田舎教師ときどき都会教師

読書のこと、教育のこと

2025-01-01から1年間の記事一覧

窪美澄 著『夜に星を放つ』より。本を読む大人はカッコいい。

これで船場さんとの関係がぷつりと切れた凧糸のように終わるとも思えなかった。けれど、その予感はあった。希里子も希穂もそうやって自分の前から姿を消したのだ。(窪美澄『夜に星を放つ』文春文庫、2025) こんにちは。昨夜、東京は三鷹にあるUNITE(ユニ…

宮崎智之、山本莉会 著『文豪と犬と猫』より。文豪も子どもも、関係性から読み解く。

私は今、六十五才の老人であるが、いきものに対しては子供と同じように興味を持っている。私は又、私の文章が子供の文章に似ているとも思っている。私は私の中に、そういう子供らしさが多分に残っている事を感ずる。そして、そのため、色々な事を面白く感じ…

遠藤周作 著『フランスの大学生』より。宮崎智之さんお勧めのエッセイ!

また、女学生を珈琲店に伴って煙草を奨めた時「戸外では育ちのいい家の娘は煙草を喫いませんのよ」と断わられて、何言ってやがると癪に障ったことがあった。ぼくが、癪に障るのは、その判断の是非のためではない。青春時代に、自分の人生の目的が育ちのいい…

猪瀬直樹 著『戦争シミュレーション』より。あの戦記をしてあの未来あり。

排日移民法制定と同時期、日本における日米未来戦記を定着させる上において、大きな役割を果たしたのが、ヘクター・C・バイウォーターの『太平洋大戦争』(1925年)の翻訳刊行だった。ここで、水野広徳に続く海軍出身作家の石丸藤太が登場し、毎年のよ…

江國香織 著『冷静と情熱のあいだ Rosso』より。自分の責任で自由に愛す。

梅ヶ丘のアパートは、小さいけれど居心地がよかった。絵の具と油の匂いがしていて、雨の日はそれが一層つよくなる。窓からみえる目の前の公園の、長い階段と濡れそぼつ枯れ木。ほんとうに死にたくなるような雨だった。あの冬のあの雨。私はあの部屋にとじこ…

辻仁成 著『冷静と情熱のあいだ Blu』より。果てないこの盤上でまた出会えるかな?

それほど大きくない窓があった。室内が薄暗いせいで、外の光がハレーションを起こし、窓の枠がトンネルの出口のように見える。その先に広がる風景は、工房の作業場の小さな石窓から見えていた景色とも、アルノ川沿いのぼくの部屋の窓からの眺めとも違い、も…

水野敬也 著『夢をかなえるゾウ0』より。読むと、指導力が上がるゾウ。

「いつもと違う道を歩く、普段とは違うものを買う、見知らぬ店に入る・・・・・・どんなささいなことでもいい。日々の生活に『初めて』を取り入れなさい。そして、人間は、未知なるものにこそ喜びを見出す存在であることを――未知の要素がないのなら最高の楽しさは…

伊坂幸太郎 著『パズルと天気』より。いかに合わせるか、いかに楽しむか。

「他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい、とも言っていた。頑張って、ピースを探すのがパズルだけど、天気は自分の力じゃどうにもできない。晴れるのも雨が降るのも操作はできないから、逆にこっちでそれにいかに合わせるか、いかに…

紀藤正樹 著『マインド・コントロール』より。だましの手口を一挙公開、マインド・コントロール教室。

現在の日本は、巨大カルトが登場しにくくなる一方で、霊能者や占い師などの個人が、別の個人や家族、あるいはせいぜい20~30人以下といった小さな集団をマインド・コントロールする事件が増えていることも、強調しておきたいと思います。(紀藤正樹『マ…

東畑開人 著『野の医者は笑う』より。心の治療と同様に、教育の考え方や手法もまた、時代を映す鏡。

「ヤブ医者」というのは、腕の悪い医者の意味ではない。朝廷に仕える正規の医師と違って、「野」にいて、それでいて「巫」、つまり巫女(みこ:ふじょ)のようなシャーマニックな治療を行う人たちのことを言ったのだ。祈禱師や陰陽師のような人たちだ。『源…

