田舎教師ときどき都会教師

読書のこと、教育のこと

江國香織 著『冷静と情熱のあいだ Rosso』より。自分の責任で自由に愛す。

 梅ヶ丘のアパートは、小さいけれど居心地がよかった。絵の具と油の匂いがしていて、雨の日はそれが一層つよくなる。窓からみえる目の前の公園の、長い階段と濡れそぼつ枯れ木。ほんとうに死にたくなるような雨だった。あの冬のあの雨。私はあの部屋にとじこめられていた。それまでの幸福な記憶に、信じられないほどあとからあとから湧きでて溢れた愛情と信頼と情熱に。一歩も外にでられなかった。おいで、と、順正は言ってくれたのに。おいで、と、採掘したばかりの天然石のような純粋さと強引さ、やさしさと乱暴さで。
(江國香織『冷静と情熱のあいだ  Rosso』角川書店、1999)

 

 おはようございます。辻仁成さんと江國香織さんの往復書簡的恋愛小説『冷静と情熱のあいだ』(Blu&Rosso)を再読したら、主人公の順正が学生時代に住んでいたという梅ヶ丘に行きたくなって、そしてそのアパートから見えていたという羽根木公園にも行きたくなって、検索してみたところ、なんと、公園内に羽根木プレーパークがある(!)と出てくるではありませんか。北村匡平さんが『遊びと利他』の第4章「遊びを創り出す」で紹介していた《プラスでドキドキとかワクワクとか、誇らしかったりとか、強烈な体験》を生むという自主運営の遊び場です。

 

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羽根木プレーパーク(2025.6.21)

 

屋根の上に子ども(2025.6.21)

 

手作りの滑り台(2025.6.21)

 

 楽しすぎました。順正が住んでいた梅ヶ丘を体感する、という目的が、いつの間にか北村さんが惹かれたプレーパークを体感する、という目的に変わり、これぞまさに北村さんが推すところの偶然性だな、と。ちなみに辻仁成さんが学生時代に住んでいたのは下北沢だそうで、そのことはブロガーの「月に叢雲 花に嵐」さんが教えてくれました。曰く《辻仁成自身は成城大学時代は下北沢に住んでいて、2020年に一時帰国した際に懐かしみながら歩いている。https://www.designstoriesinc.com/panorama/shimokita/ かつての大家さんが飲み屋さんをオープンさせたという話が書かれている》云々。ブックマーク&コメント、いつもありがとうございます。記事に出ている飲み屋さん(合心酉庵)に、今度行ってみようと思います。これもまた偶然性。あるいは、

 

 利他。

 

cloudmoon.hatenadiary.com

 

羽根木公園の長い階段(2025.6.21)


 羽根木プレーパークは、両サイドに梅の木が並ぶ長い階段を登ってから数分のところにありました。もしかしたら、あおいが回想している《窓からみえる目の前の公園の、長い階段》と同じかもしれません。来年、梅が咲く頃に、

 

 また行けたらいいなぁ。

 

 

 江國香織さんの『冷静と情熱のあいだ  Rosso』を再読しました。江國さん曰く《晴れた日の下北沢で、この、いっぷう変わった小説計画は生まれました》という、BluとRossoの2冊から成る、往復書簡的な恋愛小説。辻さんは男性目線で「順正の物語」を描き、江國さんは女性目線で「あおいの物語」を描きます。

 

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 あらすじについては、上記の『冷静と情熱のあいだ  Blu』のブログに書いたので割愛します。

 あおいの物語を再読しつつ、いちばん気になったというか、解せなかったのは、順正と別れた後に恋人となったアメリカ人のマーヴに対するあおいの気持ちのこと。あおいは《マーヴとのセックスは幸福だ。みたされない理由は一つもない》とか《私はたまらなくマーヴがほしくなった》とか《ほとんど動物的な親近感を抱く》とか《ふいにマーヴを大切に思う気持ちがこみあげて、私は泣きだしそうになる》とかって言いつつも、次のように訴えるんです。

 

「はなして」
 できるだけそっと言った。マーヴが怯えている。それは私をほんとうにたまらなくするが、私はマーヴを安心させてあげることができない。どこにもいかないから大丈夫、と、ずっとここにいるから安心して、と、私はマーヴに言ってあげることができない。

 

 うん、解せません。それならなぜ同棲しているのか、と。まぁ、とはいえ、解せないからこそ恋愛に引き込まれるのでしょう。小説であろうと、実際の人生であろうと、です。一読者として、あるいは年上(?)として、何かを言ってあげることができるとすれば、あおいには「(本音を)言えないから、癒えない」と言いたい。マーヴには、プレーパーク的に「自分の責任で自由に愛す」&「失恋は自分の責任」と言いたい。あるいは「他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい」と言ってあげたい。

 

 女心と秋の空。

 

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酔り道(2025.6.21)

 

サービス その1(2025.6.21)

 

サービス その2(2025.6.21)


 プレーパークからの帰路に酔り道した居酒屋が大アタリで、「めちゃくちゃ美味しいです」って伝えまくったところ、サービスその1とその2が出てきました。マスターさん、ごちそうさまでした。美味しいなら美味しいって、言う。好きなら好きって、言う。しんどいならしんどいって、言う。

 

 今週は土曜授業まであります。

 

 マジでしんどい。