田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、旅行、映画」

池井戸潤 著『下町ロケット』より。フェイスシールドだって? トンデモない。要・理系思考。

 幼い頃、佃の夢は宇宙飛行士になることだった。図書館で読んだアポロ計画の物語に、佃少年は、それまで読んだどんな本よりも興奮し、没頭した。それはそうだ、なにしろここに書かれている冒険は、空想ではなく、紛れもない真実なのだから。
 一九六九年七月二十日、月面緯度〇・八度、同経度二三・五度の巨大クレーター「静かな海」に着陸した宇宙船の物語の中で、佃少年はニール・アームストロング船長率いるアポロ十一号のクルーの一員だった。

(池井戸潤『下町ロケット』小学館文庫、2013)

 

 おはようございます。昨日のニュースですが、最初に映像を見たときに、もしもあのフェイスシールドにディスプレイが内蔵されているのだとしたら、アポロ計画と同様に未来だなって、そう思いました。映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(ブラッド・バード 監督作品)にも登場しましたよね。フェイスシールドではないですが、カメラとモニターの役割を果たしていた、スマートコンタクトレンズ。極秘文書をまばたきで隠し撮りしていた、あれです。

 

 未来社会の、夢のガジェット。

 

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夢がある(https://wired.jp/2014/04/16/google-contact-lenses-cameras/

 

 福岡県の粕屋町の小中学校が、子どもたちに「フェイスシールド」を着用させて授業の再開に踏み切ったという昨日のニュース。残念ながら夢のガジェットではありませんでした。モニター機能もカメラ機能も、ない。ゼロリスクを求めるのはそもそもミッション・インポッシブルです。そうだとすると、そこまでして授業を再開する必要はあるのでしょうか。そこまでして受ける価値のある授業を教師は提供できるのでしょうか。授業の準備はほとんどできなかった、でもみんなが帰った後の消毒作業は時間をかけてがんばったよ、さぁ、今日も消毒済みのフェイスシールドをつけて授業だ。本末が転倒していないでしょうか。

 

 求む、理系思考。

 

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)

  • 作者:池井戸 潤
  • 発売日: 2013/12/21
  • メディア: 文庫
 

 

 理系思考の人たちがたくさん登場する、池井戸潤さんの『下町ロケット』を読みました。第145回直木賞受賞作で、以前から読みたいなぁと思っていた一冊です。何しろロケットですからね。宇宙ですからね。夢がありますからね。半沢直樹が出てこなくても、おもしろいに決まっています。

 

 オレたちツクダ入工組。

 

 研究者の道をあきらめた佃航平が、家業の町工場・佃製作所を継ぎ、製品開発で業績を伸ばすも、コロナ禍なみの危機に襲われて創業以来のピンチに。簡単にいうと、そういったプロットです。プロローグとエピローグには、どちらもロケットを飛ばすシーンが用意されていて、ネタバレになってしまいますが、プロローグでは失敗し、エピローグでは成功します。

 

 喪失と回復。或いは入口があってピンチがあって出口がある。

 

 ジョーゼフ・キャンベルの神話論でいうところの物語の基本構造に忠実な、だからこそ安心してワクワクできるエンターテインメント長編です。ちなみに佃の夢は《自分が作ったエンジンで、ロケットを飛ばす》こと。忘れかけていた夢を思い出した佃社長と、社長の夢に振り回されつつも感化されていくオレたちツクダ入工組の社員の面々、そして一癖も二癖もあるライバル企業の曲者たち。理系思考でありながら、池井戸さんの描く人物らしく、みな人間味にあふれていて、そこがとってもよい。

 

「私たちのためだなんていわないでよね」
 利菜は言い返してきた。「自分だけ悲劇のヒーローみたいじゃない。狡いよ、そんなの。パパなんて会社も仕事も、みんな自分のためなんでしょ」

 

 ときおり思春期真っただ中の佃航平の一人娘が出てきます。男たちの矜持がぶつかり合う展開の中で、それがよいアクセントになっているというか、同じ年頃の娘をもつ身としてはものすごくリアルに感じられて、そんなところも、よい。

 最後に話はおもいっきり変わりますが、副島隆彦さんの『人類の月面着陸は無かったろう論』に次のような記述があります。人類が月に降り立ったというのは、真実などではなくて、ミッション・インポッシブルなんじゃないかという指摘です。

 

 1961年4月12日のソビエトのガガーリン(ヴォストーク1号)が人類初の地球周回をやって地上に帰ってくる時にどうしたか。ガガーリンは、帰還船が地上に激突する寸前の地表10キロメートルぐらいのところで船外にパラシュートで脱出しているのである。最近の中国の地球周回ロケット(友人飛行成功)も、同じように瞬間的に空気中に放り出される形でパラシュートで脱出しただろう。今の今でもこんなものなのである。だからロケットの軟着陸というのは、無理なのである。寝言のような夢物語を私たちは信じるわけにはゆかないのだ。そして、さらには、その月面の着陸地点からの再発射という、軟着陸よりもさらに何倍も困難である仕事の不可能性である。

 

 月面に対してバランスを崩すことなく垂直に軟着陸し、そして支えも管制塔も何もないところから再発射するというのは不可能なのではないか、そもそも人類の月面着陸は無かったのではないか、そういった「論」です。この本はいわゆる「トンデモ」の部類に入ると言われていますが、普通に考えると、確かにそうだよなぁと思ってしまいます。理系思考の試されるところ。佃航平に訊くことができたら、どのような答えが返ってくるでしょうか。ついでにフェイスシールドの必要性も訊いてみたいところです。

 

 フェイスシールドだって?

 

 トンデモない。

 

 

人類の月面着陸は無かったろう論

人類の月面着陸は無かったろう論

  • 作者:副島隆彦
  • 発売日: 2016/12/23
  • メディア: Kindle版
 
オレたちバブル入行組 (文春文庫)

オレたちバブル入行組 (文春文庫)