僕は、毎日のように全国の学校で講演させてもらっている。 そんななか違和感を抱くのは、今の日本の小学校の先生たちの驚きを隠せないほどの「仕事量の多さ」だ。 通知表だって、とても大変な仕事のはず。「当たり前のようにある」「これまでもそうしてきた…
確実に言えることは、大江がいなければ村上は存在しなかったということだ。そして、村上が大江を否定しながらサンプリングすることで、村上は村上になることができた。ふたりの「魂」はあまりにも近すぎて、年少の作家として出発した村上は、自分が自分にな…
勤めていた会社を辞めてから、早くも二年が経過した。今のところ心身(肛門以外)共に健康に過ごせているが、兼業生活に戻りたいな、と思うことがしばしばある。それはお金のためでも、社会とつながるためでもなく、単純に、会社勤めをしていたころのほうが…
その途上のインドで、私は人生が変わるような体験をした。ある朝、親しくなったインド人に屋台に連れて行かれ、そこで食事をご馳走になった私は、気がつくと身ぐるみ剥がされて道ばたの下水道に横たわっていた。どうやら飲食物に睡眠薬が混入されていたよう…
「探究」の時間は、いつもこんな具合だ。ミノルはいろんなクラスメイトにつきあわされて、ある意味では「モテる」。じぶんが好きなものをなんでも探究して良いというこの時間、クラスメイトたちはよく、いろんな外国語を身につけるために練習に耽っている。…
当事者批評は、患者の側が作品論ないし作者論をおこなうことで自己の体験世界を表明する点で、「逆病跡学」と位置づけられると考える。本書は、そのようなものとしての当事者批評を、論集のかたちで実践し、筆者の体験世界を改めて立ちあげていく。それはど…
「ニューロマイノリティ」がタイトルである本書の読者のみなさんにこんなことを言うのは野暮な話かもしれません。ですがあえて言わせていただくと、ニューロマイノリティな人たちへの支援や教育がなすべきことは、多数派の平均値である「定型発達」に、なん…
まわりに合わせないといけない、それなのにまわりの子のようにはうまくできない、という場面を多く経験するのが発達障害の子どもですから、イベントに参加するのが苦痛だと感じることも多いです。 たとえば運動会は部分参加を、マラソン大会は欠席または別の…
横道 私は、やっぱり健康な人との会話が難しいと感じます。基本的に「絶望」マインドだからでしょうね。 発達障害のない人向けの自助グループもやってるんですけど、ありがたいことにというか、参加者はみんな鬱傾向なんですよね。鬱っぽくなって、精神疾患…
発達界隈では、カモフラージュは「擬態」という名で広く知られてきました。海外の研究では自閉スペクトラム症のカモフラージュばかりが目立って注目されていますが、発達界隈では擬態は発達障害者に広く見られるものだと認知されています。(横道誠『発達障…
スクーターで地べたに這いつくばるような格好でのんびり走っていると、地面には親しみが出る。見慣れぬ景色も食物も、酒も空気も、なんの抵抗もなく素直に入って来る。まるで子供の時からヨーロッパで育った人間みたいに。美人もよく目についたが、気おくれ…
もう生きられないほど苦しいという人がいるなら死なせてあげたい、そういう人のために安楽死を合法化してあげようと考える人たちが善意であることは疑わない。けれどひとりひとりの善意が集まって世論を形成し、その世論の勢いに押されて(乗じて?)制度と…
息子が生まれた日が雨だったから、ぼくは雨の日が好きなのだ。いまでも雨の日に一人で車を運転していると、息子が生まれた日のことを思い出す。ブレーキランプに照らされたフロントガラスの赤い雨粒が、ぼくにとっては思い出だ。今日は雨だけど、雨の日は何…
映画スターの銀四郎と、その弟子でスタントマン専門の大部屋俳優ヤス、そして銀四郎と同棲して彼の子をはらみ、ヤスに押しつけられてその妻となる女優の小夏。ヤスとともに暮らすようになってからも、銀四郎と小夏は会いつづけている。 彼らの関係が特異なの…
茂木 弔いの形もそうですが、教育もそうですよね。アクティブラーニングとか探究学習とかいろいろ出てきていますが、日本の伝統的な漢文の「素読」などの学習法とうまく接ぎ木できていないような気がします。東 人間関係を学ぶところが学校しかないことも問…
