田舎教師ときどき都会教師

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孫泰蔵 著『冒険の書 AI時代のアンラーニング』より。君が気づけば、世界は変えられる。

英語で "Thinking outside the box" という表現があります。これは「これまでとはちがう新しい視点で、型にはまらない考え方をする」という意味です。私たちは無意識のうちに「常識」という箱の中にいるので、まず「自分たちは箱の中にいる」と気づくこと。そして、その箱から出て外から眺めてみること。そうすれば、必ず新しいアイデアが見つかります。私たちに必要なのは、まさにこういう発想なのです。
(孫泰蔵『冒険の書  AI時代のアンラーニング』日経BP、2023)

 

 こんばんは。4月17日の月曜日に実業家・投資家の孫泰蔵さんのトークイベントに足を運んで、冒険の書にまつわる話(続・冒険の書)を聞いてきました。孫泰蔵さんは、ソフトバンクグループの創業者である孫正義さんの実弟であり、ホリエモンこと堀江貴文さんの中学・高校の同級生でもあります。

 

 Thinking outside the staff room. 

 

 

 職員室から遠く離れて、プライベートな時間に学校外の他者の話に耳を傾けるのはいいものです。孫さんが書いているように、《これまでとはちがう新しい視点で、型にはまらない考え方》をするためのヒントを得ることができるからです。

 

 Think different.

 

 スティーブ・ジョブズいうところの ”Think different” のためには、孫さんいうところの ”Thinking outside the box” が、教員の場合は ”Thinking outside the staff room”が、間違いなく必要でしょう。

 以下、備忘録のためのメモより。

 

  • 同世代の誰よりも失敗してきた自信がある。だからこそマーク・ザッカーバーグやジェフ・ベゾスとも臆することなく堂々と話をすることができた。
  • たった10年で馬車が車に変わった。合わせてインフラも変わった。その変化は「ニューヨークのマンハッタンの五番街の通りを走る馬車と自動車の写真」として残っている。2023年は自動運転元年となる。アマゾンの傘下に入った zoox という会社がカリフォルニアで商用の自動運転車を走らせることに成功している(動画を披露)。

 

youtu.be

 

  • 自動車での移動は無料になる。自動車を所有する時代は終わる。アマゾンの関係者曰く、人類が移動にお金を払う時代を終わらせる。
  • 馬に乗りたい人が乗馬クラブに入って特定の場所で乗馬を楽しむように、自動車を運転したい人は教習場のようなところに行って運転を楽しむという時代が来るだろう。
  • サブスクにはせず、無料で自動運転車に乗ってもらって、例えばスピードを上げたいとか、大音量で音楽を聴きたいというオプションを選択する場合にはお金を払ってもらう。そういう収益モデルをアマゾンはイメージしている。
  • 東京の3分の1が駐車場であり、自動車を所有する時代が終われば、駐車場が不要になり、景観が一変する。
  • 冷蔵庫も要らなくなるかもしれない。Ziplineというドローンを使った配達会社がピンポイントで届けてくれるから(動画を披露)。

 

youtu.be

 

  • ChatGPTに関しては、つくった人もスタートアップもベンチャーもみんなびびっている。
  • カーボンニュートラルの先を行く、カーボンネガティブ(二酸化炭素を減らす)を実現しているスタートアップもある。
  • プラスチックはTPU(熱可塑性ポリウレタン)に置き換わる。
  • 自動車を所有する人がいなくなるかもしれないくらい「急激に」社会が変わっていくのに、教育はこのままでいいのだろうか?
  • Z世代やミレニアム世代は本当に素晴らしい。彼ら彼女らが立ち上げているスタートアップのことを「αスタートアップ」と呼んでいる。zoox然り、Zipline然り。Ziplineをつくった若者が私のところに売り込みに来たときには、紙に書かれたアイデアだけだった。
  • ただの田舎なのに、なぜシリコンバレーではどんどん新しいものが生まれるのか。シリコンバレーの生態系を考えた。シリコンバレーにはアジア人が多いのだから、アジアにシリコンバレーをつくりたい。
  • 孫家の教えのひとつに「他人に習うな」というものがある。
  • 市民として必要な基礎的な能力について。19世紀は読み書きそろばん。20世紀は知識の正確な習得。そして21世紀は「未来を切り拓く力」だ。
  • あえて挑発的に言わせてもらえば、教育には全く興味がない。不登校の受け皿なんてつくりたくもない。ただただ楽しい場をつくりたいだけ。そこで2014年にVIVITAをつくった。そこには先生もいないしカリキュラムもない。でも、子どもたちはやりたいことを自分で見つけて勝手に楽しんでいる。
  • 友達や仲間がいれば、会社を首になったとしても生きていける。
  • 子育てに答えなんてない。何でもいい。もっとリラックスして子どもに接すればいい。親が思うようには子どもは育たない。
  • 君が気づけば、世界は変えられる。

 

 You can change the world.

