田舎教師ときどき都会教師

テーマは「小学校教員の働き方」&「読書、旅行、映画」

沢木耕太郎さんと田辺聖子さんに学ぶ、てっぺんとふもとと三合目。

 会社づとめをしている人の中に、出世することより現場の仕事を愛するという人がいる。「てっぺん」好きの人は、そんな人のことを軽蔑したりする。しかし、と田辺さんは言うのだ。
《私はといえば、ふもとや三合目をみずから望んで、人生をたのしんでいる人が好きである》
 社長とか重役とかを目指している「てっぺん」好きの人は、人生において大事なものを置き忘れるということもあるだろう。
《てっぺんだけをめざしているうちに、人生のいちばん美味しい部分が、腐ってたべられなくなっちゃったり、するのだ》
(沢木耕太郎『銀河を渡る』新潮社、2018)

 

 沢木耕太郎さんが引用しているのは、田辺聖子さんのエッセイ集『篭にりんご  テーブルにお茶…』に収録されている「てっぺん」という一編です。沢木さんはこのエッセイが好きで、軽い衝撃を受けたとのこと。一度はそういった「てっぺん」を目指すような生き方から意識的に離脱(大学卒業後に富士銀行に入行するも、初出社の日に退社)したはずなのに、ノンフィクションのライターとしては、いつの間にか「てっぺん」を目指すようになっていたのかもしれない。そんなことに気づかされたという衝撃です。

 

 てっぺんなんて、全然いいもんじゃない。

 

 てっぺんを「若さ」に言い換えると、ちょっとポール・ニザンっぽくなります。僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない 。つまり、若さなんて、全然いいもんじゃない。坂本龍一さんが『音楽は自由にする』の中で、そう書いていたのを思い出しました。てっぺんも若さも、ふもとや三合目にある大事な物を見失いがちになるという意味では、似ています。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 金曜日に保護者会、そして昨日は土曜授業と、先週も相変わらずハードな毎日でした。おまけに通知表の締め切りも迫っています。てっぺんを目指しているわけでも若いわけでもないのに、ふもとも三合目も楽しむことのできないこの追い立てられるような毎日はいったい何なのでしょうか。師走は不自由にする。月曜日の代休もないし、せめて土曜日の夜くらいはと思って帰りにフラッと寄り道して数杯飲んできました。

 

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ふもとや三合目を楽しむ

 

 実家は長野の白馬で、小中高とずっとサッカーをやっていました。中田英寿に似てるってよく言われます。プレーじゃなくて、顔が。高校を卒業してからは伊豆大島に移住して2年ほど住み込みで働きました。親戚が民宿をやっていたんです。サーフィンにはまって毎日のように海に行っていました。山育ちだったので、もう楽しくて楽しくて。その後、また白馬に戻りました。スキーのインストラクターのバイトをしながら、ときどき地元の消防団にも顔を出していたら、そこでバーテンダー協会のAさんと知り合ったんです。

 

 バーテンダー協会?

 

 そうです。日本バーテンダー協会。Aさんが「バーテンダーをやってみないか」って。特にやりたいこともなかったので、これも何かの縁と思って、渋谷にあるバーテンダーの学校に半年ほど通いました。「費用ですか?」。30万くらいですかね、確か。

 

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すべては一杯のコーヒーカクテルから

 

 実は、この店は今月いっぱいで辞めるんです。銀座のお店から声がかかって、ちょっと勝負してこようかと思っています。バーテンダーの道を極めたら、もしかしたら外国に行けるかもしれないよって、Aさんが昔そう話していたので。外国、行きたいですね。

 もしよかったら銀座にも来てください。値段は、この店の3倍くらいしますけど(笑)。

 

 三合目で出会った話です。細部は変えていますが。

 

 いや~、やっぱり「若さ」も「てっぺん」もいいものかもしれない。なんて思いながら「中田英寿」似のバーテンダーさんが語る「これまでとこれから」を聞いていました。カクテルの絶妙な味わいと、月~土までの6連勤に相応しい酔いも手伝って、いろいろな生き方があるなぁと、しんみり。

 

 沢木さんは、上記に引用した『銀河を渡る』に、こう書いています。

 

 そして、こう思う。教師が教え子に、あるいは「大人」が「若者」に、真に与えられるものがあるとすれば、それは「君は何者かになりうるんだよ」というメッセージだけではないだろうかと。

 

 教員という職業柄、子どもたちの未来に、選択肢としてどういう生き方が存在するのかを知ることは、めちゃくちゃ大切だと考えています。そうじゃないと、子どもたちへのアプローチが凝り固まったり、狭くなったりしてしまいます。

 沢木さんが大学の先生からいただいたという「君は何者かになりうるんだよ」というメッセージは、おそらくは「てっぺん」につながるもの。でも、田辺さんのいう「ふもとや3合目をみずから望んで、人生をたのしんでいる」何者かになりうることも、教え子に「真に与えられるもの」として、ストックしていきたい。伊豆大島でサーフィンを楽しむことも、バーテンダーの語りに耳を傾けることも、人生のいちばん美味しい部分のひとつだと思うからです。

 

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コーヒーカクテルの友達

 

 コーヒーカクテルがあまりにも美味しかったで、「いま飲んだコーヒーカクテルの友達のようなカクテルをつくってくれませんか」と頼んだところ、快く引き受けてくれて、オロロソ(?)やらオレンジ(?)やら、いろいろな味の入った「友達」をつくってくれました。友達はもちろんのこと、ふもとも3合目もてっぺんも、みんな違って、みんないい。そんなところでしょうか。

 

 快晴、日曜日の午後。

 

 仕事(通知表)だ😭

 

 

銀河を渡る 全エッセイ

銀河を渡る 全エッセイ

  • 作者:沢木耕太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本
 
籠にりんごテーブルにお茶 (角川文庫 た 5-8)

籠にりんごテーブルにお茶 (角川文庫 た 5-8)

  • 作者:田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1978/12
  • メディア: 文庫