医者には向いていないと自覚し、作家になろうと思い定め、生活費を得るために教師の資格をとって教職についた。知的障害児の教室で教える仕事も引き受けて、この教室で、あの少年と出会った。授業のあと、少年はキイス先生のもとにやってくるとこう言った。…
藤原 最近、日本の小学校で児童一人につき一台、タブレット(電子端末)を配っている、と聞いたときは目の前が真っ暗になりました。教科書をなくす第一歩と思います。小学生から教科書も読まず、自由にタブレット画面に没頭させたら、本の世界に対する憧れな…
GDPの規模と配分のみを関心事とする政治経済理論は、労働の尊厳をむしばみ、市民生活を貧しくする。ロバート・F・ケネディはそれを理解していた。「仲間意識、コミュニティ、愛国心の共有 ―― われわれの文明のこうした本質的価値は、ただ一緒に財を買い…
猪瀬 ―― 彼は、「日本の学生はデカルトが何年に生まれて、いつ活躍したかを知っていますが、デカルトの本は読んでいないですね」と笑っていました。彼らは週に10時間、哲学の授業をやって、しかも自分の考えをレポートとして何枚も書かされるそうです。自…
「じゃあ、どうして奥さまを捨てたんです?」「絵を描くためだ」 わたしは、目を丸くして相手の顔をみた。意味がわからなかったのだ。この男は頭がおかしいのだろうかと思った。覚えておいてほしいが、わたしはまだ若かった。ストリックランドがただの中年男…
私は強くならなきゃ生きていけない環境にいた。強くならなきゃつぶされてしまう。自分のアイデンティティや存在さえも、強くアピールしなければ存在しないも同然の社会に連れてこられてしまったのだから。「自分の意見を持て。じゃないと白人社会につぶされ…
⚪先日、あるテレビ番組で東京HIV訴訟原告団の川田龍平君といっしょになった。番組終了後、彼と雑談していたら、「いま、『日本/権力構造の謎』を読んでいるところなんです」と言うのです。つまり、ウォルフレンさんのいう日本的な〈システム〉、この場合…
こういう面白い事件、後の時代であればぜったいに起こり得ない、人に語って聞かせたくなるような事件がじっさいに起こった分だけ、やはり当時の世の中はまだまともだった、そう思いたくもなってしまう、核エネルギーの平和利用は可能であると主張し、交通事…
私はいろいろな国で育ち、知らず知らずのうちに価値観の混ざった人間に育ってしまった。日本の文化の家庭に生まれ、外国の地で育った。様々な国の良い所と悪い所を見て、自分でいい所だけを取るように心がけていた。そして、放浪の暮らしをしているうちに、…
後藤新平という人物を考えるときに面白いと思うのは、彼は、岩手の水沢の出身なので、藩閥出身でないし、中央の出でもない。岩手で生まれて、名古屋に行って、台湾、満州で経験を積んで、最後に東京へ戻ってきた。だから、東京の問題点がよく見えて、改造の…
コールバーグは自身の理論を検証するために、10歳から16歳までの少年72人に次のような質問をしている。「ハインツの奥さんがガンで死にかかっている。特効薬で助かるかもしれないが、それを買うお金が半分しか集まらず、交渉したが断わられた。困った…
「何を背負って、何に向けてペンを握っているのかを、執筆する記事で示せるのがいい記者だと初任地の上司に言われました。自分の存在感と問題意識と個性は記事で示せと。それがかなわなくなっているので、朝日新聞を去ります。ちなみに辞めて何するかは全く…
日本はどこでも地震が発生するし、現在の地震学にはそれがいつ、どこで起きるかはっきり予想する実力はない。そんな中で南海トラフや首都直下ばかりに注目が集まるような確率を出すことは、逆に他の地域の油断を誘発することになる。 とはいえ、私は南海トラ…
1990(平成2)年、信濃川沿いにJR東日本の新しい発電所が完成し、毎秒317トンもの大量取水が開始されると、信濃川中流域は一気に干上がり、慢性的な水涸れ状態に陥った。魚が死に、流域周辺の井戸が涸れ、人々が心の拠り所としてきた雄大な大河の…
開示された日報を読んで私が最も強く思ったのは、このような現地の激しい戦闘の実態や派遣部隊の厳しい情勢認識が2016年7月の段階で公にされていれば、自衛隊の派遣期間延長や新任務付与は果たしてできたのだろうかということであった。 逆に考えると、…