田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方と生き方」&「本、旅、人」

中村哲さんの死。一人の父親として、一人の母親として。

 二〇〇一年十月、国会での中村医師の証言には、万感のこもると思われる一節がある。「(アフガンが直面する)餓死については、自民党だとか共産党だとか社民党だとか、そういうことではなくて、一人の父親、一人の母親としてお考えになって、私たちの仕事に個人の資格で参加していただきたい」。
(中村哲、澤地久枝『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』岩波書店、2010)

 

 中村哲さんが凶弾に倒れました。嘘であってほしい、とは思うものの、本当なのでしょう。

 

 井戸を掘る医師。
 

 中村哲さんが国会に出向くきっかけとなった、アメリカ同時多発テロ事件からちょうど3年後の2004年9月11日(土)、岩手県の花巻市にあるイーハトーブ館で、中村哲さんのことを知りました。たしか、宮沢賢治の作品を演ろうと思って、学芸会の台本を探しに行った日です。 

 館内の一角に、総合学習でお世話になっていた漁師の畠山重篤さんの本とともに、中村哲さんの本が並んでいました。花巻市が主催している「宮沢賢治の名において顕彰されるにふさわしい実践的な活動を行った個人または団体に対して贈られる」というイーハトーブ賞を、その年、畠山重篤さんと中村哲さんが同時受賞したからです。

 

 木を植える漁師と井戸を掘る医師。

 

 

www.countryteacher.tokyo

 

 木を植える漁師と井戸を掘る医師って、何だかおもしろい組み合わせだなって思い、並んでいた本の中から中村哲さんの『ペシャワールにて』を手にとり、購入して帰りました。15年前の私は、序章にある《そして最近流行のこざかしい日本人論を超えて、人はやはり人であるという、当然だが妙な確信を得てほっとするのである》というところに最初の赤線を入れています。

 

 人はやはり人である。

 

 畠山重篤さんも、中村哲さんも、海であったり水であったり、人が人であるためのおおもとのところを大切にしているという意味において、共通しているなぁと思います。人は海に生かしてもらっているし、人は水がなければ生きていけない。だから森に木を植え海を豊かにし、井戸や用水路で大地を豊かにする。天国にいる宮沢賢治が「この二人にイーハトーブ賞を贈ろう」って思ったのも、頷けます。

 社会のおおもとである「教育」については、『空爆と「復興」』の中で《英語をしゃべれる人が優れているわけではないし、読み書きができる民族がえらいのかというと、そんなことはないはずである》と述べ、さらに《教育というのは、何のためにあるのか。大きな柱は二つあると思う。生活していくための「技術の習得」と、人間としての徳というか、修養を積む「人間教育」である》と続けています。

 

 日本の読解力の低下が目立つ!

 

 国際学習到達度調査(PISA)の発表を受けての昨日のニュースですが、きっと「はっ?」と思っていますよね、中村哲さんやその周りの人たちは。大事なのはそんな数字ではないだろうって。そんな「頭でっかち」な数字に踊らされているから、暗い顔になるんだろって。

 

 一方、日本に帰ると、街を行く人びとがなぜか暗い顔をしていますね。「どうしたんですか?」と聞くと、「閉塞状態だ」という答えが返ってきます。何が閉塞状態なのか。「経済が行き詰まって失業者が増えて……」という話をよく耳にします。「そんなに行き詰まって、何万人ぐらい餓死したんですか?」と聞くと、「いや、餓死者はいない。しかし自殺者は、三万人以上でている」と言うんですね。
(中村哲『アフガニスタンで考える』岩波ブックレット、2006)

 

 同著に《少なくとも私は、世界中を席巻している迷信から自由でいられるのです》とあります。PISA調査なんて、中村哲さんがいうところの迷信の最たるものかもしれません。人間の幸福は、そんなところにはない。餓死するわけでもないのに自ら死を選ぶ社会がまともなわけがない。調査結果の「理数分野ではトップレベルを維持したものの」って、いったいそれは何のための調査ですか(?)。関係ないけど(関係あるけど)、今年に入ってすでに知り合いの先生が3人もメンタルをやられて休職に追いやられていますが、いったい何を維持しているのですか?

 

 一人の父親として。
 一人の母親として。

 

 よく考えてみればわかることです。我が子には、暗い顔でいてほしくないし、大人になってからも笑顔でいてほしい。心でっかちでいてほしい。

 中村哲さんの訃報に続いて、変形労働時間制の導入を柱とした改正教職員給与特別措置法(給特法)が成立したというニュースを目にし、帰り道が「暗く」なりました。教育について、政治家は一人の父親として、一人の母親として、ちゃんと考えているのでしょうか。凶弾で倒れるのも、教壇で倒れるのも、次元は違えど、まっぴらごめんです。

 

 暗い顔のまま、家に到着。

 

 100点の答案を自慢げに見せてくる次女に少し元気をもらってから、今の今まで、中村哲さんの本をパラパラと、懐かしく読み返していました。人は愛するに足り、真心は信ずるに足る。

 

 ご冥福をお祈りいたします。

 

 

人は愛するに足り、真心は信ずるに足る――アフガンとの約束

人は愛するに足り、真心は信ずるに足る――アフガンとの約束

  • 作者:澤地 久枝,中村 哲
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 単行本
 
ペシャワールにて―癩そしてアフガン難民

ペシャワールにて―癩そしてアフガン難民

  • 作者:中村 哲
  • 出版社/メーカー: 石風社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 単行本
 
空爆と「復興」―アフガン最前線報告

空爆と「復興」―アフガン最前線報告

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 石風社
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 単行本
 
カラー版 アフガニスタンで考える―国際貢献と憲法九条 (岩波ブックレット)

カラー版 アフガニスタンで考える―国際貢献と憲法九条 (岩波ブックレット)

  • 作者:中村 哲
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/04/05
  • メディア: 単行本