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小沢慧一 著『南海トラフ地震の真実』より。なぜ南海トラフ地震の発生率だけが他の地域とは違う計算モデルで出されているのか?

 日本はどこでも地震が発生するし、現在の地震学にはそれがいつ、どこで起きるかはっきり予想する実力はない。そんな中で南海トラフや首都直下ばかりに注目が集まるような確率を出すことは、逆に他の地域の油断を誘発することになる。
 とはいえ、私は南海トラフ地震に備えなくていいと言っているわけではない。
(小沢慧一『南海トラフ地震の真実』東京新聞、2023)

 

 こんばんは。油断を誘発された結果としての能登半島地震(2024.1.1)の被害状況と言っているわけではありませんが、揺れがきたときに「いよいよ来たか!」と思った住民は少なかったのではないでしょうか。南海トラフに関係する地域や首都に住んでいる住民であれば、同規模の地震が起きたときに、

 

 いよいよ来たか!

 

 そう口には出さなくても、しばしば見聞きする「70%~80%」や「70%」という数値が頭を過ぎって多少なりとも身構えるはずです。前者は南海トラフ地震が今後20年間に起きるであろう確率、後者は首都直下地震が今後30年間に起きるであろう首都直下地震の確率です。もしもこの数字が「水増し」されたものだったとしたら。科学ではなく、行政によって恣意的に決められたものだったしたら。その「水増し」によって、それこそ他の地域の油断が「水増し」、ではなく倍増されていたとしたら。3日の毎日新聞デジタルに《珠洲市によると、市内にある住宅約6000軒のうち、2018年度末までに国の耐震基準を満たしていたのはわずか51%。同じ時期の全国の耐震化率(87%)と比べても極端に低かった》とあります。やはり、

 

 油断が誘発されていたのではないか?

 

 

 小沢慧一さんの『南海トラフ地震の真実』を読みました。第71回菊池寛賞を受賞した作品です。読もうと思ったきっかけは、大ファンである作家の猪瀬直樹さんが note に「推奨する」と書いていたから。尊敬している人が勧める本は、

 

 読む。

 

note.com

 

 目次は以下。

 

 第1章 「えこひいき」の80%
 第2章 地震学者たちの苦悩
 第3章 地震学側 VS. 行政・防災側 
 第4章 久保野文書を追う
 第5章 久保野文書検証チーム
 第6章 地震予知の失敗
 第7章 地震学と社会の正しいあり方は

 

 授業でいうところの「問い」はシンプルです。南海トラフ地震の発生確率だけ他の地震とは異なるモデルで導き出されているのはなぜか。南海トラフ地震の発生確率は「時間予測モデル」を、他の地域は「単純平均モデル」を採用しているとのこと。その2つのモデルが具体的にどのようなものなのかはここでは説明しませんが、なぜか南海トラフ地震だけは「時間予測モデル」を採用し、その発生確率は20年間で70~80%。当然、こう思いますよね。他の地域と同じ「単純平均モデル」を採用したとしたらどうなるのかと。答えはこれです。ずばり、

 

 20%。

 

 なぜに対する答えは、「単純平均モデル」を採用すると発生確率が低下してしまい、行政的には防災のための予算がとりにくくなるから。あるいは一部の地震学者としても予算がとりにくくなるから。だから「時間予測モデル」が科学的に疑わしいということがわかったとしても、これまで通り、南海トラフ地震だけは「時間予測モデル」でいこう。そんな感じです。小沢さんは、行政の思惑や「地震ムラ」に取り込まれてしまった地震学者の思惑、それから時間予測モデルの欠陥などを、情報開示請求と粘り強い取材によって暴いていくんですよね。

 

 私は地震本部の事務局を担当する文科省に連絡を入れた。しかし、担当者は「その会議に関して、公開できる議事録はありません」と、公開を拒否した。なぜ他の委員会の議事録はあるのに、意思決定をするうえで最も肝心な政策委員会の議事録が出ないのか。

 

 第3章より。小沢さんはこの文科省の対応に「隠蔽」のにおいをかぎとります。最近読んだ、布施祐仁さんと三浦英之さんの『日報隠蔽』と似た展開に、こう思ってしまいます。ブルータス、ではなく、

 

 文科省、お前もか?

 

www.countryteacher.tokyo

 

 行政の判断によって科学がないがしろにされるのはおかしい。南海トラフ地震の発生確率が水増しされることによって、他の地域に油断が生じたり、不利益が生じたりしているのであれば、それもおかしい。科学に基づかない数字に踊らされて、私たちの税金が不必要な防災対策に使われるのもおかしい。とはいえ、その不必要かどうかの判断が難しい。

 

 何かあったらどうするんだ。

 

 学校でも「何かあったらどうするんだ」という声にはなかなか抗いがたく、例えば勤務校では数年前から教室移動(教室 → 音楽室、等々)の際に防災頭巾を持っていくことになって、正直煩わしい。そして、

 

 悩ましい。

 

 何かあったらどうするんだ、とは違うものの、例えば避難訓練の際、子どもたちに「20年以内に70%~80%の確率で大きな地震が起きると言われています」と話した方が、「20%」と話すよりも「効き目」があるのは間違いないことから、

 

 これまた悩ましい。

 

 ここは「地震ムラ」に取り込まれていない、良心的な地震学者の出番でしょう。

 

「南海トラフ地震についての科学的知見が十分ではなく、実際に90年で再来した事実がある以上、私は防災面からの議論が優先しても致し方ないと考えます。そのため、政策委員会がコミット(関与)してもいいとは思うのだけど、それなら報告書には『科学的な結論とは違うが、防災面を重視して、政府はこう考える』と書くべきで、そうしなかったことは批判に値するでしょう」
 そして、会場にいる地震学者たちにこう警鐘を鳴らした。
「科学と防災をちゃんと分けないと、科学者はいずれ『オオカミ少年』と呼ばれてしまう。私も政府の委員を8年務め、なあなあで済ませてしまったこともあります。しかし、政府が間違った道を進もうとしているときは、突っ込みを入れる人が必要なのです。科学者としてできることは、これに尽きると思います」

 

 第4章より。京都大学防災研究所の所長・橋本学さんの言葉です。私も、この見方・考え方に尽きると思います。

 

 科学は科学、防災は防災。

 

 

 明日は仕事始めです。

 

 おやすみなさい。