田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

内田樹 著『修業論』より。昨夜、師匠と会って思い出した「いい人」の話。

 Aさんは「理」を見るしかたをシベリアで学んだ。それに対して、元参謀はついに「理」を見ることができなかった。帝国の瓦解について、それがどういう理路によって起きたことなのか、ひさしく超法規的統帥権を行使してきた部署の責任者のひとりとして、一言の弁疏があって然るべきだったにもかかわらず、その「理」は当事者であるこの元参謀自身にもついに見えなかった。
 司馬は「理のないこと」をはげしく憎んだ。この場合の「理」というのは、いわゆる条理とか道理とか論理とかいうことではなく、そこを叩き続ければ、錯綜した巨怪なものごとが一気に大割れするような、具体的、物質的な筋目というのに近い。
(内田樹『修業論』光文社新書、2013)

 

 こんばんは。先日、髭ダンの新曲MVがアップされました。映画『HELLO WORLD』(伊藤智彦 監督)の主題歌のひとつ「イエスタデイ」です。令和になってから「Pretender」「宿命」とヒットが続いていたので、そろそろ息切れするころかなぁと思いきや、今回の新曲もまためっちゃカッコいい。来週にでも放送委員会の子どもに頼んで、給食のときに流してもらいます🎵

 

 
 イエスタデイといえば、昨夜、かつて同じ小学校で働いていた師匠のM先生と再会し、ジンの美味しいバーにて、4時間超のさし飲みを楽しんできました。生まれたてのプログラムが世界に向かって「こんにちは~(HELLO WORLD)」と挨拶するように、私たちもときに「こんにちは~」と挨拶すべき「新しい世界」に出会うことがあります。その「新しい世界」を見せてくれるのが「師」。宮崎駿にとっての高畑勲、北里柴三郎にとってのローベルト・コッホ、そして私にとってのM先生です。

 

 HELLO WORLD!

 

 師匠は50代の半ばを迎えた今も、当時の校長曰く「ありとあらゆる誘いを断って」学級担任を続けている先生で、保護者がいうには「生まれ変わっても先生になりそうな人」或いは「先生になるために生まれてきた人」です。管理職や指導主事への道には1ミリの興味も示さず、若くして文部科学大臣優秀教員表彰を受けても全く鼻にかけず、話にも出さず。教え子や家族、学校内外のおもしろい大人と過ごす時間、そして司馬遼太郎が憎んだという「理のないこと」と戦う時間に価値を見出し、そういうライフスタイルを通して《無能な人間による惰性的な支配》に抗う、いうなれば坂本龍馬みたいな偉人です。そんな師匠の口癖は、

 

 戦っている人が好き(いい人じゃダメ)。

 

 第二次世界対戦中、日本人の中に「この戦争、絶対におかしいだろう」って思っていた人は「一定数」というか「かなり」いたはずです。おかしいと思いながらも、山本七平言うところの「空気」に抗うことができず、司馬遼太郎言うところの「理」を見ることもできず、たくさんの人が亡くなりました。おかしいと思いながらも声を上げなかった人の多くは、おそらく、髭ダンの新曲の歌詞を借りれば《半信半疑で  世間体  気にしてばっかの》「いい人」です。だから師匠は「いい人」じゃダメなんだよ、と言います。「いい人」ってのは何も変えようとしない人だ、と。

 むかしそんな話をしたことがあったなって、ジンを飲みつつ、思い出しました。リアルタイムで師匠と話をしているのに、むかしのことが頭に浮かんでくるのは年齢のせいでしょうか。

 

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Sun&Moon&Star Barにて、師匠と🎵

 

「理」の欠如という点で、教育現場は戦時中と似ています。

 

 授業を準備する時間すら確保されていないのに、授業力の向上を求められる世界。残業代はないのに平均勤務時間が11時間を超え、おまけに持ち帰り仕事も土日仕事もあるという世界。休憩時間が全国平均で1分という「それは法律的にもアウトだろう」という世界。

 

 学校教育の瓦解についての理路。

 

 いま現在、教職員の中に「この制度、絶対におかしいだろう」って思っている人は「一定数」というか「かなり」いるはずです。おかしいと思いながらも「空気」に抗うことも「理」を見ることもせず、たくさんの人が過労死レベルで働いているのはなぜでしょうか。

 

 おそらく教員の多くが「いい人」だからです。

 

 教員の働き方(生き方)を変えるアイデアを、師匠からいくつも聞かせてもらいました。通知表の所見を本年度から廃止した話や、東京都の目黒区はすでに実施しているらしい、午後の時間を授業準備にあてるための午前5時間授業の構想など。そこを叩き続ければ、錯綜した巨怪なものごとが一気に大割れして、姿を見せてくれるかもしれない新しい世界。理のない変形労働時間制などではなく、合理的なまともな世界。そんな新しい世界の出現を期待させてくれる「我が師」に思いっきりエンカレッジされた夜でした。

 

 バイバイ  イエスタデイ!

 

 そして、 HELLO WORLD!

 

 
修業論 (光文社新書)

修業論 (光文社新書)

  • 作者:内田 樹
  • 発売日: 2013/07/17
  • メディア: 新書