田舎教師ときどき都会教師

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小泉悠 著『ウクライナ戦争』より。大統領にも社長にも学級担任にも、コンサルが必要。

 ちなみに、プーチンは大統領就任前に行われたジャーナリストとのロングインタビューで、KGBを志した動機を次のように語っている。プーチンによれば、少年時代の同人にスパイへの道を決心させたのは、ソ連時代のスパイ映画やスパイ小説であった。こうしたフィクションの中で「全軍をもってしても不可能なことが、たった一人の人間の活躍によって成し遂げられる」ところにプーチン少年の「心はがっちりとつかまれてしまったのだ」という(ゲヴォルグヤン、チマコウ、コレスニコフ2000)。
 現時点では全くの想像に過ぎないが、スパイ映画に胸を躍らせる少年だったプーチンが、ウクライナ侵攻という一世一代の大博打を打つにあたって思い描いていたのは、このような情景だったのではないか。
(小泉悠『ウクライナ戦争』ちくま新書、2022)

 

 こんにちは。先日、20代のときにコンサルをしていたという女性のお話を聞く機会がありました。そのお姉さん曰く、顧客の多くは企業の社長だったとのこと。よく二人で食事をしたり、飲みに行ったりしていたとのこと。

 

思い描く情景

 

 2つ、興味がわきます。

 

 1つ目はご想像にお任せします。そうだろうなぁと思いました。2つ目は「なぜ20代の女性が、おそらくは50代、60代の男性であろう企業の社長にアドバイスをするようなことができるのか」という素朴な疑問に基づく興味です。勤務校の校長が、畑違いの20代の女性に学校運営についてアドバイスをもらっているとしたら、えっ(?)と思いますから。

 

 耳を傾けてくれる人がいない。

 

 素朴な疑問に対する答えです。そもそも社長の話を利害関係なしに聴いてくれる人がいないそうです。プーチンと同じですね、きっと。孤独なんですよね。ポジティブな意味での孤独ではなく、承認欲求をベースとしたネガティブな意味での孤独です。だから独り善がりの妄想が膨らんで、ブラックな労働環境を放置したり、戦争を起こしたりしてしまうのでしょう。まともな話し相手がいれば、社長だろうと大統領だろうと、頭の中が整理されて、「様々な事象を、道徳的諸価値の理解を基に自己との 関わりで広い視野から多面的・多角的に捉え、人間としての生き方について考えること」(道徳の授業の目標)ができるはずなのに。

 日本全国の校長や教育長も同じです。孤独だから暴走する。もしかしたら校長や教育長にも「おっしゃることはわかりますが、労働基準法が適用される一般の企業の常識からすると、振休なしの土曜授業は教職員の健康と家庭を破壊する可能性があります」って、毎回の土曜授業のたびに進言してくれるような優秀なコンサルが必要なのかもしれません。ウクライナのそれとは比較になりませんが、学校現場も『先生を、死なせない。』なんていうタイトルの本が出るくらいにはヤバイ状況が続いていますから。

 

 

 ロトくじ(ロト6)の当選発表日は1月24日。父親の誕生日です。長生きしてくれますように&当たりますように。

 

 

 小泉悠さんの『ウクライナ戦争』を読みました。本を手に取ったきっかけは、長女の誕生日だった12月24日に公開されたマル激トーク・オン・ディマンド (第1133回)です。そのときのゲストが東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんでした。

 社会学者の宮台真司さん曰く「今後、ウクライナ戦争について映画が作られるとすれば、この『ウクライナ戦争』を下敷きにするほかないっていうくらい、微に入り細に入り、プーチンや周りの人間たち、ウクライナに潜入していたスパイたち、或いは買収されていたスパイたちの心の動きまで含めて描かれていて、本当におもしろいです」云々。今後、私たち教員が学校の授業でウクライナ戦争について語るとすれば、この『ウクライナ戦争』を下敷きにするほかありません。

 

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 マル激のタイトルにもなっていますが、ウクライナで戦争が起きた理由とそれがなかなか終わらない理由がこの本を読むとよくわかります。

 

 なぜウクライナで戦争が起きたのか。

 

 小泉さんは、この戦争が《プーチンのウクライナに対する執着により強くドライブされていた》と見立てています。そうでないと、スウェーデンやフィンランドがNATOに加盟したときのプーチンの振る舞いに説明がつかいないとのこと。理科の授業でいうところの条件制御と同じです。スウェーデンには反応しない。フィンランドにも反応しない。でもウクライナには反応した。そうだとすれば《自分の代でルーシ民族の再統一を成し遂げるのだ》という民族主義的野望、すなわち孤独ゆえの妄想を想定しないことには説明がつかないということです。とはいえ、まだ「よくわからない」ところがたくさんあるとのこと。ちなみに執着というと「発達障害か?」と教員は思ってしまいますが、大統領になるくらいだから、プーチンの何かが発達しすぎていることは間違いないでしょう。

 

 なぜなかなか終わらないのか。

 

 もともとプーチンにはあっという間に傀儡政権を樹立させて国際社会からの非難も最少のものにするという思惑(特別軍事作戦)があったのではないかというのが小泉さんの見立てです。その思惑を実現するための手立ても、多くのスパイを送り込むというようなかたちで前々から講じていたと。だから「なかなか終わらない」というのはプーチンの思惑通りにはいかず、当初の作戦が失敗して行き当たりばったりになっているということを意味します。冒頭の引用にある《全軍をもってしても不可能なことが、たった一人の人間の活躍によって成し遂げられる》なんてことはただの妄想に過ぎなかったんですよね。孤独ゆえの。とはいえ、2014年のクリミア併合(第一次ロシア・ウクライナ戦争)に関しては、おおよそ思惑通りに進んだことから、応用行動分析でいうところの強化の原理が働いて、今回のウクライナ戦争(第二次ロシア・ウクライナ戦争)もうまくいくと考えていたのでしょう。頭の中で、です。隣に優秀なコンサルはいなかったに違いありません。

 

 次年度、大学の先生にコンサルを頼む予定です。

 

 国家にも会社にも学級にも、経営に「他者」を。