五木寛之 著『こころの散歩』より。結局、人。やっぱり、生き方。

「ヒゲダン」というバンドがいま人気絶頂だという記事が出ていた。正確には「Official 髭男 dism」というグループらしい。この「ヒゲ」という字がどうしても書けない。 電子辞書を引くと、〈「髭」は口ひげ、「鬚」はあごひげ、「髥」はほおひげ、総称として…

島田潤一郎 著『古くてあたらしい仕事』より。島田さんはきっと、ヨクミキキシワカル人。

そういう日々が続くと、出勤と同時に上司に呼び出され、説教をされるようになった。ぼくの営業成績は部内でも一、二を争うくらいの数字だったが、毎日のように怒られた。「みなと同じようなスタイルで仕事をしなさい」 上司がいいたいのは、結局、そういうこ…

くどうれいん 著『虎のたましい人魚の涙』より。いまのわたしが、いまのわたしで、いまを書く。

花屋の開いている時間に、八百屋の開いている時間に、本屋の開いている時間に、たまたま帰ることのできたあなたが文庫本になったこの本と出会い、仕事用の鞄にすっと入れたまま、読めたり読めなかったりしたらいいな、と思う。(くどうれいん『虎のたましい…

くどうれいん 著『うたうおばけ』より。ハッとしたシーンを見つけ、積み重ねよう。

殻つきの生うにが来た。吉浜食堂の店主は漁師である。三陸で朝採ってきたものをそのまま夜に出すのでうにがぴかぴかしている。スプーンで掬って何もつけずに食べる。きゅぴーん、という音がする。そういう、発見に似た驚きがいつ食べてもある。はじめてのう…

五木寛之 著『僕はこうして作家になった』より。きょう一日食えればいい。

〈べつにいいじゃないか。どうせ引揚者なんだから――〉 いつもお定まりの呪文をつぶやくと、急に元気が出てきた。難民として国境をこえ、海を渡ってこの国へたどりついた少年時代のことを思い出したとたん、どんなときにも居直りめいた勇気がわいてくるのであ…

岡嶋裕史 著『ChatGPTの全貌』より。読んで、使って、知りましょう。

海の近くに住む者が海のことを知らないと危険なように、森の中に住む者が森を熟知することで森から大きな恩恵を受けられるように、現代の生活環境は情報システムの中にある。すでに私たちにとって土や水と同等の存在だ。だから理解しなければならない。法律…

五木寛之 著『みみずくの夜メール』より。実っても頭を垂れぬ麦穂かな。

あまりそういうことを書くと、いかにも自慢しているように思われそうだが、かつて60年代、70年代には、私の書いたものに共鳴して海外にとびだし、身をあやまった若者たちが少なくなかった。ごめんなさい。 望月さんは、身をあやまらずに自分の生きる道を…

灰谷健次郎 著『わたしの出会った子どもたち』より。林竹二とのやりとりが載っていて嬉しい。

本質的に子どもはそういうものなのだ。子ども本来の姿が、そのまま通らないところに、社会の罪があるというふうに考えられはしまいか。(灰谷健次郎『わたしの出会った子どもたち』新潮文庫、1984) こんにちは。昨日、横浜にある情報文化センターまで足を運…

辻仁成 著『アンチノイズ』より。無音を含め、あらゆる音を肯定する。

フミがぼくの地図の中心だった。どこが好きなのかしら、と言ったフミの言葉がふいに蘇ってきた。ぼくこそフミのどこが好きだったのだろう。自分の気持ちを知りたかった。ぼくは自身に問いたいがために地図を作ってきたのかもしれない。(辻仁成『アンチノイ…

近藤絢子 著『就職氷河期世代』より。1993年~2004年に高校、大学などを卒業したみなさん、読みましょう。

解決できない問題の存在を受け入れ、それを前提とした議論を進めていくことも必要だ。例えば就職氷河期世代が高齢期に差し掛かった時には、現行の公的年金制度の給付だけでは生活が成り立たない単身高齢者世帯の増加はおそらく避けられない。そこを直視せず…

