田舎教師ときどき都会教師

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中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所 著『転職学』より。ゴーギャンの問いかけに答えよう。青い鳥ではなく、学び鳥になろう。

 転職とは、「自分に最適な場を探そうとすること」ではなく、「自分が場に最適に適応すること ―― すなわち新たに学び、変化する覚悟をもつこと」によってこそ、成功にたどり着けるものです。本書は、この信念に基づき編まれています。
(中原淳、小林祐児、パーソル研究所『転職学』KADOKAWA、2021)

 

 おはようございます。教員採用試験を受け直し、B県の小学校からC県の小学校に移って3年目になります。2年前の春、知人には「転職みたいなものだね」って言われました。異動ではなく、転職。しかも2回目。レベルは違えど、過去に二度の転職(大学移籍)を経験しているという、中原淳さんと同じです。

 

 A県 → B県 → C県 → ?

 

 C県の二次試験(個人面接)を受けたときに、画家のポール・ゴーギャンによく似た面接官から次のような言葉をいただきました。曰く「この指導案を見ると《あなたは何をやってきた人なのか あなたは何ができるのか あなたはこれから何をしたいのか》がよくわかる」云々。指導案を通して「わたし」を伝える。

 

 ねらい通り?

 

 

 中原淳さんと小林祐児さん、それからパーソル総合研究所による『転職学』を読みました。「1億総転職時代」最高のテキスト。正確には『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』です。

 

 長い。

 

 人生も、長い。平均寿命だって、猛烈な勢いで延びている。だから働くみんなにとって「転職学」は必修ですよというのが、中原さんらが編んだ『転職学』です。ポケットにライ麦を、ポケットに転職チケットを。

 中原淳さんによる「はじめに」と、小林祐児さんによる「おわりに」に挟まれた目次は、以下。章立てではなく「講」というところが、よい。

 

 第1講 まずは転職の方程式「D✕E>R」を学ぼう
 第2講「自己認識」を高めれば転職力も高まる
 第3講 孤独になるな!「転職相談」の大切さ
 第4講 日本人と「大人の学び」の心理分析
 第5講 地方転職から副業まで「流行りの転職」の虚実
 第6講 新しい組織に馴染む科学的な方法
 第7講 これだけは知りたい「ミドルの転職」
 最終講「辞めた会社」との付き合い方とは

 

 第1章の前にオリエンテーションとして「なぜ『転職学』が『人生の必修』なのか」が説明されています。なぜならば《長寿化に伴って、一人ひとりの働く期間が長くなって》いるから。転職チケットを片手にもって働く時代なのに「よい転職をするためにはどうすればいいのか」というシンプルな問いに答えてくれる学問がないから。

 

 転職チケットを手に、長時間労働から長期間労働へ。

 

 

 長時間労働のフェイズに据え置かれている教員の世界に、中原さんが「動き」をもたらしてくれることを期待します。第5講と第6講の間に「日本の転職の歴史学」と題して特別集中講義が設けられていますが、50年後にはその歴史に中原さんの名前が刻まれるかもしれません。祈り。

 

 マッチング思考からラーニング思考へ。

 

 転職学の要諦です。自分に合った転職先を探し続ける「青い鳥」になるのではなく、転職によって自らを変えていくという、いわば「学び鳥」になることが、豊かな人生を送る秘訣ですよという、中原さん流の学問のすゝめ。大人の学びを科学し続けてきた著者ならではの信念(冒頭の引用)です。そしてこの信念に科学をかけ合わせて導き出されたものが、第1講に登場する次の方程式です。

 

 D✕E>R

 

 転職の方程式。翻訳すると「不満 ✕ 転職力 > 抵抗感」です。この方程式を解くことができれば、転職学の大枠を理解することができます。

 

 まずは「Dissatisfaction」(不満)について。

 

 第1講に書かれていることですが、キャリア教育の成果むなしく、残念なことに、日本は不満ベースの転職が8割とのこと。正確には、不満ではなく不満の変わらなさ。不満の変わらなさといえば、学校なんて最たるものです。もしも教員に「転職力」があれば、学校は、青い鳥でも学び鳥でもなく「閑古鳥」が鳴くことになるでしょう。

 

 次に「Employability」(転職力)について。

 

 教育現場でいうところの「生きる力」にもつながる、この「転職力」をつけるにはどうすればいいのか。キーワードは、セルフアウェアネス(自己認識)。第2講のタイトルにあるように「自己認識」を高めれば転職力も高まります。換言すれば、第3講に書かれている「『ゴーギャンの問いかけ』から何を学ぶか」ということ。

 

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』

 

 ゴーギャンの名画にちなんで、中原さんは《「あなたは何をやってきた人なのか あなたは何ができるのか あなたはこれから何をしたいのか」という三つの問いかけ》こそが、転職を行うにあたって、わたしたちがそれぞれの人生をリフレクション(内省)する際の本質的な問いになると書きます。C県の教員採用試験を受けたときに、ゴーギャン似の面接官がわたしに投げかけてくれた言葉が、まさにそれでした。人文社会科学の領域やキャリア・カウンセリングの領域でいうところの、いわゆる「ナラティブ・アプローチ」です。

 

 他者との対話を通じて生成される物語。

 

「ナラティブ・アプローチ」の考え方は、自身の「過去・現在・未来」にまつわるストーリーを構築し、セルフアウェアネス(自己認識)を高めていくうえで、とても有効な手法です。そして、一部の人は知らず知らずのうちに、それを実践しています。

 

 他県の教員採用試験に合格するためにはどうすればいいか。20代だったときの1回目の転職(A県→B県)は勢いで何とかなったものの、第7講で言及されている「ミドルの転職」にあたる2回目の転職(B県→C県)は、勢いだけでは難しいかもしれない。不満ベースの転職ではないということを伝えなければいけない。そこで知らず知らずのうちに実践していたのが「ナラティブ・アプローチ」というわけです。

 

 結果、伝わって、合格。

 

 ちなみに中原さん曰く《転職時にリフレクションを通してセルフアウェアネスを高めることができるのは、「平時からも学び続けてきた人」》とのこと。キャリア・パスポートなどを通して子どもたちにリフレクションを促すのも、平時を意識してのことといえるでしょう。キャリア・パスポートの善し悪しは別として。

 

 最後に「Resistance」(抵抗感)について。

 

 2回も転職するなんて、この人、もしかしたら「問題教員?」って思われてしまうのがイヤだという社会的な理由であったり、せっかく主幹教諭になったのにその立場を捨てるなんてもったいないという個人的な理由であったり、そういった理由をもとにした気持ちが「Resistance」(抵抗感)です。この抵抗感を「不満 ✕ 転職力」が上回ったときに、転職、この「学びに満ちた世界」が立ち上がります。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 B県に戻りたい。 

 

 過日、同じタイミングでB県からC県に転職した同業の友人が、そうこぼしていました。戻りたいなんて1ミリも思ったことがないわたしとしては、驚きです。何が違うのか。友人にも『転職学』を勧めようかと思います。

 

 働くみんなの必修講義、転職学。

 

 残業学と合わせて、ぜひ。