田舎教師ときどき都会教師

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ちきりん 著『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』より。保護者に伝えたくなったこと。

 世の中の取引には、売り手と買い手が「等価な価値を交換する取引」と「両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引」があります。
 日常的なお買い物の大半は前者です。500円のお弁当と500円分の現金を交換する。3000円分のセーターと3000円分の電子マネーを交換する。いずれも等価値である2つのものを、売り手と買い手が交換しています。
 それにたいして、売り手と買い手が共同して価値を生み出し、生み出された価値を両者で分け合うという取引があります。典型的なのは医療です。
(ちきりん『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』ダイヤモンド社、2019)

 

 典型的なのは、教育です。

 

 そう続けたくなる文章でした。医療やリノベと同じように、教育も、両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引だからです。両者というのは保護者と担任、そして価値が子どもです。

 

 等価な価値を交換する取引。
 両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引。

 

 経済学者のヤニス・バルファキスさんいうところの「交換価値」と「経験価値」というものさしで置き換えれば、「等価な価値を交換する取引」が「交換価値」となり、「両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引」が「経験価値」となります。

 

 交換価値   VS.経験価値

 

 4日前のブログに書きましたが、かつては経験価値が交換価値の上位に位置づけられていたのに、市場社会(資本主義)化が進むにつれて、交換価値が経験価値を上回るようになってしまいました。わたしたちは現在、そういう社会を生きています。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 ちきりんさんは、世の中の労働者のうち「両者で共に創出した価値を分け合う共同プロジェクト型の取引」に従事しているのは、ざっくり見積もって、せいぜい2割と書いています。つまり8割の保護者は交換価値に毒されている(?)ということです。経験価値の枠組みで学校とかかわってる保護者は2割しかいない。さらに、たとえ頭の中では経験価値に重きを置いていたとしても、忙しすぎると、現実問題として交換価値に頼らざるを得なくなります。ちきりんさんも以前に新築マンション(等価値交換型の取引)を購入したときには、仕事に忙しかったようで、とても中古マンションを買ってリノベしようとは思えませんでした、と書いています。曰く、リノベは余裕のあるときに、云々。

 

 子育ては余裕のあるときに。

 

 いや~、無理だなぁ。

 

 ① 交換価値が世の中のスタンダートになってしまっているということ。
 ② 保護者に「共同プロジェクト」の一翼を担う時間や余裕がないこと。

 

 この①と②に「共同プロジェクト」としての教育の難しさを感じます。指導をしていて「大変だなぁ」「なんとかしたいなぁ」「ちょっと気になるなぁ」と感じる子のほとんどが、①或いは②に該当する親をもっているからです。逆にいえば、①と②に該当しない家庭の子は、共同プロジェクトの成功によって、自律(自由と責任)への道をひた走っていきます。

 

 医師との共同プロジェクトで、患者が回復への道をひた走っていくのと同じ。

 

 教室では毎日のように何かが起こります。共同プロジェクト型取引では、問題は起こって当たり前。ちきりんさんも言うように、それを保護者と学校がどう協力して解決するかが重要です。そんなとき、子どもの言うことを鵜呑みにして「学校は何やってるんだ!」とか「担任の指導力不足だ!」とか「うちの子が悪いっていうのか!」とか、不機嫌オーラ200%で来られても、問題は解決できないし、子どもの未来は狭まっていくばかりです。学校や担任の悪口を子どもの前で言うのも最悪。

 

 なぜそれがわからないのか。

 

 学校が、そのことをうまく伝えきれていないことが一因です。ちきりんさんが《理想的には、リノベ会社が最初に顧客を教育すればいいのです》と書いているように、理想的には、1年生の保護者に徹底的に伝えればいい。共同プロジェクト型の取引を生業としているわたちたち教員が「当たり前」と思っているほどには、交換価値と忙しさが猛威を振るっている市場社会において、保護者はそのことを「当たり前」と感じていないからです。 

 

 そして私がこの本を書いた理由の1つがそこにあります。リノベ会社のスタッフの方は、自分で言いにくいならぜひこの本をお客さんに勧めてください。顧客が最初に「リノベ会社と自分の共同プロジェクトなんだ」「いろいろな問題が起こるのは当たり前で、自分もその解決に協力する必要があるんだ」と理解してくれたら、仕事は一気にやりやすくなるはずです。

 

 教育は、家庭と学校の共同プロジェクトなんです。いろいろ問題が起こるのは当たり前で、保護者のみなさまの一人ひとりに「自分もその解決に協力する必要があるんだ」と考えていただいた方がうまくいくんです。って、保護者に言いたいけれど、角が立つ。

 

 立ちまくる。

 

 そんなときこそ、ちきりんさんの出番です。ちきりんさんの本を読んで、徹底的に考えたら保護者に伝えたくなったこと。

 

  みなさんも、ぜひ。

 

 

徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと

徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと

  • 作者:ちきりん
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2019/04/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)