横道誠、菊池真理子、二村ヒトシ 著『「ほどよく」なんて生きられない』より。過去は、エンジンになる。

橋本治に関して思ったのは、橋本さんもものすごい量の本を刊行したじゃないですか。ああいう度を超えたクリエイティビティって、私はなんとなくわかる気がするんですよね。つまり、トラウマがエンジンになっているんじゃないかなと思うんです。(横道誠、菊…

辻仁成 著『ワイルドフラワー』より。野生を取り戻せ。

俺の定位置は半円形のカウンターの一番左端と決まっていて、そこは酒を客に注ぐ香奈江の横顔を眺めるのに適した場所だ。坊城や作家の久遠といった常連客たちの杯に香奈江が酒を注ぐのを、静かに眺めて夜を過ごす。その時俺は一人ここで優越感に浸りながら香…

横道誠 著『レトロな世界に分け入る』より。3人のユニークなレトロ商に出会えます。

こうやって「第四次レトロブーム」に耽るうちに、僕はじぶんの書物に対する興味も見直すようになって、本だけでなく好きなレトログッズを並べた「理想の本棚」を模索するようになった。その一例が写真41の本棚だ。ここに並べた書籍とその著者名を書きだし…

堀潤 著『災害とデマ』より。教員のみなさん、読みましょう。

2022年9月に静岡県で発生した、台風の影響による豪雨災害では、市街地全体が大規模に水没するという、生成AIで作られたフェイク画像が広く出回り、人々を混乱させる事案が問題になりました。画像はフェイクだと、ほどなくして明らかになりますが、画…

鈴木大裕 著『崩壊する日本の公教育』より。教育のマニュアル化とは? 公教育の市場化とは?

「私たちがどうやって教員を評価しているかですか? 話もしませんよ。そんなことは私たちの国では関係ないのです。その代わりに、私たちは『どのように彼らをサポートできるか』を議論しますよ」。現場を信じて任せる……。教育現場に結果責任を求めるのではな…

辻仁成 著『ガラスの天井』より。小説家辻仁成のゼロ地点を物語るエッセイ集。

僕達は、何人もの人達と出会っては別れていく。生きている限り、何処かで誰かと会ってしまう。そして何処かに、大切な人達を置き去りにしてしまう。僕達は小さな頃からそれを繰り返してきた。小学校の頃、とても仲のいい友達がいた。席替えがあるまで、僕は…

辻仁成 著『音楽が終わった夜に』より。歌はもう終わった。しかしメロディーは鳴り響いている。

最後にそこを使ったのは、ちょうどエコーズの解散コンサートの直前だったので、初めて顔を出した時から本当に十年という歳月が流れていた。 もうみんな、何を見ても驚いたりはしなかった。あまりプライベートなことも話さなくなっていた。相変わらず練習は好…

エマニュエル・トッド、片山杜秀、佐藤優 著『トッド人類史入門』より。トッドの名著『西洋の敗北』の手引き書!

ロシアとドイツを結ぶバルト海の天然ガスパイプラインの破壊も、西側メディアでは「ロシアによる工作だ」という論調ですが、私は米国と英国とポーランドが破壊したと確信しています。天然ガスを止めたいのなら、ロシアは単にパイプラインの栓を閉めればいい…

辻仁成 著『そこに君がいた』より。危険こそが、健全?

理由なんてなんでもよかった。危険とか、ダメとか言われれば、それをしたくなるのが子供であった。今思えば、危険こそが一番の教育者であった。危険が僕等に教えてくれたことは大人になって本当に役に立った。ダメと言われて、それをしない子には、優等生に…

辻仁成 著『そこに僕はいた』より。いやな奴も大勢いたけど、僕は学校が大好きだった。

小学校のときというのはどうしてあんなに変な奴が多いのだろう。振り返ると小学校時代ほど変な奴が溢れていた時代はない。奇人変人のオンパレードなのである。大人になると皆だんだんまともになっていき普通になってしまうのが残念だ。人々が子供の頃のまま…