初めて仙台駅から出た瞬間、その仙台という街にすぐさま好印象を抱いた。駅前に高架橋が張りめぐらされていて、それがむかしの人が想像したら近未来という感じで、カッコよいと思ったのだ。ふだん暮らしている人にはどうでもよいものか、場合によっては厄介なものかもしれないけれど、僕はその高架橋を行ったり来たりして、ワクワクするのを感じた。エスカレーターがついているから、昇り降りは負担にならない。
(横道誠『解離と嗜癖』教育評論社、2023)
こんばんは。もともと好印象でしたが、仙台に《すぐさま好印象を抱いた》という横道誠さんに、さらなる好印象を抱きました。学生時代を過ごした、我が母校のある街を《カッコよい》って褒めてくれているわけですから。当事者紀行の国内編と銘打たれた『解離と嗜癖』の目次を見て、ワクワクするのを感じたんですよね。あっ、仙台にも行ってる(!)って。横道さんへの傾倒は、もはや「嗜癖」レベルかもしれません。
連休中にフラッと仙台に行って、英気を養う。ブルシット・ジョブに鋭気を挫かれ、英気なのか鋭気なのかわからなくなるくらい疲れているから、とにかく休む。そう思っていましたが、せっかくのゴールデン・ウィークなのに、どこにも行けず、ろくすっぽ休めず、しばしば学校へ。
6年生、仕事多いなぁ。
横道誠さんの『解離と嗜癖』読了。名著『イスタンブールで青に溺れる』と、同じく名著『ある大学教員の日常と非日常』に続く当事者紀行三部作の完結編。バックパッカー気質で《人が多いと、ますますひとりぼっちに感じる》タイプの読書人は間違いなくはまると思います。三冊全部、お勧めです。#読了 pic.twitter.com/CbkTE09o2N
— CountryTeacher (@HereticsStar) May 2, 2024
どこにも行けない代わりに、横道さんの旅の本に英気を養ってもらったここ数日でした。それにしても、このタイトルだと誰もこの本が旅行記だとは思わないのではないでしょうか。危うく読まずにスルーするところでした。サブタイトルには、鋭気を挫かれることなく、引き続きがんばってほしい。
横道誠さんの『解離と嗜癖』を読みました。タイトルがちょっと怪しげですが、表紙もちょっと怪しげですが、サブタイトルに「孤独な発達障害者の日本紀行」とあるように、紛うことなき旅行記です。言い方を換えると、小田実さんの『何でも見てやろう』や、沢木耕太郎さんの『深夜特急』の系譜に連なる、癖になる旅行記です。横道さんの言葉を借りれば、
当事者紀行。
旅行記という形式を使った「当事者研究」というわけです。当事者研究というのは《病気や障害の当事者が、その苦労の仕組みを仲間と協力して解明することで、苦労の扱いに長じるようになっていくという取りくみ》のこと。ニューロマイノリティ(神経学的少数派)を自認すると同時に、解離と嗜癖の要素によって人生がかなり変わってしまったという横道さんが《他人事としてはおもしろいと感じやすい気がするので》って、あけすけに語ってくれるのだから、おもしろくないわけがありません。おもしろかった(!)という例をひとつ挙げれば、
これ。
沢渡さんの店にいたときに、三人目の編集者から断りのメールが入った。僕は沢渡さんに、うかつにも僕がやっていることをしゃべった。注意欠如多動症ならではのそそっかしさだ。まだ企画は実現していないけれども、必ず沢渡さんを世の中に広く知られるようにしたいのだと、僕は演説するかのように抱負を語った。
すると、店内をおそろしい沈黙が制覇した。気楽に雑談をしてくれていた沢渡さんは何も言わない。沢渡さんを見ると、顔つきを苦しげに歪めていた。僕は、呑気にも何かまずいことをしてしまったのだろうかとうろたえた。
ネタバレですが、人間関係が音を立てて、否、音を立てずに壊れるシーンです。ものすごく引き込まれました。沢木耕太郎さんの『深夜特急』が、様々な人とのエピソードをその魅力のひとつとしているように、横道さんの『解離と嗜癖』も、様々な人とのエピソードをその魅力のひとつとしています。沢木さんのそれと横道さんのそれとの違いはといえば、やはり《苦労の仕組み》の有無でしょう。横道さんは人間関係に苦労している。ニューロマイノリティとしての苦労です。診断がつくほどでは(たぶん)ないものの、私もおそらく発達界隈なので、わかるなぁ。職員室に何度おそろしい沈黙が降りたことか。
ちょっとそれ、本気で言ってます?
シーン、みたいな。横道さんと同様に、私も《呑気にも何かまずいことをしてしまったのだろうかとうろたえ》たことが何度もあります。髭ダンの歌詞にある「これは これは その繰り返しの人生の記録だ」を思いだします。
思いだす。
横道誠さんの『解離と嗜癖』の第一部「京都・解離・コロナ禍」に《出町柳の河合橋から北側の高野川を眺めて、北園克衛が『白のアルバム』に収めた「薔薇の3時」を思いだす》とある。ページをめくるたびに「思いだす」がやってきて、古今東西、別の世界線(文学、音楽、映画、漫画、等々)が顔をだす。
— CountryTeacher (@HereticsStar) May 1, 2024
横道誠さんの『解離と嗜癖』の第二部「全国・嗜癖・人生の歩み」に《アルコホーリクス・アノニマスに参加するようになったことで、自助グループへの関心が目覚め、ひっきりなしに各種の自助グループを主宰する現在の生活への扉が開いた》とある。自助グループの主宰と執筆という嗜癖のハッピーセット。
— CountryTeacher (@HereticsStar) May 1, 2024
主に「解離」に対応している第一部と、主に「嗜癖」に対応している第二部の、2つのパートから成る『解離と思考』。登場する街は、京都、大阪、神戸、東京、坂井、金沢、勝山、仙台、石巻、箱根、真鶴、堺、尾道、宇部、下関、そして水俣です。あっ、〇〇にも行ってる(!)って思ったら、
ぜひ手にとって読んでみてください。
きっと、癖になります。