田舎教師ときどき都会教師

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橋爪大三郎 著『核戦争、どうする日本?』より。台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。

 台湾侵攻はある。確実にある。日本はそれに、備えなければならない。
 台湾侵攻は、台湾に対する攻撃である。中国と台湾との戦争である。それは、中国とアメリカとの戦争になる。そして自動的に、中国と日本との戦争になる。台湾有事とは、日中の軍事衝突にほかならない。
(橋爪大三郎『核戦争、どうする日本?』筑摩書房、2023)

 

 こんばんは。金曜日の夜に横須賀にあるブライアン酒場に足を運んで、服部龍生さんのソロ・ライブを聴いてきました。わざわざ北海道から飛んできたファンもいたようで、さすがは唯一無二のミュージシャンです。わたしの勝手な計画では、未来のゲスト・ティーチャーでもあります。

 

 

 インターバルのときに服部さんが自身の半生を語ってくれて、しあわせすぎました。服部さんは学問的な意味での音楽については「敢えて」勉強してこなかったとのこと。理論を学べば学ぶほど、かたちにとらわれてしまって、自分らしさ(おもしろさ)を生み出しにくくなるからというのが理由です。かたちをなぞれば「うまく」なるかもしれない。でも「おもしろさ」は生まれない。うまいやつはそこら中にいるけれど、思考停止に陥らずに自分の頭で考えておもしろくなったやつはほとんどいない。数年前、ビッグネームだったドラマーの村上 ”ポンタ” 秀一さん(故人)とデュオユニットを組むことができたのは、おもしろさを認められたから。職業は寺山修司です、という有名な台詞に倣えば、

 

 ジャンルは服部龍生です。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 授業づくりにも似たところがあるなと思いながら聞いていました。授業とはこういうものだ(!)という「かたち」を意識しすぎるあまり、その「かたち」というフィルターを通してしか授業を生み出せなくなったり、授業を観ることができなくなったりするからです。

 

 生き方についても同様です。

 

 かたちにとらわれると窮屈になります。そういった意味では、北海道や沖縄、それからサンフランシスコでもお店を開いていたというブライアン酒場のマスターも、おもしろかったなぁ。服部さん同様に、未来のゲスト・ティーチャーに(!)と思ってしまいました。で、そろそろ橋爪大三郎さんの『核戦争、どうする日本?』につなげると、こんなにもしあわせすぎる時間を過ごさせてくれた横須賀を、唯一無二のマスターが切り盛りしているブライアン酒場のある横須賀を、どうか攻撃しないで(!)となります。

 

 どういうことでしょうか。

 

 

 橋爪大三郎さんの『核戦争、どうする日本?』を読みました。唯一無二の社会学者が危機感をもって書いた一冊ということで、教材にしたい(!)と思える内容がてんこ盛りです。目次は以下。

 

  第1章 核兵器について
  第2章 戦争について
  第3章 軍事同盟
  第4章 9条と日米安保条約
  第5章 非核三原則
  第6章 拡散防止条約(NPT)
  第7章 北朝鮮の核
  第8章 台湾有事
  第9章 日本の核武装
 第10章 ポスト国連の世界

 

 なぜこの本を手にしたのかといえば、とある読書会の課題図書になっていたからです。で、昨夜、その読書会(オンライン)に参加しました。

 

 世の中には賢い人がたくさんいるなぁ。

 

 という凡庸な感想はさておき、冒頭に引用した《台湾侵攻はある。確実にある》という記述が気になったという旨を最初に伝えました。あの橋爪さんが断言するのだから、確実にあるのでしょう。橋爪さんの師匠である故・小室直樹さんが、10年以上も前からソビエト連邦の崩壊を予言していたように、台湾侵攻もまた、小室ファミリー(?)によって予言されてしまった(涙)というわけです。もしも台湾侵攻が現実のものになったとしたら。

 

・横須賀の米軍基地をミサイル攻撃し、原子力空母を使用できなくする。

 

 あぁ、横須賀が。ブライアン酒場が。悲しい。ロジカルかつリアリスティックに考えると、そうなるようです。

 では、なぜ中国は台湾侵攻のようなロシア的なことをするのでしょうか。それはロシアと同様に、中国も覇権主義国家だから。リーダーが民主的に選ばれているわけではないから。それ故に正統性を欲するから。中華人民共和国憲法に台湾を取り戻すことが目標だと書いてあるから。学校でも繰り返しそう教えられているから。アメリカも中国がひとつであることを認めているから。経済的にも軍事的にも十分に強くなったから。アメリカを凌ぐほどになったから。橋爪さんに倣って理由を並べていくと、暗澹たる気分になります。でも、暗澹たる気分になるからといって、考えるのをやめてしまってはいけません。読書会では、中国はロシアのウクライナ侵攻の結末をじっくりと観察しているという話になっていました。もしも結末がロシアにとってハッピーなものとなったら、中国は俄然台湾侵攻にやる気を見せることになるでしょう。だから、

 

 がんばれ、西側諸国。

 

 この本の副題は「『ポスト国連の時代』が始まった」です。ロシアがあのような振る舞いを見せた以上、そしてアメリカの凋落が目に見えている以上、国連にはもう期待できないというのが副題の意味するところです。では、何に期待すればいいのか。橋爪さんは《残されたたったひとつの可能性は、西側同盟(西側諸国による軍事同盟)だろう》と書きます。そして「西側軍」という、NATOの拡大版のような軍事力を想定します。

 

 自国の都合で軍事行動を起こそうというロシアが、常任理事国に居すわっている限り、安保理は機能しない。戦争を防げない。そして中国も、ロシアのように行動する可能性が大いにある。



 そこで、安保理とは別に、安保理と同様の役割を果たす軍事力が必要である。それが、西側同盟の西側軍だ。

 

 さて、自衛隊が存在するのに軍隊をもたないと言い張っている日本は、核の傘に守られているのに《国内には核兵器がないので、核と関係していません、という顔》をしている日本は、ポスト国連の時代に、どうすればいいのでしょうか。

 

 

 読書会でそのような話がありました。「ちいちゃんのかげおくり」(3年生)を読んで、あるいは「たずねびと」(5年生)を読んで、戦争はダメだよね、と感情をフックにして戦争の悲惨さを伝えるのはOK。でも、それだけでは戦争アレルギーになって思考停止に陥ってしまうからNG。だから『核戦争、どうする日本?』に書かれているようなことをもとに、理性に訴える授業をしていかないと、つまりもっとロジカルかつリアリスティックに考える力をつけていかないと、ポスト国連の時代が始まったとしても、作家の猪瀬直樹さんいうところの「ディズニーランド国家」から脱却することはできないのではないか。それって余計に危ないのではないか。そういった話です。つまりは服部龍生さんのように、日本は「自分の頭で考えて」唯一無二のポジションをつくっていかなければいけない!

 

 6年生の担任になったら、この本を教材にしよう。

 

 現・6年生の担任のみなさん、ぜひ一読を。

 

 

Ryusei Hattori