田舎教師ときどき都会教師

読書のこと、教育のこと

近藤絢子 著『就職氷河期世代』より。1993年~2004年に高校、大学などを卒業したみなさん、読みましょう。

解決できない問題の存在を受け入れ、それを前提とした議論を進めていくことも必要だ。例えば就職氷河期世代が高齢期に差し掛かった時には、現行の公的年金制度の給付だけでは生活が成り立たない単身高齢者世帯の増加はおそらく避けられない。そこを直視せずに、リカレント教育やリスキリングなどのカタカナ語を並べて、人的資本投資によって問題が解決できるかのように論じるのは、より本質的な議論の先送りにしかならない。
(近藤絢子『就職氷河期世代』中公新書、2024)

 

 こんばんは。上記の引用は「終章」より。リカレント教育やリスキリングなどのカタカナ語をバッサリ切っているところが、よい。学校でいうと児童の実態を直視せずにICT活用という言葉が一人歩きしている状況と似ています。税金を使って一人一台端末を実現しているのだから、積極的に活用して、その活用状況と成果を納税者に説明しなければいけない。議員さんからそういった圧がある。だからどんどん使いましょう、って、

 

 本末転倒です。

 

 低学年や中学年での使用が増えれば増えるほど、学力の土台である「書き言葉にどれだけ習熟しているか」がおろそかになっていく。視力も下がっていく。高学年になる頃には、特に過集中の特性をもつ発達界隈の子どもたちが「依存症」のような症状を見せるようになり、保護者も担任も手を焼くようになっていく。データはありませんが、経験としてそう思います。少し前に話題になった「IT先進国スウェーデンが『紙と鉛筆のアナログ教育』に戻る計画を発表」というニュースなんて、

 

 然もありなん。

 

 

 データで読み解く頃には、公教育によってタブレット漬けにされた子どもたちはとっくに卒業しています。30年後くらいに『一人一台端末世代』というタイトルの新書が出版されたとしたら、おそらくその本を購入するのは「一人一台端末世代」でしょう。就職氷河期世代の私が、おっ(!)と思って『就職氷河期世代』を手に取ったように、です。

 

 

 近藤絢子さんの『就職氷河期世代』を読みました。著者の近藤さんも就職氷河期世代。勝手に親近感です。以下、目次より。

 

 序 章 就職氷河期世代とは
 第1章 労働市場における立ち位置
 第2章 氷河期世代の家族形成
 第3章 女性の働き方はどう変わったか
 第4章 世代内格差や無業者は増加したのか
 第5章 地域による影響の違いと地域間移動
 終 章 セーフティネット拡充と雇用政策の必要性

 

 ちなみに『就職氷河期世代』は2025年の新書大賞で7位に入賞しています。1位は三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で、5位は勅使川原真衣さんの『働くということ 「能力主義」を超えて』、8位は今井むつみさんの『学力喪失』で、その3冊についてはこのブログでも取り上げました。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 三宅香帆さんや勅使川原真衣さんや今井むつみさんの新書に比べて、近藤さんの『就職氷河期世代』が「読みやすい!」とは思えません。学術論文のようだからです。それにもかかわらず7位になっているのは、私のような就職氷河期世代が生きづらさのあまり(?)思わず手に取ってしまうからでしょう。就職氷河期世代=1993年~2004年に高校、大学などを卒業した世代。その数なんと、

 

 約2000万人。

 

 これは日本の人口の約6分の1に当たります。2000万人全員がこの本を読み、社会に働きかけるという未来を期待したいところですが、それはともかく、データで読み解くと、私を含め、それだけの数の人々が以下のような苦しい状況に置かれているということに気づけます。

 

 ちなみに、卒業15年後の段階で全学歴の平均値を比べると、バブル世代の平均年収は477万円なのに対し、氷河期後期世代は415万円と、62万円も差がついている。月あたりにして5万円、かなりの差である。~中略~。就業率や正規雇用比率と異なり、年収の世代間格差は年をとっても縮まらないという特徴がある。

 

 就職氷河期世代といってもいろいろあって、上記引用に出てくる氷河期後期世代とは1999年~2004年に高校や大学などを卒業した人たちのことをいいます。著者がいうには、所得と格差に関して、この後期世代が特に悲惨だと。

 

 私です。

 

 とはいえ、通説とは異なり、データで読み解くことによって、次のような「発見」もあったとのこと。ちなみに他にも「発見」がたくさん載っているので、それはぜひ手にとって読んでみてください。

 

政府による子育て支援政策の拡充の恩恵もあってか、氷河期後期世代の女性はむしろその前の世代よりも、多くの子供を産んできたことをデータで示す。

 

 就職氷河期世代と少子化を「安易に」結び付けてはいけないということです。曰く《70年代後半から80年代前半生まれの世代が、若年期の雇用状況がとりわけ厳しかったにもかかわらず出生率を改善させていたのはなぜか、そこに少子化対策のヒントがあるのではないか》云々。統計に基づかない通説が流布することによって、そういったヒントが見えにくくなるというのが著者の危惧です。やはり、

 

 統計は大事。

 

 

 法律も大事。

 

 育児休業法の改正等によって女性が働きやすくなったのだとしたら、現在国会で論戦が繰り広げられているという給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正についても、教員が働きやすくなるよう、

 

 ちゃんとしてほしい。

 

 切に願います。