田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方と生き方」&「本、旅、人」

坂口恭平さんの『思考都市』より。描きたいことを、描けばいい。

 ある日、喫茶店で打ち合せをしていて 支払いのとき、レジ裏の棚に豆本が並んでいて そのおかげで、この未来工房の作品群を知った。
 グーグルにのっていない情報を見つけること。
 それが僕の仕事でもある。
(坂口恭平『思考都市』日東書院、2013)

 

 未来工房の作品群って何だ(?)と思った人は、絵と文章で構成されている、坂口恭平さんの『思考都市』をぜひ手に取ってください(買ってください、クリックしてください)。この本に出会ったとき、昔、梅棹忠夫さんの本を読んで、生き方だけでなく、スケッチ(絵)も天才的だなぁと思ったときと似た衝撃を受けました。衝撃というか羨望というか、全方位的にぶっとんでいるなぁというか。坂口さんの「思考」にふれると、ノートに落書きをしている子どもを見ても、もしかしたら「ただの絵ではないかもしれない」なんて思ってしまい、無碍に注意できなくなります。

 

思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012

思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012

  • 作者:坂口 恭平
  • 出版社/メーカー: 日東書院本社
  • 発売日: 2013/03/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 画用紙があれば描きたくなるし、
 マットがあれば転がりたくなる。

 

 子どもって、本来そういうものです。みなさんもそうだったのではないでしょうか。しかし、多くの子どもがだんだん描かなくなるし、転がらなくなってしまう。歌だって歌わなくなってしまう。いったいそれは、なぜでしょうか。

 

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お絵描き中の女の子、ベトナムのホイアンにて(01)

 

 2年生の担任だった、初任のときの話。マットを使った運動遊びの授業(体育)の最後に「次回、一人ひとりテストをします」と、子ども時代の経験上、そういうものだと思って何の疑問も抱かずに口走った私に、授業後、参観していた恩師(教務主任)が「いやだろうなぁ」とボソッとつぶやきました。

 

 テストなんて、しなくていい。

 

 音楽も同様で、歌のテストなんてしなくていい。歌っている子どもたちの近くを歩けば、誰がうまいか、誰が音をとれていないかなんてすぐにわかる。歌のうまい子に自信をつけさせたいのであれば、その子だけを指名してみんなの前で歌ってもらえばいい。全員一律にみんなの前で歌わせる必要なんて全くない。評価の仕方がアホだから、子どもたちが周りの目を気にするようになって、絵も描かなくなるし、歌も歌わなくなる。優劣の彼方で、ひたすら描いたり転がったり歌ったりして楽しめばいい。恩師からそういった指導を受けました。

 

 気の毒だなって、周りに思わせてはいけない。

 

 体操もひととおりやった。とび箱、マット、平均台などいちおうはやれるのだが、とてもうまいとはいえない。ときどき、まったく不器用な生徒がいて、わたしどもがみていても気のどくなほどである。わたしはそんなことはなかったが、けっして水準以上の技量ではなかった。
(梅棹忠夫『裏がえしの自伝』中公文庫、2011)

 

「いやだろうなぁ」というつぶやきで、評価(テスト、見取り)の在り方を教えてくれた恩師ですが、あるとき、廊下に掲示されていた高学年の絵を見てこうつぶやきます。「へったくそな絵だなぁ、ちゃんと指導してんのか💢」。

 

 こわっ。

 

 指導と評価の一体化という言葉があります。「へったくそな絵だなぁ」と思ったら、指導して「へったくそではない絵」にする。或いは「へったくそな絵」にならないように事前の指導を工夫する。しかし指導と評価が一体である以上、そこには「本来、画用紙があれば思わずペンを走らせてしまうような子が、指導を受けることによって評価を気にするようになり、描くことに抵抗をもつようになってしまう」というリスクが常に潜んでいます。

 

 こわっ。

 

 ちなみに、知り合いの絵本作家さんは、小学生や中学生だったときに、先生に絵の指導をされるのが本当にイヤだったと話していました。好きに描かせてほしかった、とのこと。好きに描かせれば「ちゃんと指導してんのか」と言われる可能性があり、指導すれば「本当にイヤだった」と思われる可能性がある、この難しさ。指導なんてせずに「描きたいことを、描けばいい」とでも言って、ひたすら褒め続けていた方がよいのではないか、と思うこともしばしばです。

 

 グーグルにのっていない情報を見つけること。
 それが僕の仕事でもある。

 

 子どもが気付いていないその子のよさを見つけること、そしてそこに光を当てたり、或いは余計なことをしないで放っておいたりすること。それが私(教員)の仕事でもあります。

 難しいのは「放っておくこと」で、ついつい余計な指導をしてしまいます。子どもがもっている本来の姿(描きたい、転がりたい、歌いたい、等々)を失わさせないために、小学校の授業はどうあればいいのか。

 

 グーグルにのっていないので、坂口さんに聞いてみたいところです。

 

 

裏がえしの自伝 (中公文庫)

裏がえしの自伝 (中公文庫)

  • 作者:梅棹 忠夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/04/23
  • メディア: 文庫