田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

鶴見俊輔 編著『新しい風土記へ 鶴見俊輔座談』より。教員に「learn」と「unlearn」の時間を。

戦前、私はニューヨークでヘレン・ケラー(1880~1968)に会った。私が大学生であると知ると「私は大学でたくさんのことを学んだが、そのあとたくさん、学びほぐさなければならなかった」といった。学び(ラーン)のちに学びほぐす(アンラーン)。「アンラ…

村上春樹 著『中国行きのスロウ・ボート』より。きちんと芝を刈ることと、きちんと学級をつくること。

僕はその年、芝刈りのアルバイトをしていた。芝刈り会社は小田急線の経堂駅の近くにあって、結構繁盛していた。大抵の人間は家を建てると庭に芝生を植える。あるいは犬を飼う。これは条件反射みたいなものだ。一度に両方やる人もいる。それはそれで悪くない…

大前研一 著『マネー力』より。ストリート・スマートを育てるために、学校は午前だけでよい。

今後、日本の経済力が上がるかどうかは、ストリート・スマートをどれだけ輩出できるかにかかっているといってもいい。 ところが日本の教育界はこの期に及んで、まだアカデミック・スマートを育てることしか頭にないようだ。(大前研一『マネー力 資産運用力…

内田樹 著『修業論』より。昨夜、師匠と会って思い出した「いい人」の話。

Aさんは「理」を見るしかたをシベリアで学んだ。それに対して、元参謀はついに「理」を見ることができなかった。帝国の瓦解について、それがどういう理路によって起きたことなのか、ひさしく超法規的統帥権を行使してきた部署の責任者のひとりとして、一言…

日垣隆 著『学問のヒント』より。せっかく日本に生まれたんだ。神様がいろいろ見て回れって言ってるんだよ。

この偉大な翁がいたからこそ、日本の近代地図は鎖国時代に誕生することができ、江戸時代人は日本列島の自己像を、黒船ペリー来航のずっと以前に知悉しえたのであった。それゆえに、ペリー司令長官の配下によって列島で全国測量が強行される事態は避けられ、…

駒崎弘樹 著『「社会を変える」を仕事にする』より。溺れる赤ん坊のメタファーと給食と変形労働時間制の話。

あなたは旅人だ。旅の途中、川に通りかかると、赤ん坊が溺れているのを発見する。あなたは急いで川に飛び込み、必死の思いで赤ん坊を助け出し、岸に戻る。 安心してうしろを振り返ると、なんと、赤ん坊がもう一人、川で溺れている。急いでその赤ん坊も助け出…

平田オリザ 著『わかりあえないことから』より。日本の先生方は、世界で一番忙しい。

日本ではゆとり教育批判と並んで、総合的な学習の時間も風前の灯火になっているが、世界の趨勢は逆だ。ヨーロッパの多くの国では科目の融解とも言える現象が始まっている(もちろん教育は常に試行錯誤を繰り返すので、ヨーロッパでもいわゆる基礎学力を重視…

映画『海よりもまだ深く』(是枝裕和 監督)& 成毛眞 著『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。』より。人生の正午における教員の働き方について。

ミドルエイジが人生の一大転機であるという捉え方は、決して新しいものではない。 心理学者のユングは、四十歳前後を「人生の正午」と呼んだ。 正午を過ぎたあとは、ただ日が暮れるのを待つだけ、すべてが下降線をたどるというイメージに捉えがちだが、ユン…

平川理恵 著『あなたの子どもが「自立」した大人になるために』より。キーワードは主体性と協働。夢をかたちに。

リンダ・グラットン教授によれば、近未来の2025年は50億人が携帯端末で結びついている時代。主体的に選び取るのであれば、みんなの力で大きな仕事をやり遂げることができるに違いありません。OECD(経済協力開発機構)が進めている世界的な学力調査・P…

宮台真司、苅部直、渡辺靖 著『民主主義は不可能なのか? コモンセンスが崩壊した世界で』より。俺はいいけど、あの人は大丈夫か?

宮台 中国は、アメリカと違い、AI統治と信用スコアを全面化しつつある。前者から言えば、ネットを使っていると公安が訪れて「あなたはAIによってマークされた」と連行される。「政治ネタは書いていない」と反論しても「AIの判断。我々には分からない」…

上田紀行 著『かけがえのない人間』より。会おうと思えばいつでも会えると思える人には、絶対に会えない。

小学生の学力が低下したとか言われているけれども、テストの点数に一喜一憂するよりも、もっと大切なものがあることを忘れてはいけない。小学校6年までの教育では、周りにいる人間が仲間なんだ、という意識を身につけることが決定的に重要なんだよ。人間は…

是枝裕和 著『映画を撮りながら考えたこと』より。新文科相の就任会見の記事を読みながら考えたこと。

残された学生時代の詩や作文、官僚時代の福祉についての論文を一つひとつ繙くと、行政側に立ったひとりの良心的な人間が福祉切り捨ての時代のなかで自己崩壊していく過程が感じられました。このように、取材で発見したものを構成に組み込むことで、番組はよ…

井上雄彦 著『空白』より。変形労働時間制の前に、もっとできることがあるだろう、という話。

でも結局、その感想、批判、中傷、様々な意見、ポジティブな意見も含め、すべてはそれを発信した「その人自身」なんじゃないかと思うんです。 さっきFMラジオで、ある女性シンガーソングライターの曲がかかっていて、「人が見る自分は鏡に映る自分だから」…

村上春樹 著『雑文集』より。働き方を変えて、一生懸命弱るのはやめて、ただの「よその人」に関心を。

でもひとつだけ目に見えて変化したことがある。それは電車に乗ったときに、まわりの乗客をごく自然に見渡すようになったということだ。そして、「ここにいるこの人たちみんなに、それぞれの深い人生があるのだな」と考える。「そうだ。僕らはある意味では孤…

木村秋則、石川拓治『土の学校』より。緒川小学校に学ぶ、ひとりひとりみんな違うに応えるということ。

もちろん、人間だってそうです。ひとりひとりみんな違う。 それなのに、それこそリンゴ箱のようにひとつの教室に同じ年齢の子供を集めて、みんな同じという前提で教育をしています。それがそもそもの間違いだと思います。 1本のリンゴの木になるリンゴの実…