「アオちゃんは何を書きたいの?」 アオは力いっぱい「せ」と書いている。「せ?」「今日、国語の授業で習ったの。だから、書いてみたかったの」 私の涙はいつまでも止まらない。「早く、パパも書いてよ」 ようやく鉛筆を動かした私は、漢字で「幸福」と大き…
本の制作過程からわかったことは、コルクラボは居心地のいい居場所を設計しようとしていることでした。それは、コルクラボが掲げる4つの行動指針にも表れています。 1 自分の安心安全を知る 2 自分の言葉を紡ぐ 3 好きなことにのめりこむ 4 人の頼り方…
一度、ラマダン中とは知らずに野外調査に出向いたことがあるが、炎天下でもモーリタニア人は一口も水を飲まなかったので、熱中症にならないか心配していた。ただでさえ厳しい自然環境なのに、何ゆえ過酷な状況にその身を追い込むのか。答えを求めて自分も彼…
一般には、生活内容が興味深く新奇であれば、そのために時間は「追い払われる」、つまり時間の経つのが短くなるが、単調とか空虚とかは、時間の歩みにおもしをつけて遅くすると信じられているが、これは無条件に正しい考えではない。一瞬間、一時間などとい…
ある日、喫茶店で打ち合せをしていて 支払いのとき、レジ裏の棚に豆本が並んでいて そのおかげで、この未来工房の作品群を知った。 グーグルにのっていない情報を見つけること。 それが僕の仕事でもある。(坂口恭平『思考都市』日東書院、2013) 未来工房の…
英語には「過労死」に該当する単語がなく、「KAROSHI」と表記されるという。仕事は生活のためにすることなのに、なぜ日本人は仕事のために命を落とすのか、まるで理解できないと言われるが、返す言葉がない。死に至らずとも、ストレスから心身を蝕ま…
でも、1001編を書き上げてからは、家族で過ごすことが多くなり、心は少し和らいだようだった。~中略~。 ある日、若い編集者が家にやってきたとき、壁に飾っていたピカソやビュッフェのリトグラフを見て驚かれたことがあった。 すると新一は、「いやあ…
会社づとめをしている人の中に、出世することより現場の仕事を愛するという人がいる。「てっぺん」好きの人は、そんな人のことを軽蔑したりする。しかし、と田辺さんは言うのだ。《私はといえば、ふもとや三合目をみずから望んで、人生をたのしんでいる人が…
次第に病状が悪化していくなかでも、母は自分のことより私の体調を気遣ってくれた。久し振りに父と暮らすことになった千葉・行徳から地下鉄を乗り継ぎ、銀座まで通うのも大変だったに違いない。それでも私に弁当を届けた後、客が少ないのを見ると心配して、…
2001年10月、国会での中村医師の証言には、万感のこもると思われる一節がある。「(アフガンが直面する)餓死については、自民党だとか共産党だとか社民党だとか、そういうことではなくて、一人の父親、一人の母親としてお考えになって、私たちの仕事…
今回のモバイルハウス制作において、ロビンソンはただの協力者ではないのかもしれない、と僕はふと思った。この計画をきっかけにして、彼は徹底的に僕に対して技術を伝承しようとしているのかもしれない。 道具の使い方、家の建て方、空間の捉え方、そして誤…
このように人生初の海外旅行は、僕が知らぬ間に限定していた価値観の幅を大きく拡張してくれた。 しかし、これに味を占めて、その後もどんどん海外へ行ったのかというとそうではない。僕はもっといろんな世界を見てみたいと思うよりも、当たり前だと思い込ん…
「好きなものがわからない」とかも言うんだよね。でも「赤と青どっちが好き?」って聞けば「青」とかはっきり答えるからね。それなんだけど、好きなものって。なんで、でっかい、自分の人生を、すべて背負うようなものを、考えちゃうの? 青と赤、体動かすの…
人間の根源的な二つの欲求は、翼をもつことの欲求と、根をもつことの欲求だ。 ドン・ファンの生き方がわれわれを魅了するのは、みてきたように、それがすばらしい翼を与えてくれるからだ。しかし同時にドン・ファンの生き方がわれわれを不安にするのは、それ…
しかし、ともかく、わたしは自分を「それはわたしです」と言い得る簡潔な単独の略号をおもいつきません。ましてや、先生が生徒に、「君はだれ? 何する人? って聞かれたら、すぐ大きな声でわたしは何々です、と答えられるような人間になりなさい」 などと教…