田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

重松清 著『小学五年生』より。小学五年生はマジックアワーみたいなもの。

久美子ねえちゃんは、二年後に別の男のひとと結婚をした。今度のひとはおじさんやおばさんにすぐに気に入られて、少年の両親も「久美子ちゃんもこれで幸せになれるよ」と喜んでいた。でも、そのひとは、少年の歳の離れたお兄さんにはならなかった。少年はも…

日垣隆 著『信州教育解体新書』より。外から見ると、内部であたりまえと思っていることも、相対化して眺めることができる。

授業が始まってからが、また驚いた。四〇人ほどの参観者たちが、いっせいにメモをとりだしたのだ。ものすごく熱心にメモの手を走らせる。どうしてあんなにいっぱい、メモすることが存在するのだろうか。たいした授業では決してない。マンガでも描いているの…

野口晴哉 著『風邪の効用』&「マル激(第1000回)」より。日本社会に風邪とマル激の効用を。

しかし風邪の治療に工夫しすぎた人は、風邪を経過しても体量配分比の乱れは正されず、いよいよひどい偏りを示すこともある。風邪の後、体の重い人達がそれで、他の人は蛇が皮をぬいだようにサッパリし、新鮮な顔つきになる。風邪は万病のもとという言葉に脅…

村上春樹 著『村上T 僕の愛したTシャツたち』より。KEEP CALM AND READ MURAKAMI & MATH!

走り終えた後、レストラン『リーガル・シーフード』に行って、チェリーストーンという地元特産の貝を食べながら、サミュエル・アダムズの生ビールを飲むのが好きだった。レースの最後の方は、いつもそのことを考えながら、力を振り絞って走っていました。冷…

松岡亮二 著『教育格差』より。学校は午前だけにして、午後はフォローすべき子の「違う扱い」を求む。

日本の義務教育制度には(特に他国と比較すると)高度に標準化された「平等化」機能があるし、学校現場でも個人間の差異が表面化しないよう「平等」を重視する傾向がある(苅谷2009)。ただ、ここでの「平等」は「同じ扱い」(equal treatment)を意味し、処…

中村文則 著『惑いの森』より。アリとキリギリス → アリとセミ → 片隅で。教材に、惑う。

やがてセミは力尽き、コンクリートの地面に落ちる。セミは狭い視界の中に、ぼんやりとアリの姿を捉える。セミの身体に電流のようなものが走る。恐怖だ。なぜこんな小さな相手に恐怖を感じるのか、セミにはわからない。これが恐怖なのかもわからない。理由は…

浅生鴨、幡野広志、田中泰延、他『雨は五分後にやんで』より。コロナがやんだら、蒼を取り戻そう。

苦しいときにおもい浮かべる息子の笑顔は創造ではなく、いつも再生だ。日常の生活のなかで笑っていた息子の記憶が、いまの出来事と関係なく再生される。いま一緒にいる時間で息子のかなしい顔を減らすことができれば、穏やかな死の間際にかなしい顔をした息…

本田由紀 著『教育は何を評価してきたのか』より。コロナ禍を奇貨として、教育の「中身」や「形」を変えよう。

なお、日本の教育の問題点として繰り返し指摘されてきた事柄として、「教育格差」がある。確かに、生まれ落ちた家庭の経済的・文化的・時間的・社会関係的な資源が多いか少ないかによって、子ども世代の教育達成に明確な差がついていることは、日本でも主に…

神保哲生、宮台真司 著『地震と原発 今からの危機』&「マル激(第999回)」より。これからも種を蒔き続けます。

コンビニエント(便利)な街やアメニティ(快適)溢れる街はどこにでもある。そこでは場所と人の関係が入替可能になる。結果としてそこは住む人にとって便利ではあっても幸福を欠いた実りのない場所になる。そうした事態を避けるための議論が少なすぎる。 人…

宮台真司、鈴木弘輝、堀内進之介 著『幸福論 〈共生〉の不可能と不可避について』より。願わくば、我に支点を与えたまえ。

中央の集権的権力による「多様なものの強制」は複数の場面で可能ですが、最も即効的なのは「一流」大学の入試問題を「田吾作詰め込み主義」から解き放つことです。入試内容につられる形で、高校の授業が、正答がない課題に傾斜するように、誘導するわけです…

ヤマザキマリ 著『仕事にしばられない生き方』より。思い込みの相対化 & おもしろがること。

私達にとっても、これまでのやり方が疑わしく思える今こそ「とりあえず、風呂!」という一手が、きっと有効に違いないと思うのです。 そうすると、決まって「何が風呂だ。こんな時に休んでいる場合か!」「もっと頑張らなきゃいけない時に、休んだりするから…

日垣隆 著『学校がアホらしいキミへ』より。好奇心よりも探究心を。

『大辞林』を引くと、《珍しい事・未知の事に対して抱く興味や関心》とある。いかにも小難しい定義だ。わかりやすく、本質を突いたこういう定義はどうか。《あちこちに顔を突っ込んでは、つまみ食いする性癖。転職を繰り返して年収を下げていってしまう人や…

池井戸潤 著『下町ロケット』より。フェイスシールドだって? トンデモない。要・理系思考。

幼い頃、佃の夢は宇宙飛行士になることだった。図書館で読んだアポロ計画の物語に、佃少年は、それまで読んだどんな本よりも興奮し、没頭した。それはそうだ、なにしろここに書かれている冒険は、空想ではなく、紛れもない真実なのだから。 一九六九年七月二…

神保哲生、宮台真司 著『格差社会という不幸』より。仕事でも消費でも自己実現しないけど、人生は楽しいぞ。

そうじゃないでしょう。仕事は食いぶち。楽しみは趣味活動。これでいいはずです。どうしてそこまでして「仕事での自己実現」を求めるのか。昔の地域社会があれば――沖縄はいまもそうですが――所得が低くても夕方六時以降は泡盛パーティで盛り上がるような生活…

妹尾昌俊 著『教師崩壊』より。生存者に告ぐ、ティーチャーズ・クライシスを回避せよ。

横浜市立小中学校への調査(N=521)によると、教師の1ヶ月当たりの読書冊数は、0冊が32.4%、1冊が33.6%、2冊が16.1%です。3冊以上は2割もいません。 この結果が多忙のせいかどうかの検証はできていませんが、とても熱心に学び続けて…