田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

畠山重篤 著『牡蠣とトランク』より。森は海の恋人。国会は森、学校は海。国会審議、しっかりと!

 漁民の眼で河口から上流まで俯瞰してみると、じつにさまざまな問題が横たわっていた。
 漁民だけの努力で解決できるようなことではない。
 そこで県や大学にも相談してみた。返ってくる答えはいつも同じであった。
「私の担当ではありません」
 役所の仕組みも学門の世界も細分化していて、全体を通してものごとを思考できなくなっていたのである。
(畠山重篤『牡蠣とトランク』ワック、2015)

 

 こんばんは。今日は午後から年休を取って東京に行き、初任校(三陸海岸沿いの漁師町)のときの教え子に会ってきました。初任のときに教えた当時2年生だった女の子と、3年目に教えた当時5年生だった男の子です。

 それぞれ25歳と26歳になった二人は、震災ボランティアをきっかけに付き合い始め、数年後に上京、そして一昨年から夫婦に。東京では魚を買う気になれないとか、野菜をくれる人がいないとか、はじめて満員電車を目にしたときにはおそろしくて乗ることができなかったとか、そんなことを言いながらも、曰く「いつか子どもが生まれたら、絶対に英語を習わせます」など、しあわせそうに未来のことを語っていました。

 

 かけ算九九に苦戦していた子が、その後、どんな人生を歩んでいるのか。
 とびきり素直で優しかった子が、その後、どんな人生を歩んでいるのか。

 

 漁師が河口から上流まで俯瞰してものごとを考えるように、教師も、教え子の現在地とその後を俯瞰してものごとを考えるようになれば、授業の在り方や子どもの見方が変わるかもしれない。昔々、クラスの子どもたち(3年目に教えたその男の子を含む)とともに畠山重篤さんの水山養殖場を訪ね、水産業についての話をうかがったときに、そんなふうに考えたことを思い出しました。

 

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気仙沼市唐桑町にある畠山重篤さんの水山養殖場(04)

 

 畠山重篤さん(1943ー)は、漁師による植林活動、いわゆる「森は海の恋人」の運動をデザインしたことで知られています。社会科の教科書にも登場し、ニューヨークの国連本部でフォレストヒーローズ(森の英雄)賞の表彰も受けている、彼もまた、昨日のブログに書いた本間昇さん(1931ー)や金指勝悦さん(1940ー)同様に格好いいおじいさんです。

 

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新鮮な帆立をその場で食べさせてくれる畠山重篤さん、若い(04)

 
 森から海までをひとつの系としてデザインしていた畠山重篤さんが、さらに大きな系として大切にしていたのが「教育」です。養老孟司さんとの対談(『日本のリアル』PHP新書)の中でも、世の中をよりよくしていくためには「結局は教育しかない」と語っています。

 

 結局は教育しかない。

 

 今でも続いているのかどうかはわかりませんが、以前、畠山重篤さんは自身の仕事場である水山養殖場に小学生を招いて、自然の魅力を体験的に伝える環境教育を行っていました。

 陸の上で牡蠣や帆立の耳釣り体験をした後に、子どもたちは海の上で養殖についての説明を受けます。説明の途中、畠山重篤さんは牡蠣や帆立に加えて、子どもたちに「海水」を振る舞います。牡蠣や帆立が飲んでいるものと同じ海水です。子どもたちは牡蠣や帆立の気持ちになって(?)それを少しだけ口に含みます。その後、養殖場にある研究室に足を運んで、顕微鏡を経由したある画像を見ます。畠山重篤さん曰く「ここに映っているのは、さっき君たちが飲んだ海水です。あっ、何かが動いているぞ!」云々。画面には、

 

 巨大な動物プランクトンが!

 

 子どもたち絶叫。そして絶叫の後に、畠山重篤さんの十八番である「森は海の恋人」の話が始まります。植林をして森を豊かにすると、麓の海が豊かになるという話。子どもたちは話の中に出てくるプランクトンに興味津々といった様子。だってさっき食べちゃったから。そういった環境教育です。おもしろかったなぁ。

 

 豊かな森は、プランクトンの栄養となるものをたくさんつくりだします。
 豊かな海は、川を通して森の恵みを受け、私たちに恵みをもたらします。

 

 国会は森。
 学校は海。

 

 現在、教員の働き方改革について審議している国会は、森は海の恋人でいうところの森です。プランクトンは教員で、魚は子どもたち。SNSなどを通じた「まともな世論づくり」が植林に当たるでしょうか。そういったこと以外に、あとはもう国会の審議に注目することくらいしかできませんが、森である国会が豊かになるよう、そして学校という海に、森である国会が私たち教員の栄養となるものをたくさんつくって届けてくれるよう、ただただ祈るばかりです。

 

 ひとつの系としての国会と学校のつながり。
 

 俯瞰はよりよい未来の恋人。