田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

町田そのこ 著『52ヘルツのクジラたち』より。メルヴィルの『白鯨』にも、村上龍さんの『歌うクジラ』にも負けない傑作。

52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿はいまも確認されていないとい…

リヒテルズ直子、苫野一徳 著『公教育で社会をつくる』より。保護者は、学校にとってかけがえのないリソースだ。

また、教員と保護者の協働は、教員の仕事を軽減するためではなく、子どもたちが直接触れる大人の社会が市民社会として機能していることを学校を舞台として見せるため、言い換えるならば、学校を、子どもを取り巻く「共同体」にするためという積極的な目的の…

重松清 著『せんせい。』より。贈与の受取人(児童生徒)は、その存在自体が贈与の差出人(先生)に生命力を与える。

僕は教師という職業が大好きで、現実に教壇に立っていらっしゃるすべての皆さんに、ありったけの敬意と共感を示したいと、いつも思っている。けれど、僕は同時に、教師とうまくやっていけない生徒のことも大好きで、もしも彼らが落ち込んでいるのなら「先生…

小林祐児 著『リスキリングは経営課題』より。日本人のキャリアの特徴は「中動態的」。だから世界一学ばない。

実際に日本の現場で目にするのは、キャリアの主導権を企業に握られつつも、「なんだかんだ、そこそこ楽しく」働いている多くの会社員の姿です。すごく仕事を楽しんでいるわけではないけれど、とはいえ居酒屋で愚痴っていれば解消するくらいの不満しか抱えな…

映画『怪物』(是枝裕和 監督作品)より。こどもはおそろしい? それともおもしろい?

この映画は、こどもたちの現実を母親と教師の視点からそれぞれに描き、親と子、教師と生徒の関係の困難さを浮き彫りにするが、映画が最終的に辿り着くのは、育てる側ではなくこどもたち自身の世界だ。(劇場用パンフレット『怪物』東宝ライツ、2023) こんに…

藤原章生 著『差別の教室』より。一方的な見方はやめろよ、違うんだよ。

計15年ほど世界各地に暮らし、現地の人と親しんできました。そうした友人たちを振り返ったとき、その人を語る上で、例えば「コロンビア人」「中国人」といった国籍はさほど大きくないと気づきました。国籍は、その人のいくつかある属性の一つにすぎず、そ…

マルティン・ブーバー 著『我と汝』(野口啓祐 訳)より。ごん、youだったのか。

〈われ〉ー〈なんじ〉の根源語は、自分の全身全霊を傾けて語るよりほか方法がない。わたしが精神を集中して全体的存在にとけこんでゆくのは、自分の力によるのではない。しかし、そうかといって、自分なしでできることでもない。まことに、〈われ〉は、〈な…

橋爪大三郎 著『核戦争、どうする日本?』より。台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。

台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。 台湾侵攻は、台湾に対する攻撃である。中国と台湾との戦争である。それは、中国とアメリカとの戦争になる。そして自動的に、中国と日本との戦争になる。台湾有事とは、日中の軍事衝突にほ…

内田良、小室淑恵、田川拓磨、西村祐二 著『先生がいなくなる』より。学校の働き方改革は「先生以外の人たち」とも無関係でない。

小室 若い教員の方と話をしていると、「給特法というのは教員の仕事が特別で、その特殊性を守るために作った法律だから残すべき」とおっしゃる方もいます。しかし実際は、当時労働時間に関する訴訟が増えて、そういった裁判に国が負けないために定額働かせ放…

水野敬也 著『夢をかなえるゾウ4』より。夢のかなえ方と、夢の手放し方。子どもたちにも教えよう。

「頑張ることが『良い』とされればされるほど、頑張らへんことは『悪い』ことになる。若さを保つことが『良い』とされればされるほど、老いることは『悪い』ことになる。夢をかなえることが『良い』とされればされるほど、夢をかなえてへんことは『悪い』こ…

