田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

井上雄彦 著『空白』より。変形労働時間制の前に、もっとできることがあるだろう、という話。

 でも結局、その感想、批判、中傷、様々な意見、ポジティブな意見も含め、すべてはそれを発信した「その人自身」なんじゃないかと思うんです。
 さっきFMラジオで、ある女性シンガーソングライターの曲がかかっていて、「人が見る自分は鏡に映る自分だから」みたいな歌詞があったんですけど、「それは違う、気にするな!(笑)」と思ったんです。そうではなくて、「人が見ている僕はその見ている人が見たい僕。だからその『僕像』が語り得るものは僕ではなくて見ている人自身じゃないか」と僕は思うわけです。自分の姿が、相手に投影されているのだと。
(井上雄彦『空白』スイッチ・パブリッシング、2012)

 

 こんばんは。漫画『スラムダンク』で知られる井上雄彦さんの著書より。ざっくりいうと、評価に関する話です。いわゆる「上司が変われば評価も変わる」問題。小説家の村上春樹さんも、作品『ダンスダンスダンス(上)』(講談社文庫、1991)の中で、《他人が僕をどのように見なそうと、それは僕には関係のない問題だった。それは僕の問題というよりはむしろ彼らの問題なのだ》と同様の記述をしています。彼らの問題に振り回されず、汝の道を進め、と。レビューにあたっては、評価した「その人自身」の在り方が、程度の差こそあれ必ず滲み出てしまうのだから。

 

 人々をして語るにまかせよ。

 

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恩師とのサシ飲み、どこのお店を予約しようかな~🎵

 

「あゆみが終わったら、一杯やりませんか?」

 

 先日、前任校でお世話になった恩師からメッセージをもらいました。あゆみというのは通知表のことです。前任校は2学期制(前期、後期)だったので、先生たちは9月のこの時期からあゆみの作成に追われることになります。といっても、夏の間に準備を進めておくことができるため、働き方を考えれば、3学期制(1学期、2学期、3学期)よりも2学期制の方が圧倒的に時間の融通が利いて Good です。ちなみに現任校は3学期制です。あぁ。

 前任校で働いていたときには、毎年この時期になると、学級通信に「評価に関する話」を書いていました。3日前のブログの言葉を援用すれば、フィードフォワード・コントール(事前制御)をするためです。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 井上雄彦さんや村上春樹さんの引用をもとに、あゆみには担任の主観が入りますよ~、でも「我が子の問題というよりはむしろ担任の問題なのだ」という傾向が強くならないように様々なマテリアル(日々の振り返り、友達とのかかわり、集団への貢献、係活動、授業中の様子、作品、発言、テスト、ノート、提出物、縦割り班活動やクラブでの活躍、等々)をもとにあゆみを作成していますよ~、だからクレームはやめてくださいね~、というフィードフォワード・コントロール。

 

 対象はもちろん、保護者です。

 

 そんな配慮までして作っている「あゆみ」ですが、3学期制についていえば、どうがんばっても「残業 or 持ち帰り仕事 or 休日返上」を強いられることになります。「or」ではなく「and」のこともしばしば。しかも、時間をかけて作るわりには、その効果ってどうなの(?)っていう疑問符が常につきまといます。

 私が小学生だった頃は、「面談済み」という判子が押されているだけで所見には何も書かれていなかったり、「きれいな声で歌を歌います」という一文だけしか書かれていないこともあったりして、これなら勤務時間内に作成することができるかもしれない、という内容でした。今は違います。所見だけでなく、英語や総合的な学習の時間、そして道徳と、文章で記述しなければならない欄が増え、とてもじゃないけれど勤務時間内なんかに終わりません。あぁ。

 繰り返しますが、残業と持ち帰り仕事と休日返上を要する、でも費用対効果はほとんどない、賽の河原の石積み的なハードワークです、あゆみは。だから、

 

 1年に3回も要りません。
 1年に2回で十分です。

 

 現在、変形労働時間制という「爆弾」が落とされようとしていますが、3学期制の学校を2学期制にしてあゆみの負担を減らすとか、長野県伊那市の市立伊那小学校のようにあゆみをなくすとか、茨城県の守谷市が取り組んでいる「週3日の5時間授業」を真似するとか、働き方改革を進めるために、他にできることはいくらでもあるはずです。それなのに、変形労働時間制って、いったい……。

 もしかしたら制度設計者は「彼らの問題だ」なんて思っているのかもしれません。

 

 ダンス・ダンス・ダンス。

 

 うまく踊るのもそろそろ限界です。

 

 

空白 (Switch library)

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  • 作者:井上雄彦
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 単行本
 
ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫
 
ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