田舎教師ときどき都会教師

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ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ 著『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』より。事例がおもしろい。

 FBI捜査官の任務は多岐にわたる。母国に対してスパイ活動を行うよう外国の人間をスカウトすることもあれば、犯人を割り出して自白させることもある。そうした任務をこなしているうちに、人に好かれ、信用してもらい、相手を意のままに動かすうえで非常に有効な方法がわかってきた。ひらたく言えば、アメリカと敵対関係にある国の人間ですら、アメリカ側のスパイに寝返らせるテクニックを編み出したのである。
 突きつめれば、「心を支配する」とは「好きになってもらい、信頼されること」に尽きる。
(ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ 著『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』栗木さつき 訳、大和書房、2019)

 

 こんにちは。昨日は祝日でしたが、学校に行って仕事をしてきました。FBI捜査官の任務に負けず劣らず、教員の仕事は多岐にわたるからです。通級教室に通う子どもの個別支援計画を立てたり、宿泊体験学習に向けてうんざりする量の書類を準備したり。そうした仕事をこなしているうちに、オーバーワークが続くと、難しい本を読めなくなるということがわかってきました。ひらたく言えば、マルティン・ブーバーの『我と汝』は読めない。でも、この本なら読めるかもしれない。そう思って買ってしまったのが、ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズの『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』です。

 

 児童理解や保護者対応の役に立つかもしれない。

 

 

 ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズの『元FBI捜査官が教える「心を支配する」方法』を読みました。支配っていう言葉がちょっと強いし穏やかではないなぁと思いつつも、怖いもの見たさでしょうか。疲れのためになかなか頭に入ってこない『我と汝』をいったんカバンにしまって、優秀な教師が子どもたちの集中力の限界を察したときに教室でそうやるように、元FBI捜査官の話を脱線がてら脳に送ってみました。

 

 目次は以下。

 

 第1章 〈人に好かれる公式〉のつくり方
 第2章 ひと言も話さずに、相手を見抜く
 第3章 瞬時に心をつかむ「情報コントロール術」
 第4章 人を引きつける「魅力」の法則
 第5章 相手を「思い通りに動かす」言葉の使い方
 第6章 信頼関係を築く四つの秘訣
 第7章 ネット社会の賢い泳ぎ方

 

 よくできたナンパ本みたいなものだなぁ、というのが正直な感想です。ミラーリング(相手のボディランゲージを意識して真似る)とか、褒め方は内容よりもタイミングとか、アイコンタクトは1秒以下に、とか。実際、著者も《スパイのスカウトもナンパも同じテクニックだった》と述べています。要するに人間関係をうまく構築するために書かれた自己啓発本の類いと、言い回しは違えど、基本的には同じということです。では、この本のオリジナリティはどこにあるのかといえば、それはもちろん「事例」でしょう。元FBI捜査官にしか書けないエピソードがてんこ盛りです。例えば、これ。

 

 私はFBIの防諜活動の一環として、外国から帰国したアメリカの科学者たちから報告を聞くよう命じられたことがある。機密情報を得ようとする外国の諜報員に接近されていないかどうか、確認するためだ。

 

 科学者曰く《通訳とは共通点がたくさんあった》云々。

 

 接近されていたいうことです。昨年、大学とコラボして「他者理解」をテーマにした総合学習を行いました。そのときに「他者理解の仕方」として大学の先生に最初に教わったのが「共通点探し」です。共通点を探して、あるいは共通点を作って、他者理解を深めつつ、機密情報を得やすいような親密な関係性を構築していく。クラスの子どもたち(小学4年生)が学んだ手法を、外国の諜報員(通訳)も使っていたということです。友達の作り方にもナンパの仕方にも諜報員の戦略にも、共通点があった(!)。子どもたちにも伝えようと思います。

 

 事例をもう一つ。

 

 好奇心は、「強度」を高める「フック」として利用できる(人に好かれる公式)。相手の好奇心を刺激するような行動をとれば、相手は自分の好奇心を満足させるべく、あなたに近づこうとする。FBI時代、私はよく「好奇心のフック」を利用し、外国の国籍をもつ市民をスパイとしてスカウトしたものだ。

 

 人に好かれる公式というのは「近接」「頻度」「持続期間」「強度」という4つの要素で構成される公式で、それら4つを足し合わせたものが、相手から見たその人物の好感度となります。優秀な教師が毎日欠かさずにクラスの一人一人に声をかけるのは、この中の「近接」「頻度」「持続期間」を意識してのことでしょう。もう一つの「強度」は、《言葉で、あるいはしぐさや態度などで、相手の望みをかなえる程度》を指します。優秀な教師の語りがおもしろいのは、子どもたちの知的好奇心を、授業の「強度」を高める「フック」として利用しているからかもしれません。

 ちなみに、全員ではないものの、それからスパイではないかもしれないものの、98年から02年までTBS系列で放送された討論バラエティ番組「ここがヘンだよ日本人」に出演していた外国人が、その後、日本に残ってロビイストとして活躍(暗躍?)しているのは知る人ぞ知る事実です。ここがヘンだなぁという「好奇心のフック」にひっかかった外国人が、いつの間にかロビイストになっているなんて、世の中おもしろいものです。

 

 まだまだおもしろ事例がたくさん載っています。

 

 気になったら、ぜひ読んでみてください。