田舎教師ときどき都会教師

読書のこと、教育のこと

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

島田潤一郎 著『古くてあたらしい仕事』より。島田さんはきっと、ヨクミキキシワカル人。

そういう日々が続くと、出勤と同時に上司に呼び出され、説教をされるようになった。ぼくの営業成績は部内でも一、二を争うくらいの数字だったが、毎日のように怒られた。「みなと同じようなスタイルで仕事をしなさい」 上司がいいたいのは、結局、そういうこ…

くどうれいん 著『虎のたましい人魚の涙』より。いまのわたしが、いまのわたしで、いまを書く。

花屋の開いている時間に、八百屋の開いている時間に、本屋の開いている時間に、たまたま帰ることのできたあなたが文庫本になったこの本と出会い、仕事用の鞄にすっと入れたまま、読めたり読めなかったりしたらいいな、と思う。(くどうれいん『虎のたましい…

くどうれいん 著『うたうおばけ』より。ハッとしたシーンを見つけ、積み重ねよう。

殻つきの生うにが来た。吉浜食堂の店主は漁師である。三陸で朝採ってきたものをそのまま夜に出すのでうにがぴかぴかしている。スプーンで掬って何もつけずに食べる。きゅぴーん、という音がする。そういう、発見に似た驚きがいつ食べてもある。はじめてのう…

五木寛之 著『僕はこうして作家になった』より。きょう一日食えればいい。

〈べつにいいじゃないか。どうせ引揚者なんだから――〉 いつもお定まりの呪文をつぶやくと、急に元気が出てきた。難民として国境をこえ、海を渡ってこの国へたどりついた少年時代のことを思い出したとたん、どんなときにも居直りめいた勇気がわいてくるのであ…

岡嶋裕史 著『ChatGPTの全貌』より。読んで、使って、知りましょう。

海の近くに住む者が海のことを知らないと危険なように、森の中に住む者が森を熟知することで森から大きな恩恵を受けられるように、現代の生活環境は情報システムの中にある。すでに私たちにとって土や水と同等の存在だ。だから理解しなければならない。法律…

五木寛之 著『みみずくの夜メール』より。実っても頭を垂れぬ麦穂かな。

あまりそういうことを書くと、いかにも自慢しているように思われそうだが、かつて60年代、70年代には、私の書いたものに共鳴して海外にとびだし、身をあやまった若者たちが少なくなかった。ごめんなさい。 望月さんは、身をあやまらずに自分の生きる道を…

灰谷健次郎 著『わたしの出会った子どもたち』より。林竹二とのやりとりが載っていて嬉しい。

本質的に子どもはそういうものなのだ。子ども本来の姿が、そのまま通らないところに、社会の罪があるというふうに考えられはしまいか。(灰谷健次郎『わたしの出会った子どもたち』新潮文庫、1984) こんにちは。昨日、横浜にある情報文化センターまで足を運…

辻仁成 著『アンチノイズ』より。無音を含め、あらゆる音を肯定する。

フミがぼくの地図の中心だった。どこが好きなのかしら、と言ったフミの言葉がふいに蘇ってきた。ぼくこそフミのどこが好きだったのだろう。自分の気持ちを知りたかった。ぼくは自身に問いたいがために地図を作ってきたのかもしれない。(辻仁成『アンチノイ…

近藤絢子 著『就職氷河期世代』より。1993年~2004年に高校、大学などを卒業したみなさん、読みましょう。

解決できない問題の存在を受け入れ、それを前提とした議論を進めていくことも必要だ。例えば就職氷河期世代が高齢期に差し掛かった時には、現行の公的年金制度の給付だけでは生活が成り立たない単身高齢者世帯の増加はおそらく避けられない。そこを直視せず…

横道誠、菊池真理子、二村ヒトシ 著『「ほどよく」なんて生きられない』より。過去は、エンジンになる。

橋本治に関して思ったのは、橋本さんもものすごい量の本を刊行したじゃないですか。ああいう度を超えたクリエイティビティって、私はなんとなくわかる気がするんですよね。つまり、トラウマがエンジンになっているんじゃないかなと思うんです。(横道誠、菊…

辻仁成 著『ワイルドフラワー』より。野生を取り戻せ。

俺の定位置は半円形のカウンターの一番左端と決まっていて、そこは酒を客に注ぐ香奈江の横顔を眺めるのに適した場所だ。坊城や作家の久遠といった常連客たちの杯に香奈江が酒を注ぐのを、静かに眺めて夜を過ごす。その時俺は一人ここで優越感に浸りながら香…

横道誠 著『レトロな世界に分け入る』より。3人のユニークなレトロ商に出会えます。

こうやって「第四次レトロブーム」に耽るうちに、僕はじぶんの書物に対する興味も見直すようになって、本だけでなく好きなレトログッズを並べた「理想の本棚」を模索するようになった。その一例が写真41の本棚だ。ここに並べた書籍とその著者名を書きだし…