中島 レシピ自体が極めて近代的なもので、政治学で言う設計主義なんですよね。人間がすべてをコントロールし、そして、こういうふうにやれば世の中がうまくいくという考え方。けれども現実は、それどおりにはいかないわけですよね。むしろそういうものが他者を抑圧してしまったり、枠のなかにはめようとして暴力的な行為をおこなったりする。この設計主義をどのように超えていくかは政治学にとって非常に大きな問題なんですけれども、それをおそらく土井さんはレシピを超えるということを料理人としてされている。
土井「設計主義」、覚えておきます。これはね、お料理上手と言われる人は、みんなそこんところをわかっていて、素材の前提条件をいつも同じにするということは、まあいうたら不可能だと。
(土井善晴、中島岳志 『料理と利他』ミシマ社、2020)
おはようございます。先日、井上雄彦さんの『THE FIRST SLAM DUNK』を観に行きました。スラムダンク世代には必見の映画だと思います。主人公は桜木花道ではなく、宮城リョータ。漫画は何度も読んでいますが、映画については予備知識ゼロだったので、それこそ「思いがけずリョータ」でした。
思いがけず利他。
リョータと利他、思いがけずちょっと似ています。とうのは冗談としても、時を経て、遠くからやってきたプレゼントのように思えたことから、この作品自体が中島岳志さんの『思いがけず利他』でいうところの「利他」、あるいは近内悠太さんの『世界は贈与でできている』の「贈与」のように思えました。この三連休に、もう一度観に行こうかなぁ。
土井善晴さんと中島岳志さんの『料理と利他』を読みました。コロナによるパンデミックが始まった2020年にオンラインイベント(6月20日、8月29日)として開催された二人の対談を書籍化した一冊です。研究のテーマに「利他」を掲げている中島さん曰く《「利他」を考える本質が、土井さんの料理論にあるという直観と確信があった》とのこと。ちなみに中島さんは政治学者で、土井さんは料理研究家です。
料理論 ≒ 授業論
土井さんの本を読み、前々からそう思っていた私には、三段論法的に「授業と利他」も成り立つのではないか(?)という直観と確信があるのですが、どうでしょうか。冒頭のレシピは指導案と読み替えることができるし、素材の前提条件をいつも同じにすることはできないというのは、まさに子どもたちに当てはまります。次の台詞もまさに授業論です。ちなみにこれはオンラインでの対談を視聴していた哲学者の國分功一郎さんの質問に対する土井さんからの回答です。國分さんも「利他」の研究をしていて、中島さんと一緒に東京工業大学で「利他プロジェクト」に携わっているとのこと。すごいメンバーだなぁ。
土井先生から國分先生へ。
「料理とはクリエイションである」という考え方と、「料理の最善はなにもしないこと、つまり素材を生かす」という、相反する考え方の両方を、私たちはもっています。前者は西洋料理的観念であり、後者は日本料理的観点といえます。それは西洋の人間中心主義と日本の自然中心主義(観)の結果だと思います。
どうでしょうか。授業論に読み替えると「授業とはクリエイションである」、「授業の最善はなにもしないこと、つまり教材、あるいは児童・生徒を生かす」となります。おもしろいのは料理とは違って、前者が日本的に、後者が西洋的に思えることです。「自然人」が教育の目的であると説いたルソーを引くまでもなく、西洋のそれが「そのまま」を大切にするのに対して、日本の教育は「やりすぎ」だからです。
部活動もやりすぎ。
宮城リョータたちの顧問である安西先生が何の科目を教えている先生なのかすらわからないという「本末転倒」が生まれるのもそのためでしょう。でも、諦めたらそこで試合終了なので、今年も定時退勤をがんばりたい。
土井さんの料理論と私たちの授業論にはその他にもたくさんの類似点があって、それはぜひページを開いて確かめてください、という話なのですが、最後に本書のテーマである「利他」についての土井さんの見解(の一部)を引きます。
土井 利他は対象(者・物)と自分のあいだにはたらきます。私の考える料理の利他は、つくる人と食べる人のあいだに生まれるものと思います。たとえば、料理する人が食べる人の健康を思って料理する。対して、食べる人の姿を見て、料理する人は食べる人から戻される利他を受け取る。その日によって、料理する人と食べる人の利他のバランスは変わります。
あぁ、やっぱりこれも授業論だ。私たち教員は、子どもたちからの利他を受け取ることによって、過労死レベルの労働環境を生き抜いているわけですから。いや、子どもたちだけではありません。保護者からの利他も、それから先人からの利他も、そして未来に生きる人々からの利他も。近内さんの贈与論にある「贈与」と同じように、
利他も、受取人の想像力から始まる。
映画、観に行こうかな。