横道 私は、やっぱり健康な人との会話が難しいと感じます。基本的に「絶望」マインドだからでしょうね。
発達障害のない人向けの自助グループもやってるんですけど、ありがたいことにというか、参加者はみんな鬱傾向なんですよね。鬱っぽくなって、精神疾患の診断を受けたり、困っているのにお医者さんに助けてもらえなかったり。心理士(心理師)やカウンセラーとの関係もうまくいかなかったりで、困りに困って自助グループに流れてくる。みんな心を病んでいる。私は、そういう人たちが好きです。
頭木 それはわかります。
横道 むしろ鬱傾向がなかったら、話が通じない。なかなか話したくもならないです。だから頭木さんと話してると楽しいなと感じます。
頭木 ありがとうございます(笑)。
(横道誠、頭木弘樹『当事者対決!心と体でケンカする』世界思想社、2023)
こんばんは。一昨日の夜、例によって年休を大胆に駆使して、横道誠さんと代麻理子さんの対談「ジェンダー・セクシュアリティの現在系」(隣町珈琲)を聞きに行きました。ジェンダー・セクシュアリティではなく、発達障害の当事者である横道さんの「生の姿」に興味があっての参加です。贈与論で知られる近内悠太さんが教えてくれた、名著『発達障害者は擬態する』の著者は、リアルで見たらどんな人なんだろう。あんなにも目から鱗の本を書けるのだから、きっと話もおもしろくて、行けば、ここ数日ずっと悩まされている鬱傾向にも歯止めがかかるかもしれない。
リアルで見たらちょっと気圧されてしまいました。対談終了後、新刊の『創作者の体感世界』にサインをしていただくも、うまく会話をすることができず、敗北です。冒頭の引用にあるように、横道さんは《むしろ鬱傾向がなかったら、話が通じない》そうなので、もしかしたら私は鬱傾向ではないのかもしれません。ちなみに横道さんの対談相手の代さんは、以前、近内さんとも対談していて、そのときの印象でいうと、鬱という概念の予兆すら感じさせない、どこからどう見ても健康そのものの、
シン・良妻賢母。
だから《私は、やっぱり健康な人との会話が難しいと感じます》と語っている横道さんの対談相手としてはどうなんだろうって、そう思っていましたが、大学入学後に夜のアルバイトをしていた話とか、ここには書けない話とか、けっこうなぶっちゃけトークをしていて、
ただの健康な人ではなかった。
代さん曰く「私、嫉妬はしないんです」。世の中にはいろいろな人がいます。嫉妬に苦しむ人がいたり、嫉妬という感情のない人がいたり、心や体に困りごとを抱えている人がいたり。そんな多様性の時代だからこそ、当事者の話を聞くことが大切なんだと思います。
当事者対決!
横道誠さんと頭木弘樹さんの『当事者対決!心と体でケンカする』を読みました。発達障害の当事者(心で困っている人)と、潰瘍性大腸炎という難病の当事者(体で困っている人)による対談集です。つくりとしては、頭木さんが横道さんに質問して、次は横道さんが頭木さんに質問して、以下繰り返すという、
往復インタビュー。
ラウンド1 どういう症状か?
ラウンド2 どんな人生か?
ラウンド3 どうしてつらいのか?
ラウンド4 だれと生きるのか?
目次は以上です。以下、各ラウンドから少しずつ。まずはラウンド1の「どういう症状か?」より。
横道 軽い場合っていうのは、たとえばどのくらいですか。
頭木 直腸炎型で炎症もひどくない知りあいがいましたが、日常生活にまったく支障がないと言っていました。それこそ、ちょっと痔があるくらいの感じだそうで。全大腸炎型の人でも、寛解期(炎症が治まっている時期のこと)が10年以上続く人もいるんです。
頭木さんが患っている潰瘍性大腸炎にも、横道さんが診断を受けた発達障害(自閉スペクトラム症とADHD)と同じように、軽い場合だったり重い場合だったりがあるようです。視力のように数字に置き換えることができれば「視力が落ちてきていますよ」とか「メガネが必要ですよ」とか、適切な言葉をかけてもらえるのに。発達障害も潰瘍性大腸炎も計測ができないために、
支援が難しい。
だから生きづらい。頭木さんの潰瘍性大腸炎は重いケースだからなおさらです。どれくらい重いのかといえば、それは頭木さんの著書『食べることと出すこと』を読むとわかります。信じられないくらい名著です。
読みましょう。
「隅から隅までめちゃくちゃ「面白い」と思える本に出会いました」とおっしゃっていただけて、そして「引用が、詩人が句読点を打つかのように、どんぴしゃり」とおっしゃっていただけて、とても嬉しいです☺️
— 頭木弘樹📕UC『自分疲れ』『絶望名言』『うんこ文学』『食べることと出すこと』まっくら図書館の読書会 (@kafka_kashiragi) November 5, 2022
かつての教え子に一人、頭木さんと同じ潰瘍性大腸炎を患っている子がいました。除去食ではなかったものの、給食のときに「これは食べちゃダメだ」って、自分で取り分けていて、切なかったなぁ。まだ小さな子どもなのに。今でも時おり、その後どんな人生を送っているのだろうと思い出します。
どんな人生か?
