社会的処方とは、薬を処方することで患者さんの問題を解決するのではなく、「地域とのつながり」を処方することで問題を解決するもの。
例えば、高齢で家に引きこもっている方が、「眠れない」ということを主訴に医者にかかったとする。普通の医者なら、睡眠薬を処方して診察を終えるかもしれない。でも、もしその医者がよくよくその方の生活習慣を聞き取って、不眠の原因が日中の引きこもりによる活動不足だと考えたら。そしてもともとの仕事が花屋だということまで聞き取ることができたら。その医師は、知り合いが参加している、地域美化や花壇整備に取り組む市民グループとつなげてみるかもしれない。
(西智弘 編著『社会的処方』学芸出版社、2020)
こんばんは。今日、名前も知らない、話したこともない3年生の男の子に職員室の前で声をかけられ、緊張した面持ちで「4年生の担任を希望してください」と言われました。異動1年目ということもあって、クラスの子どもたち以外は、私の名前すら知らない子がほとんどだと思っていたので、かなり不意をつかれました。
力のあるキラキラ系の若手の先生がたくさんいるのに。
長く勤めている「学校の顔」みたいな先生もいるのに。
よそから来たばかりの影の薄いアラフォーの私に「4年生の担任を希望してください」だなんて、なかなか渋いところをついてくるなぁと、木訥な口調とのシナジー効果もあって、ちょっとうけてしまいました。なかなか慣れることのできない学校とのつながりを感じることができたので、これも「社会的処方」のようなものかもしれません。
ありがとう、あたたまったよ。
緩和ケア医の西智弘さんが編著者を務めている『社会的処方』を読みました。以前に読んだ『がんを抱えて、自分らしく生きたい』のときも思いましたが、やはり教育に通ずることが多々あります。
学校の先生から、拙書『がんを抱えて、自分らしく生きたい』のご感想をいただきました。
— Dr.西智弘@リレーショナルアート「奢られる人奢る人」3/28 (@tonishi0610) February 7, 2020
「何もしないということを、する」
は子供への教育にも通じることだと。興味深い考察。
ありがとうございます。 https://t.co/KnsZSm9nXN
例えば、「西」つながりでいえば、上越教育大学教授の西川純さんが提唱している『学び合い』という考え方が、冒頭に引用した「社会的処方」の説明とよく似ています。『学び合い』は、教師の直接的な指導で子どもの問題を解決するのではなく、学級の中に「つながり」をつくることで間接的に問題を解決する「哲学」として知られています。ここでいう問題というのは、学力や人間関係の問題のことです。
社会的処方 ≒『学び合い』。
薬を処方するよりもつながりが効く。
教師が教えるよりもつながりが効く。
「人とのつながりがあるかないか」は、寿命だけでなく、認知症や自殺の増加にも影響があるといわれています。西川純さんは、わかりやすい授業や楽しい授業は子どもたちをしあわせにしないといいます(もちろんわかりにくい授業や楽しくない授業をよしとしているわけではありません)。子どもたちの未来のしあわせが「人とのつながり」にあることをよくわかっているからです。だから「社会的処方」に似た『学び合い』という考え方を提唱し、黙っている子どもたちに教師が知識を処方するのではなく、子どもたちが立ち歩いて説明し合ってもいいから、子ども同士のつながりを軸に授業を考えるよう、繰り返し訴えています。一人で黙々と運動している人よりも、運動もせずに《「おしゃべりをしているお母さん」の方が要介護発生率が低かった》という『社会的処方』に書かれている話と重なります。
目に見えない「孤立」という病。
『社会的処方』の1章のタイトルです。孤立っていやですよね。クラスの中に孤立している子がいると、気になって仕方ないというのが「担任」です。ひとりでいるのはOK、でも孤立しているのはNG。個別学習はOK、でも孤立学習になってしまっていたらNG。前者はつながりを保持したままのあえての「選択」であり、後者はつながりが切れてしまった「結果」です。
授業でいえば、問題がわからないのはOK。でも「教えて」と近くの人にヘルプを出すことができないのはちょっとNG。「近くにいる誰かが教えてもらいたがっている」ことに気づかないのもちょっとNG。無理に教えてしまうのもちょっとNG。つながりをつくって「孤立」を解消しようとする担任の感覚は、そういったものです。国語を教えるのではなく、国語を通してつながり(人間関係)を教える。算数を教えるのではなく、算数を通してつながり(人間関係)を教える。理科も社会も音楽も体育も、全部同じ。
医療機関に持ち込まれる問題の二~三割は社会的な問題と言われています。
社会的な問題とは、社会的孤立のことです。この問題を解決するのが、イギリスで始まったという社会的処方です。西智弘 編著『社会的処方』には、医師が毎朝ラジオ体操をやっている公園という場や、まちの美化に取り組んでいる市民サークルという場、ちょっとしたことを医療者と話し合う「モバイル屋台 de 健康カフェ」という活動や、読書で人をつなげる「こすぎナイトキャンパス」という活動など、たくさんの「社会的処方」が事例(市民活動)として挙げられています。子どもに関係するものもあって、東京都の大田区で始まったとされる「こども食堂」などもそういった事例のひとつです。
社会的孤立が進行してきているのは事実。
社会的孤立に効く場や活動があるのも事実。
だから事実と事実をつなげて、あなたの地域にある「社会的孤立」を減らしていこう。『社会的処方』はそういった本です。この本を読んで、一人ひとりの市民(リンクワーカーという言葉が使われています)の力で地域をよりよい方向に前進させよう。
1ミリでも前に。
一緒に。