田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

中原淳、金井壽宏 著『リフレクティブ・マネジャー』より。対話の今と昔、中原淳さんのラーニングバーを思い出しつつ。

 私がラーニングバーを始めたのは、アメリカ留学がきっかけだった。当時は、MITとハーバードのちょうど中間辺り、ケンブリッジのセントラルスクエアにアパートを借りて住んでいたのだが、毎日が知的興奮に満ちていた。その理由の一つが、両大学のキャンパスのあちこちで開かれる参加型のオープンな研究会の存在だった。そういう場にはさまざまな人が集まり、ワインを飲んだり、フィンガーフードをつまんだりしながら、できたてほやほやの理論やデータや実践の話に耳を傾け、意見を交わしていた。
(中原淳、金井壽宏『リフレクティブ・マネジャー』光文社新書、2009)

 

 こんばんは。おもしろい本を読むと、著者に会いたくなります。本を読み、著者に会い、佇まいや人となりをリアルに感じることで、またその著者の本を読みたくなる。「本」、そしてちょっとした遠出も含めた「旅」好きには、たまらないサイクルです。

 

 アクションにつながる読書を🎵

 

 10年前に中原さんと金井さんの共著を読んだときにもそう感じました。その10年前。思い立ったが吉日。早速、中原さんの主催するラーニングバーに申し込み、参加するに当たっての宿題(あなたにとって「よい仕事」とは何ですか?)を仕上げ、いざ東京へ。

 

 以下は、当時の学級通信『Swing』より。

 

 先週、東京大学の中原淳さんが企画、運営している産学協同の公開研究会に参加してきました。安藤忠雄さんの設計した福武ホールにて、ワインを片手に、組織学習・組織人材の最先端の Topics を学ぶ、通称 Learning Bar。金曜日の夜にもかかわらず、参加者約200名、空席一つなく、席の近い人同士でのディスカッションの場面では、アルコールの影響か、私も含め(?)、異様な盛り上がりを見せていました。中原さんの共著『リフレクティブ・マネジャー』(光文社新書、2009)によれば、Learning Bar の趣旨は、「①聞く ②聞く ③聞く ④帰る」という場ではなく、「①聞く ②考える ③対話する ④気づく」場をデザインすること、主催者側は「用意」に全力を尽くし、バーがオープンした後は参加者とともにみんなで「卒意(主客一体となって場を構築しようとする気構え)」を発揮しながら学びの場を作っていくこと、とあります。

 

 バーの外で語る。

 

 会の最後に、⑤として、そんな言葉が加えられました。大人の学びは自律的に広がる、という意。聞く、考える、対話する、気づく、そして学校の外で語る。そういった学びの場を授業でも形づくることができれば、子どもの学びについても、程度の差こそあれ、自律的な広がりを期待できるかもしれません。

 

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バーの外のバーで語る。後日、参加者とともに。(イメージ)

 

 当時はまだ「対話」という言葉は学校に浸透していませんでした。教育現場で対話の重要性を認識していたのは、教育学者の佐藤学さんに影響を受けていた、いわゆる「学びの共同体」を志向していた先生たち(私も)くらいでしょうか。ちなみに《板書をノートにうつす一斉授業の様式は今や博物館に入っている》という佐藤学さんと、《一斉講義にまつわる絶望的なデータについても、私は大学教員の一人として自覚的でありたい》という中原淳さんが、ダイアローグの重要性を説くのは理の当然です。あれから10年。「対話」という言葉がそこかしこで聞かれるようになった昨今の学校現場を思うと、隔世の感があります。

 

 

 9月2日の中原さんのブログより。手垢にまみれてしまった対話という言葉。今ではもうすっかりロマンチックワード化しているのではないか(?)、「対話」は「ひとびとを魅了・幻惑し、思考停止に陥いらせる言葉」として機能してしまっているのではないか(?)、という指摘です。さすが中原さんだなぁ、と思います。その通り。学校はここ最近、それって本当に対話なの(?)という「?」であふれかえっています。単純なことですが、

 

 対話は、会話とは違う。

 

 対話とは、中原さん曰く「違いを認識するコミュニケーション」です。同質性の高い小学校の教室で対話を成り立たせようと思ったら、相当な力量が必要です。対話が柱のオランダのイエナプラン教育だって、同質性を少しでも低くするために、或いは教師の安易な一斉授業を未然に防ぐために、クラスを異年齢集団(1~3年生、4~6年生)で構成しているのに。一斉授業のために発明された同一年齢集団(しかも40名)を相手に「主体的・対話的で深い学び」を期待するなんて、それこそロマンのような気がします。

  

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もと東大生(♀)と、Coffee Wrights Sangenjayaにて

 

 最後に、一ヶ月ほど前のロマンについて。

 

 縁あって、中原さんの研究室で学位をとった女性から「学校現場の話を聞かせてほしい」という依頼を受け、三軒茶屋のカフェで取材という名のお喋りをする機会に恵まれました。もと東大生だ~、なんて思いつつ、夢中で話したり聞いたりすること数時間。会話の部分も、対話の部分も、全部ひっくるめてロマンでした🎵

 

 そして人生はつづく