過ごせているが、兼業生活に戻りたいな、と思うことがしばしばある。それはお金のためでも、社会とつながるためでもなく、単純に、会社勤めをしていたころのほうが…

三浦英之 著『涙にも国籍はあるのでしょうか』より。この国はまだ東日本大震災における外国人の犠牲者数を知らない。

その途上のインドで、私は人生が変わるような体験をした。ある朝、親しくなったインド人に屋台に連れて行かれ、そこで食事をご馳走になった私は、気がつくと身ぐるみ剥がされて道ばたの下水道に横たわっていた。どうやら飲食物に睡眠薬が混入されていたよう…

横道誠 著『海球小説』より。もしも戦後日本がディズニーランドではなかったら。

「探究」の時間は、いつもこんな具合だ。ミノルはいろんなクラスメイトにつきあわされて、ある意味では「モテる」。じぶんが好きなものをなんでも探究して良いというこの時間、クラスメイトたちはよく、いろんな外国語を身につけるために練習に耽っている。…

横道誠 著『創作者の体感世界』より。天才による天才たちの当事者批評を味わう。

当事者批評は、患者の側が作品論ないし作者論をおこなうことで自己の体験世界を表明する点で、「逆病跡学」と位置づけられると考える。本書は、そのようなものとしての当事者批評を、論集のかたちで実践し、筆者の体験世界を改めて立ちあげていく。それはど…

横道誠・青山誠 編著『ニューロマイノリティ』より。教員のみなさん、必読書です。

「ニューロマイノリティ」がタイトルである本書の読者のみなさんにこんなことを言うのは野暮な話かもしれません。ですがあえて言わせていただくと、ニューロマイノリティな人たちへの支援や教育がなすべきことは、多数派の平均値である「定型発達」に、なん…

横道誠 著『発達障害の子の勉強・学校・心のケア』より。保護者と教員に、この本、おすすめします!

まわりに合わせないといけない、それなのにまわりの子のようにはうまくできない、という場面を多く経験するのが発達障害の子どもですから、イベントに参加するのが苦痛だと感じることも多いです。 たとえば運動会は部分参加を、マラソン大会は欠席または別の…

横道誠、頭木弘樹 著『当事者対決!心と体でケンカする』より。生きづらさの往復インタビュー。

横道 私は、やっぱり健康な人との会話が難しいと感じます。基本的に「絶望」マインドだからでしょうね。 発達障害のない人向けの自助グループもやってるんですけど、ありがたいことにというか、参加者はみんな鬱傾向なんですよね。鬱っぽくなって、精神疾患…

横道誠 著『発達障害者は〈擬態〉する』より。それは本当なのか?

発達界隈では、カモフラージュは「擬態」という名で広く知られてきました。海外の研究では自閉スペクトラム症のカモフラージュばかりが目立って注目されていますが、発達界隈では擬態は発達障害者に広く見られるものだと認知されています。(横道誠『発達障…

小澤征爾 著『ボクの音楽武者修行』より。世界のオザワの自伝的エッセイ。

スクーターで地べたに這いつくばるような格好でのんびり走っていると、地面には親しみが出る。見慣れぬ景色も食物も、酒も空気も、なんの抵抗もなく素直に入って来る。まるで子供の時からヨーロッパで育った人間みたいに。美人もよく目についたが、気おくれ…

児玉真美 著『安楽死が合法の国で起こっていること』より。大きな絵を描くと同時に、小さな物語を大切にすること。

もう生きられないほど苦しいという人がいるなら死なせてあげたい、そういう人のために安楽死を合法化してあげようと考える人たちが善意であることは疑わない。けれどひとりひとりの善意が集まって世論を形成し、その世論の勢いに押されて(乗じて?)制度と…

幡野広志 著『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』より。はじめに写真ありき。

息子が生まれた日が雨だったから、ぼくは雨の日が好きなのだ。いまでも雨の日に一人で車を運転していると、息子が生まれた日のことを思い出す。ブレーキランプに照らされたフロントガラスの赤い雨粒が、ぼくにとっては思い出だ。今日は雨だけど、雨の日は何…

つかこうへい 著『蒲田行進曲』より。綺麗は汚い。汚いは綺麗。

映画スターの銀四郎と、その弟子でスタントマン専門の大部屋俳優ヤス、そして銀四郎と同棲して彼の子をはらみ、ヤスに押しつけられてその妻となる女優の小夏。ヤスとともに暮らすようになってからも、銀四郎と小夏は会いつづけている。 彼らの関係が特異なの…

養老孟司 × 茂木健一郎 × 東浩紀 著『日本の歪み』より。先ずは日本の歪みを知ることから。

茂木 弔いの形もそうですが、教育もそうですよね。アクティブラーニングとか探究学習とかいろいろ出てきていますが、日本の伝統的な漢文の「素読」などの学習法とうまく接ぎ木できていないような気がします。東 人間関係を学ぶところが学校しかないことも問…

ダニエル・キイス 著『アルジャーノンに花束を』より。これを読まないまま終わる人生を歩んではいけない。

医者には向いていないと自覚し、作家になろうと思い定め、生活費を得るために教師の資格をとって教職についた。知的障害児の教室で教える仕事も引き受けて、この教室で、あの少年と出会った。授業のあと、少年はキイス先生のもとにやってくるとこう言った。…

藤原正彦 著『スマホより読書』より。算数より国語。論理より情緒。

藤原 最近、日本の小学校で児童一人につき一台、タブレット(電子端末)を配っている、と聞いたときは目の前が真っ暗になりました。教科書をなくす第一歩と思います。小学生から教科書も読まず、自由にタブレット画面に没頭させたら、本の世界に対する憧れな…