映画『午前4時にパリの夜は明ける』(ミカエル・アース監督作品)より。余白が教育になる。

葛藤の不在にもかかわらず、映画を印象的で夢中になれるものにするために、音楽性、色調、抒情性を表現しようと挑戦しています。自分の人生観を反映した映画を作ろうと思っています。私は、人生において、余白だと思われるような部分を描いた映画を作りたい…

村上龍 著『ユーチューバー』より。恋とその不確かな壁。

「インドドレスのことは不思議に強烈に覚えてるんだ、他のことは曖昧になってるんだけどね。スミコはあるとき、クスリを大量に飲んで、病院に入り、田舎から、岡山から母親が来て、連れて帰った。~中略~。ここまでが受賞前だ。おれは二十三歳で、その年の…

凪良ゆう 著『汝、星のごとく』より。過去は変えられる。

会社と刺繍のダブルワークに加えて、母親の世話をしていたあのころに比べたら軽いと思える。ならば、あのころのわたしを絶望させていたことも無駄ではなかった。過去は変えられないと言うけれど、未来によって上書きすることはできるようだ。とはいえ、結局…

ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ 著『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』より。事例がおもしろい。

FBI捜査官の任務は多岐にわたる。母国に対してスパイ活動を行うよう外国の人間をスカウトすることもあれば、犯人を割り出して自白させることもある。そうした任務をこなしているうちに、人に好かれ、信用してもらい、相手を意のままに動かすうえで非常に…

松岡亮二、髙橋史子、中村高康 編著『東大生、教育格差を学ぶ』より。教員も、学びましょう。

ヒラノ 私は10歳ぐらいまで、漫画という存在すら知らない状態で育ちました。松岡 これも「あるある」だと思います。漫画もそうだし、あとはどんなテレビ番組を家族で見ていたか。多分似たような経験を持っている人はいると思うけど、私が小学生の頃は、N…

孫泰蔵 著『冒険の書 AI時代のアンラーニング』より。君が気づけば、世界は変えられる。

英語で "Thinking outside the box" という表現があります。これは「これまでとはちがう新しい視点で、型にはまらない考え方をする」という意味です。私たちは無意識のうちに「常識」という箱の中にいるので、まず「自分たちは箱の中にいる」と気づくこと。…

村上春樹 著『街とその不確かな壁』より。教員の前に立ちはだかる、長時間労働という不確かな壁。

「そういうことは、ここで日々仕事をしておられれば、おいおいおわかりになってくるでしょう。ちょうど夜が明けて、やがて窓から日が差してくるみたいに。でも今のところ、そんなことはあまり気にせんで、とりあえずはここでの仕事の手順を覚えて下さい。そ…

映画『ザ・ホエール』(ダーレン・アロノフスキー監督作品)より。メルヴィルの『白鯨』とのコラボが素晴らしい。

『ザ・ホエール』のチャーリーは、恋人を亡くした喪失感と自分が捨てた愛娘エリーへの罪悪感に苦しんでいる。そうしたチャーリーのつらい過去は主にセリフで語られるが、真っ先に観客のド肝を抜くのは体重272キロの尋常ならざる巨体だ。(劇場用パンフレ…

エーリッヒ・フロム 著『愛するということ』より。愛は技術です。習練を積みましょう。

わが国では、「男女交際のマニュアル」の類が氾濫している。最近の男の子たちは、雑誌を読んで恋愛のテクニックをおぼえるのだそうだ。デートのときには女の子をどこへ連れていけばいいか、どこで食事すればいいか、何をプレゼントすればいいか、女の子がこ…

西川純 著『教師がブラック残業から賢く身を守る方法』より。それほどたくさんのことができるはずないのだ!

