「他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい、とも言っていた。頑張って、ピースを探すのがパズルだけど、天気は自分の力じゃどうにもできない。晴れるのも雨が降るのも操作はできないから、逆にこっちでそれにいかに合わせるか、いかに楽しむかしかないんだって」
(伊坂幸太郎『パズルと天気』PHP研究所、2025)
こんばんは。上記の引用の一部が本の帯に書いてあって、うまいこと言うなぁ、相変わらずの伊坂幸太郎さんだなぁと行きつけの書店で思いました。生きている限り、人間関係の悩みは尽きませんから。ゆえに、
ダンス・ダンス・ダンス。
踊るしかないんです。それもみんなが感心するくらいにとびっきりうまく踊るしかないんです。だって他人はパズルではなく天気なのだから。音楽の続く限り、いかに合わせ、いかに楽しむかしかないということです。俗にいう羊男説。ハルキが予言し、
コウタロウが固めた。
伊坂幸太郎さんの『パズルと天気』読了。5つの短編が収録されている。表題作は書き下ろしで、残り4編は既出(アンソロジーなど)。帯にある《他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい》は、クラスの子どもたちにも伝えたい。どれも安定の、読むとほっこりする作品です。#読了 pic.twitter.com/bKZhYy3nzw
— CountryTeacher (@HereticsStar) June 9, 2025
ほっこり。
伊坂幸太郎さんの『パズルと天気』を読みました。「パズル」「竹やぶバーニング」「透明ポーラーベア」「イヌゲンソーゴ」「Weather」の5作品が収録されている短編集です。
Twitterにツイートしたように、あっ、失敬、Xにポストしたように、最初に表題作の「パズルと天気」を読んだところ、あっ、失敬、表題作ではなく「パズル」という題名でした、その「パズル」に《みんなもすなるマッチングアプリといふものを、自分もしてみむとてするなり》とか《ただ、私は本当に口が堅いし、歩く個人情報保護法と呼ばれてもいいくらいだから信用して》とか、《他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい》とかって書かれていて、
降水確率0%。
今回もまた、言い回しもストーリーもおもしろく、傘を必要としない安定の伊坂作品でした。ほっこり。で、5つの短編を読み終え、ほっこりした気持ちのまま巻末の「各短編について」に目を通したところ、《この本には二十年以上前に書いたものから、つい先日書き上げたものまで、五つの短編を収録しています》と書かれているではありませんか。そうです、「パズル」以外は既出だったんです。で、読んだことがあったんです。読んだことがあったことに、その巻末の文章を目にしたときに気づいたんです。
そういえば、って。
そういえば、仙台の七夕祭りに使われる竹に異物が混入して、それが「かぐや姫」だったっていう「竹やぶバーニング」、昔読んで「かぐや姫?」ってなったなぁ。そういえば、姉の元彼と動物園でばったりっていう「透明ポーラーベア」、昔読んで切ない気持ちになったなぁ。そういえば、イヌが主人公で、花咲かじいさんだったりブレーメンの音楽隊だったり忠犬ハチ公だったりの物語がかたちを変えて次々と出てくる「イヌゲンソーゴ」、昔読んでチワワが出てくるくだりを覚えているなぁ、なぜだろう。そういえば、《「いいか、これは」僕は答える。「小雨みたいなものだ」》っていう「Weather」の最後のやりとり、昔読んでジーンときたなぁ。
読んだことがあったのに、そのことに気づかず、まるで初めて読んだかのように楽しめるなんて、そして読み終えてから「そういえば」って思い出せるなんて、それこそが伊坂さんの作品のよさだなぁと思います。物語が、心の深いところに、つみあげうたの如く、
降り積もっていく。
「ホッキョクグマは壁を見ている」僕は言った。それから思いつき、「壁を見ているホッキョクグマを、見ている富樫さんたち」
「を、見ているわたしたち」千穂が嬉しそうに言う。
「を、見ている宇宙人」僕が続けると、千穂が吹き出した。
「を、見ている優樹君の君のお姉さん」
アンソロジー『I LOVE YOU』(祥伝社、2005)に収録されていた「透明ポーラーベア」より。故・谷川俊太郎が勧めていた「つみあげうた」のような会話で、伊坂さんのうまさを感じます。やさしさも感じます。
ちなみに富樫さんは優樹君の姉の元彼で、千穂は優樹君の彼女、富樫さんたちの「たち」は富樫さんの彼女の芽衣子さんで、舞台は動物園。おそらくは仙台市にある八木山動物園。たまたま訪れた動物園で、たまたま姉の元彼に出会ったとしても、
踊るしかない。
たまたまは操作できないから、逆にこっちでそれにいかに合わせるか、いかに楽しむかしかない。伊坂さんが、読者が感心するくらいにとびっきりうまく書いてくれるおかげで、人間関係は、とどのつまり天気だからこそ豊かなのだろうなって、そう思えます。子どもの頃は「パズル」だと思っていたけれど、経験を重ねるにつれて「天気」だと気づき始める。だから「パズル」で始まり「Weather」で終わるこの短編集は、ほんと、
うまい。
うまい。
明日は遠足です。けっこうな距離を歩きます。けっこうな人数で行きます。けっこうな疲れが予想されます。「早く集まりなさい」「うるさい」「前の人との間を開けないで歩きなさい」って、けっこうな頻度で言わざるを得ないことも予想されます。
やれやれ。
雨が降りませんように。かといって、晴れすぎませんように。終わった後のビールを、
いかに楽しむか。
おやすみなさい。