 

 

 孫泰蔵さんの『冒険の書』を読みました。トーク・イベントで「教育には全く興味がない」という発言を聞いた後に読んだので、最初から最後まで、ほとんどの頁が教育に関する話題で占められていたことに驚きました。

 

 興味、めちゃくちゃあるじゃん。

 

 とはいえ、数々の問いをもとに、調べ尽くして、考え尽くしたからこその「全く興味がない」発言だったのかもしれません。目次は以下。どの章にもたくさんの「問い」が書かれています。

 

 第1章 解き放とう
 第2章 秘密を解き明かそう
 第3章 考えを口に出そう
 第4章 探究しよう
 第5章 学びほぐそう

 学びって本来はすごく楽しいことのはずなのに、どうして学校の勉強はつまらないのだろう? 人生は本来すごくワクワクするもののはずなのに、どうしていつも不安を感じながら生きていかなければならないのだろう?
 そんな疑問で頭がいっぱいになりました。そこで疑問の答えを求めて、行くあてもなく探究の旅に出ました。

 

 第1章の前にある「はじめに」より。探究の旅の目的地は「本」です。例えばコメニウスの『世界図絵』やホッブズの『ホッブズ 市民論』、フーコーの『監獄の誕生』やランカスターの『教育の改善』など。つまり教育に関する「本」の扉を次々とノックしていくことで、疑問を解決していくというスタイルの旅=多比=冒険というわけです。だから、

 

 冒険の「書」。

 

 孫泰蔵さん曰く《本書は僕の考える教育論であり、社会論でありアンラーニング論ですが、同時に物事をクリティカルにとらえ、世界を変えた偉大な先人たちの書籍を紹介するブックガイドにしたいと思っていました》云々。というわけで、小中高の教員は、あるいは教員志望の大学生は、今すぐにでもアマゾンでポチッとするか、書店に買いに走るべきでしょう。

 子どもと大人はなぜ一緒に学べないのか?(第1章)
 どうして「遊び」と「学び」は分けられたのか?(第2章)
 「能力」が信仰されるようになったのはなぜか?(第3章)
 そもそも「役に立つ」ってどういうことか?(第4章)
 これからの時代の学校の存在する意義はどこにあるのか?(第5章)

 どうでしょうか。答えられるでしょうか。これら以外にも、章ごとに10以上の「問い」が登場します(トータルで80の「問い」)。私としては、第2章に出てくる「遊び」と「学び」の区別と、勅使川原真衣さんの『「能力」の生きづらさをほぐす』を連想させる「能力」の話(第3章)がツボでした。

 

 

 

 ちなみに第2章の「遊び」と「学び」の問いのところで参照されているのは、佐伯胖さんの『「わかり方」の探究』です。佐伯さんは「現役」。つまり、旅先として登場するのは、古典だけではないということです。最近の本でいうと、例えば近内悠太さんの『贈与は世界でできている』なども紹介されています。

 

 日本の教育者で研究者のユウタ・チカウチ(近内悠太)は『世界は贈与でできている』(2020)で「贈り手にとって、受け手は救いとなる存在だ」と言っています。

 

 その近内さんは、著書『世界は贈与でできている』の最終章に、贈与を受け取るためにも「歴史を学びましょう」というようなことを書いています。歴史を学ぶことで、贈与の受取人としての想像力が働くようになるからです。贈与は、受取人の想像力から始まる。近内さんの名言です。

 贈与としての現在の学校&現在の教育を理解した上で、AI時代のアンラーニングに取り組み、未来の学校&未来の教育を考えていく。孫さんの「教育には全く興味がない」という発言は、もしかしたら「過去の教育には全く興味がない」ということなのかもしれません。教育と社会は両輪といわれています。αスタートアップへの投資などを通して未来の社会をつくりつつ、同時に、VIVITAなどを通して未来の教育もつくっていくということなのでしょう。

 

 未来の教育はどうあるべきか。

 

 気づきたい。