勤務時間外の部活指導を命じられないことは法的には完全に明らかです。断わる障害としてあと残っているのは慣習的なものです。つまり、みんなが「しかたがない」と思っているからです。我々が「しかたがない」と思って引き受けることは、家庭的に追い詰めら…

高瀬隼子 著『おいしいごはんが食べられますように』より。教室をアジールに。

誰でもみんな自分の働き方が正しいと思ってるんだよね、と藤さんが言った。無理せず帰る人も、人一倍頑張る人も、残業しない人もたくさんする人も、自分の仕事のあり方が正解だと思ってるんだよ。押尾さんもそうでしょ、と言われて言葉に詰まる。(高瀬隼子…

イザベラ・ディオニシオ 著『平安女子は、みんな必死で恋してた』より。異次元の少子化対策のために、草食男子よ、『竹取物語』を読め!

「男同士は本来、お互いに無関心なものだが、女は生まれつき敵同士である」とは、何につけても悲観的な哲学者、アルトゥル・ショーペンハウアーが残した名言の一つだが、確かに思い当たる節がある。女同士の関係は、グループ内の派閥が激しく、男性が絡むと…

猪瀬直樹 著『猪瀬直樹の仕事力』より。親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。

アメリカもフランスも、文盲率は15パーセントなんですよ。中国は50パーセント以上で、日本は文盲率ゼロでしょう。文盲率が15パーセントというのは、その人たちは本を読まないわけですね。それは逆の極にインテリが15パーセントいるということなんだ…

小川公代 著『ケアする惑星』より。ケアする人を大切に。

女性が孤立させられる社会においては、「ある協会」や『つまらぬ女』のような女性たちが連帯する物語がもっと語られてもよいのではないだろうか。(小川公代『ケアする惑星』講談社、2023) おはようございます。先週、卒業式が終わり、修了式も終わり、やる…

映画『茶飲友達』(外山文治 監督作品)より。茶飲友達、募集。

犯罪を許してはいけないが、正しさの押し付け合いの社会の中で、本当の正義とは何なのか。多様性が叫ばれる中で、この無言の同調圧力は何なのか。孤独とは、欲望とはなにかを正面から語る映画を、私は十年間ずっと作りたかったのである。(オフィシャルフォ…

勅使河原真衣 著『「能力」の生きづらさをほぐす』より。磯野真穂さんとのトークイベントに参加してきました♬

最後に。1994年冬、担任にハブられた私に両親は「もう学校行かなくていいよ」と言いました。愛で受け止めてくれたからこそ、翌日も何食わぬ顔をして学校へ行くことを自ら選びました。いつも多様な「正しさ」を見せてくれる両親に感謝します。親孝行する…

小川糸 著『あつあつを召し上がれ』より。本当に美味しい食べ物も、異性に対する好きという気持ちも、悩ましい。

「美味しい」 口の中にまだ熱々のしゅうまいを含んだまま、それでも驚きの声を上げずにはいられなかった。固まりの肉を、わざわざ叩いて使っているのだろう。アラびきの肉それぞれに濃厚な肉汁がぎゅっと詰まって、口の中で爆竹のように炸裂する。「うん、や…

藤原章生 著『酔いどれクライマー 永田東一郎物語』より。絵葉書ではなく、物語にしてもらえた先輩。

これは目標の喪失にもつながるが、常に最先端を意識していた永田さんはいつの間にか、登る動機が、高校時代に吉川智明さんと登ったときのような、「山の中にいる、ただそれだけの喜び」から、メディアへの評価へと変わっていった面もあったのではないだろう…

四角大輔 著『人生やらなくていいリスト』より。「やった方がいい」から「やらなくていい」へ。

これは、ぼくの苦労自慢じゃない。あなたへの「警告」だ。 あの働き方は狂っていた。事実、常に体調不良を訴えていた同業者や同僚が体や心を壊し、時に亡くなることもあった。だから、睡眠時間を削っての深夜勤務や、休まず働いたりしてはいけない。(四角大…

斎藤幸平 著『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』より。環境問題も労働問題も教育問題も、システムの問題。

うちに閉じこもらずに、他者に出会うことが、「想像力欠乏症」を治すための方法である。だから、現場に行かなければならない。現場で他者と出会い、自らの問題に向き合って「学び捨てる」ことが、新しい人々とのつながりを生み、新しい価値観を作り出すこと…