ラウンド2の「どんな人生か?」は、キャリア教育の一環として、クラスの子どもたちにも聞かせたい内容です。ポイントは、二人ともマイノリティーに属しているということ。そのことをよく理解しているということ。だから強くて優しいんですよね。代さんとの対談のときに、横道さんは「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」というフィリップ・マーロウの言葉を引いて、その通りだと話していました。
その通り。
だから定型発達者から見ると、発達障害者が異星人っぽく見えるわけなんですけれど。でもそれは、そっちから見るからであって、こっちから見たら、こっちが「ふつう」なわけです。発達障害のあるなしなんかにかかわりなく、人間は超自然的存在ではないから、「じぶん」を世界の中心軸にしてしか、世界を把握することはできません。その「私」から見たら、地球上の1割以下が地球人で、9割以上は異星人という感覚なわけです。そういう世界に住まざるを得ないのが発達障害者の現実なんですよね。まわりが異星人ばかりで困っています。
これはラウンド3の「どうしてつらいのか?」より。つきみ代表の古内しんごさんが『先生、ぼくは宇宙人じゃないよ?』という絵本を出していますが、発達障害者の現実からすると「先生、あなたが宇宙人じゃないの?」という感じなのでしょう。発達障害だったかつての教え子の中には、もしかしたら私のことをそんなふうに思っていた子がいたかもしれません。横道誠さんの本にもっと早く出会えていれば、彼ら彼女らのつらさをもっとよく理解できたのに。
どうしてつらいのか?
各ラウンドの最後にはインターバルが設けられていて、ラウンド3の「どうしてつらいのか?」の後にあるインターバル3には、頭木さんのツイッター(現エックス)での投稿がいくつか紹介されています。
「何をしたか」で、人を評価しすぎだと思う。
「何をしなかったか」も、とても大切。傷つけなかった、人の上に立とうとしなかった、差別しなかった、欲に溺れなかった……。
人生を振り返って、「あれをやった」と感慨にふけるのもいいが、「あれをやらなかった」と誇りにするのもありだと思う。
これ、いいですよね。クラスにもこういう子がいます。邪魔をしなかった、うるさくしなかった、ルールを破らなかった……。目立たないけれど、いつも教室にいてくれる、やさしい子たち。横道さんはこのツイートのことを「This is 頭木弘樹!」と絶賛しています。
二人とも、やさしい。
頭木さんは潰瘍性大腸炎が発症してからの約20年をほぼ寝たきりで過ごしたそうです。しかも20代と30代。つらいどころではなかったでしょう。正直、想像もできません。だからラウンド4の中に頭木さんの結婚話が出てきて、めちゃくちゃほっこりしました。
横道誠さんと頭木弘樹さんの『当事者対決!心と体でケンカする』読了。発達障害の当事者(心)と潰瘍性大腸炎という難病の当事者(体)による対談集。最後の章(ラウンド4)に出てくる頭木さんの結婚話に心が和む。横道さん曰く「いやあ、いい話を聞きました」。ほんと、いい話を読みました。#読了 pic.twitter.com/r3YB9c3Gtx
— CountryTeacher (@HereticsStar) February 14, 2024
どれくらい「いい話」なのか、詳しくはぜひ手にとって読んでみてください。最後に、ほっこりした話を写真とセットでもうひとつ。
今日は次女の誕生日でした。長女がこだわりの料理をつくってくれて、ほっこり。昔はよくケンカしていたのに。二人とも、心も体も大きくなったなぁ。
鬱傾向がちょっと和らぎました。
おやすみなさい。