今回のモバイルハウス制作において、ロビンソンはただの協力者ではないのかもしれない、と僕はふと思った。この計画をきっかけにして、彼は徹底的に僕に対して技術を伝承しようとしているのかもしれない。
道具の使い方、家の建て方、空間の捉え方、そして誤魔化さない生き方。
彼はモバイルハウス制作を通して、このような多面的な教育を僕に贈与してくれているのだ。
(坂口恭平『モバイルハウス 三万円で家をつくる』集英社新書、2013)
1クラスの人数が10人前後の田舎の小学校であれば、5年生か6年生の総合的な学習の時間を使って「モバイルハウスをつくろう」なんていう実践ができるかもしれない。例えばウサギやニワトリのいる飼育小屋をモバイルハウスにして、毎年スクラップ&ビルドを繰り返せば、リサイクルについても学べるし、ウサギやニワトリも退屈しなくていいんじゃないかな。予算も3万円でOKだし。
都会の大規模校で働いていた2013年に、坂口恭平さんの『モバイルハウス 三万円で家をつくる』を読み、そんなことを考えたのを覚えています。
誤魔化さない生き方。
現在、人生で2回目の坂口恭平さんブームが到来し、ここ数日、過去にエネルギーをもらった坂口さんの本を片っ端から読み返しています。
引用した『モバイルハウス 三万円で家をつくる』については、再読した折、誤魔化さない生き方というところに目が留まりました。場づくりの専門家である長田英史さんが、以前に同じことを話していたからです。場づくり(家庭、学級、国家、等々)で大切なことは「誤魔化さないこと」、そして「嘘をつかないこと」。誤魔化さない生き方をしている坂口さんと長田さんに共通する水脈は、おそらく「体」かなと思います。
長田さんは、「ブタ一頭丸ごと食べる授業」などで知られる、もと小学校教員の鳥山敏子さんの弟子筋にあたる人で、坂口さんと同じように、言葉だけではなく「体の声」にも耳を傾けることができる人です。坂口さんの『まとまらない人』を引けば、《思考以外のことが体の中に渦巻いている》ことを知っている人といえるでしょうか。
数年前に、長田さんの主催する場づくりの合宿に参加し、長田さんが鳥山敏子さんや鳥山敏子さんの仲間(?)である見田宗介(真木悠介)さん(!)から教わったという「ワーク」を体験しました。そのときに思ったことは「こういうことって、義務教育の教育課程からは抜け落ちているなぁ」ということです。こういうことというのは、言葉で思考するのではなく、言葉を使わずに体の声に耳を傾けるという体験、及び体系的な学習です。
学校は思考(言葉)に偏っている。
例えば単純に、友達の背中に手を当てて、目を閉じて5分ほどじっとしているだけでも、子どもたちの意識は体に向かっていきます。相手の息遣いやあたたかさが手を通して体に伝わってくるからです。実際にクラスでやってみたところ、最初は疑心暗鬼で首を傾げていた子も、だんだんと集中していって、教室は、シーン。
体って、おもしろい。
坂口さんは《思考は言葉を使うんだから、どうしても、社会が作った意味からは抜け出すことができない》といいます。だから「頭」が「体」よりも優先されると、「学校や会社にきちんと行くのは当たり前である」という社会通念が、個人の「ちょっと今日は体がおかしいな」に蓋をしてしまう傾向が強まります。体の声を聞かずに蓋をし続けていると、子どもも大人もそれこそ本当におかしくなる。誤魔化してはいけないっていうのは、つまりそういうことです。
体がキャッチした喜怒哀楽や違和感を、誤魔化さない生き方。
体が SOS を出し始めたときに、耳を傾けることができればいいのに。忙しかったり、頭の中で「きちんとしなければいけない」ということばかり考えていたりすると、やりたくないことを無理して続けることになります。だから病む。
何かやりたくないこと、やってないよね?
パニック障害や発達障害、不安障害の症状を伝えてくる人に必ず聞くという坂口さんの言葉です。『まとまらない人』に書かれています。そして坂口さんがそう訊くと「やりたくないことばっかりです」って返ってくるそうです。体はイヤがっているのに。「誤魔化さない生き方」とは正反対の生き方。
次年度からプログラミング教育が始まります。プログラミング教育の目的は、論理的な思考力を伸ばすこと。要するに、またしても「体」は透明な存在です。義務教育はますます「思考」に偏ることに。健全な精神は健全な身体に宿ると言いますが、身体は人間の精神にとってモバイルハウスみたいなもの。世の中の人たちが坂口さんに注目するように、義務教育でももっと体の声に注目してほしい。
そう思った再読でした。
誤魔化さない生き方を🎵
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