私は強くならなきゃ生きていけない環境にいた。強くならなきゃつぶされてしまう。自分のアイデンティティや存在さえも、強くアピールしなければ存在しないも同然の社会に連れてこられてしまったのだから。
「自分の意見を持て。じゃないと白人社会につぶされるぞ」
アメリカでの12年間に、嫌っていうほど父から聞かされた言葉。「強くなれっ!」という父の方針は間違っていなかったと思う。初めてアメリカに行った時、変に慰めの言葉をかけてもらっていたら、その優しい言葉に頼りすぎて、すべてを諦めていたかもしれない。私が今強くいられるのはアメリカに行ったから、そして甘やかされなかったから。大人になった今では、そんな経験にとても感謝している。
(滝田明日香『サバンナの宝石』幻冬舎文庫、2011)
こんにちは。勤務校の教育目標のひとつは「たくましい子」です。換言すると「強くなれっ!」。この方針は間違っていません。じゃないと、10年後、20年後の日本社会につぶされてしまうからです。
強くなれっ!
ここ数年、年度初めの保護者会のときに必ず提示している資料です。お子さんが大人になったときの日本は、千年単位で見ても類を見ない、ジェットコースターのファーストドロップが永延と続いていくような社会ですよ、と。つまり、
強くなければ生きていけない。
滝田明日香さんの『サバンナの宝箱』読了。普通だったらすぐに「無理」と音を上げてしまいそうなアフリカン・ライフを謳歌する滝田さん曰く《私が今強くいられるのはアメリカに行ったから、そして甘やかされなかったから》云々。過保護な親に勧めたい。給食の魚に骨があったくらいで、騒ぐな。#読了 pic.twitter.com/vbdacpwHeR
— CountryTeacher (@HereticsStar) January 18, 2024
強くなれっ!
とはいえ、年度始めの保護者会の際にそれだけを伝えてしまうとサバンナにおける弱肉強食のような教室をイメージされてしまうので、「やさしい子」という、「たくましい子」とは別の教育目標にも触れ、こう話します。
優しくなければ生きていく資格がない。
合わせると「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」となります。そうです。レイモンド・チャンドラーです。勤務校の教育目標も「たくましい子」「やさしい子」ではなく「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」にした方がインパクトがあっていいかもしれないって、今これを書きつつそう思いました。子どもも大人もその方が間違いなく覚えます。ちなみに教育目標は3本柱で、最後のひとつは「自ら学ぶ子」です。この目標もまた、他の2つの目標と同様に、滝田明日香さんにとっては「自明」にすぎるでしょう。自ら学ばなければ獣の女医にはなれないし、たくましくなければどたばたのアフリカン・ライフを楽しめません。そして本人は《優しい子に育ってほしい? 私は生まれてこのかた、そんなことを言われた覚えはない》と書いているものの、やさしいんですよね。だって、やさしくなければ、こんなにもリーダー・フレンドリーな本は書けませんから。
滝田明日香さんの『サバンナの宝箱』を読みました。ナイロビ大学で獣医になるための勉強を始める(!)というところで幕を閉じた、処女作『晴れ、ときどきサバンナ』の続編です。描かれているのは、大学生活と獣の女医になってからの生活、そして……。
目次は以下。
プロローグ
アフリカの大学生活
ワンちゃんとの生活
はちゃめちゃアフリカ生活
獣の女医のアフリカ日記
エピローグ
文庫あとがき
「アフリカの大学生活」によると、滝田さんと一緒にナイロビ大学の獣医学科に入学したのは85人。卒業のときには32人。途中、留年したり退学したり妊娠したり死んだりしてどんどん消えていったそうです。やはり「自ら学ぶ子」でなければ獣医にはなれません。
「ワンちゃんとの生活」によると、飼い犬(♀)の旦那さんを見つけるにあたって《クラスメートと一緒にオス犬のオチンチンを正しい位置に持っていってみたが、やっぱりダメだった。なぜ、私がそこまで世話をやかなければいけないのだろうか・・・・・・。》とあります。やはり「やさしい子」でなければ獣医にはなれません。
「はちゃめちゃアフリカ生活」によると、牛や馬の直腸検査(お尻に手を入れる)を手袋もつけずに素手でやったり(やらされたり)することも大学では日常茶飯事だったとのこと。もちろんウンコまみれです。婚期を逃しても仕方がないでしょう。やはり「たくましい子」でなければ獣医にはなれません。
直腸検査。
大変なんですよね、手袋をつけたとしても。かなりの力仕事だそうです。昨夜、その方面のスペシャリストが、暖炉のそばでそう語っていました。以前は男性の方が多かったけれど、現在は女性の獣医師が増えていて、20代ではもう女性の方が多いとのこと。力仕事が意外と多くて男性の獣医師が必要なのに、なり手が減っているとのこと。理由としては、医者や薬剤師に比べて給料が安いからとのこと。6年前の加計学園の獣医学部の新設にはそういった背景もあったとのこと。獣医然り、教員然りですが、
とっとと給料を上げればいい。
4月7日
今日も朝はダゴレティで、午後は浄水場見学。ダゴレティでは天井のレールに吊りさげられた牛の死体がすごい勢いで動いてきたので、死体にぶつかって転びそうになった。おかげで背中が血だらけ。浄水場は昨日の下水処理場よりはマシで、機械が動いて透明な水になっていました。以前、水道水から腸チフスになったから、ちょっとだけホッとした。
滝田さんの『サバンナの宝物』の半分以上は「獣の女医のアフリカ日記」が占めています。上記のように日記形式で書かれていて、読みやすく、
リーダー・フレンドリー。
さらに、どの1日をとっても「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」どたばたのアフリカン・ライフが伝わってきて、
おもしろい。
子どもたちのスクール・ライフが「どたばた」としていたら、それこそ保護者からクレームが来そうですが、本当は、その「どたばた」の毎日こそが宝物なんですよね。生の蕩尽にこそ「生命」があるからです。贈与論で知られる近内悠太さんがそう話していたので間違いありません。繰り返します。
生の蕩尽に「生命」がある。
私が小さい頃に親から聞かされたのは、優しい言葉より厳しい言葉の方が多かったような気がする。厳しい言葉 ―― それは聞いた時はすごく辛くても、大人になってからとても役に立ったと思う。
今日は土曜公開日でした。授業参観(参加)以外に、ゲストによる講演会もあって、その中のテーマのひとつが、
ホンモノの子育て。
優しい言葉ばかりなのは、あるいは甘やかしてばかりなのは、おそらく「ニセモノの子育て」なのでしょう。日本があまりにも平和すぎて、別言すると「公」よりも「私」が優先されすぎて、そういった「ニセモノの子育て」がどんどん増えていっているような気がします。家庭での子育て然り、地域での子育て然り、そして学校での子育て然りです。そうそう、ちなみに『サバンナの宝物』の中で一番驚いたのは「文庫あとがき」でした。
獣の女医になる。
そして母になる。