田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

沢木耕太郎 著『心の窓』より。カメラを持つことの最大の効用とは?

 私は東京に住んでいるが、自分の家から仕事場まで、三、四十分ほど歩いて通っている。その仕事場に着き、窓のカーテンを引き開けるときはいつもスリルを味わう。
 ―― 今日は見えるだろうか?
(沢木耕太郎『心の窓』幻冬舎、2024)

 

 こんばんは。数時間前に2泊3日の移動教室から帰ってきました。2週間くらい前に体調を崩し、しんどさを抱えたまま宿泊の準備(勤務時間内には絶対に終わりません。これも教員が勝手にやっていることとみなされるのでしょうか?)に追われ、通常業務もブログも滞り、ようやくの日常モードです。

 

 ―― 今年は行けるだろうか?

 

www.countryteacher.tokyo

 

 行けました。3年前はコロナ禍のために断念せざるを得なかった、松代象山地下壕に、です。松代象山地下壕については、沢木耕太郎さんの『旅のつばくろ』に絡めた上記のブログ(日垣隆 著『「松代大本営」の真実』より)をぜひご覧ください。

 

いざ、松代象山地下壕へ(2024.6.3)

 

 天気に恵まれた2泊3日でした。人にも恵まれた2泊3日でした。見学先のガイドさんたちが一人残らず誇りと使命感をもって取り組んでいることが伝わってきたんですよね。歴史をつなごうって。全員が優れたストーリーテーラーでした。松代象山地下壕然り、奈良井宿然り、森将軍塚古墳然り、それから富岡製糸場然りです。

 

 歴史尽くしの2泊3日。

 

 沢木さんの『心の窓』の冒頭の一節である《私たちは、旅の途中で、さまざまな窓からさまざまな風景を眼にする》に倣えば、子どもたちは、旅の途中で、さまざまな窓からさまざまな歴史を眼にした、といえるでしょうか。ストーリーテーラーから教えてもらったさまざまな物語が、明日からはじまる歴史学習(小学6年生)のよい「窓」になってくれればいいなと思います。

 

 

 沢木耕太郎さんの『心の窓』を読みました。1篇のエッセイと1枚の写真がセットになった、フォトエッセイ『旅の窓』の続編です。収録されているのは81篇+81枚。旅という意味でも、1篇のエッセイを読むのに2分もかからないという意味でも、そして写真集としても楽しめるという意味でも、ハードワークどころではない宿泊行事のお供に相応しい一冊。

 冒頭の「私は東京に住んでいるが~」は、最後に収録されている「お年玉」から引用しました。なぜ引用したのかといえば、ここ最近、次年度の異動先を考えることが増えたからです。

 

 

 

 

 勅使川原さんだ~、というのはさておき、次年度の異動先も、現在と同じ、自宅から1時間くらい離れたところがいいな。近すぎるのはイヤだな。1時間って考えると、意外と選択肢が広がるな。能力主義を超えて、

 

 この町の近くで働くのもいいな。

 

 かつて時代小説家の山本周五郎は「曲軒」というあだ名をつけられていた。少し臍曲がりなところがあるからというのだ。それほどではないが、私にもちょっと臍曲がりのところがあるかもしれない。たとえば、旅先でも、あまり人が多く訪れるような観光地には行きたくなかったりする。

 

 カンボジアのアンコールワットのことを書いたエッセイ「廃墟の闇」より。私にもちょっと臍曲がりなところがあります。そうでなかったら、3県6校の学校で働いたりしません。ちなみに2校目の学校は、山本周五郎の歴史小説『樅ノ木は残った』にゆかりのある町にありました。

 

 樅ノ木、見えますか?

 

樅ノ木は残った(2005.4.23)

 

 長女がはじめて歩いたのもこの町だったな、と思い出しました。沢木さんは「あとがき」に《私にとってカメラを持つことの最大の効用は、世界に「つまらない場所」というのが存在しなくなったことである》と書いています。効用とは少し違うかもしれませんが、当時の私にとってカメラを持つことの最大の意味は、間違いなく「長女を撮ること」でした。

 

 いつからだろう。

 

 長女や次女の写真よりも、クラスの子どもたちの写真や、その他もろもろの写真の方が多くなったのは。いま、ふとそんなことを考えました。ちょっと、寂しい。寂しくなってきたので、最後に「ちょっとした贅沢」(エッセイのタイトル)をひとつ。

 

 実は、私は、素敵な部屋に泊まりたかったのではなく、その女性がレセプションにいるホテルに泊まりたかっただけなのだ。彼女は、服装も髪型もシンプルながら化粧の薄い美しい顔立ちによく合っており、しかもその応対が、パリでは珍しいほどやさしいものだったからだ。もっとも、チェックインしながら、「男って馬鹿ね」という女性の声がどこからか聞こえてきそうな気もしないではなかったが。

 

 このエッセイにどんな写真が添えられているのか。気になった人(男性)はぜひ手にとってみてください。男って馬鹿ね、か。

 

 そう思ってますか?

 

 おやすみなさい。