走り終えた後、レストラン『リーガル・シーフード』に行って、チェリーストーンという地元特産の貝を食べながら、サミュエル・アダムズの生ビールを飲むのが好きだった。レースの最後の方は、いつもそのことを考えながら、力を振り絞って走っていました。冷えたビールのことって、ついつい考えちまうんですよね。
(村上春樹『村上T 僕の愛したTシャツたち』マガジンハウス、2020)
おはようございます。臨時休校明けの1週間を走り終えました。週の後半は以前から気になっていた駅前のバーで飲むことだけを考えながら、力を振り絞って走っていました。この季節のティーチャーにはコロナよりも太陽コロナによるダメージの方が大きくて、冷えたビールのことをついつい考えちまうんですよね。いつもは珈琲ですが、渇いた夜にはキリンの一番搾りがよく似合います。
店内に足を踏み入れたところ、お客さんは誰もいませんでした。地元の飲食店はこのコロナ禍で息も絶え絶えです。一杯だけ飲んですぐに帰る予定でしたが、ある種の情に駆られるがまま、村上春樹さんいうところの《つい亀を助けてしまう浦島太郎》のような気持ちで二杯、三杯と飲み続けてしまいました。一杯300円。おそるべしハッピーアワー。人生においておこなったあらゆる投資の中で、それが最良のものとは決して言えないものの、乾ききった体が喜んでいたことだけは確かです。街のささやかな活性化にもつながったことでしょう。
村上春樹さんの新刊『村上T ぼくの愛したTシャツたち』を読みました。男性向けファッション&情報誌『ポパイ』に掲載されていた人気エッセイを一冊の本にまとめたものです。羊ではなくTシャツをめぐる18篇のエピソードと、108枚の👕の写真が収録されています。Tシャツはもちろんカラー。巻末にはTシャツにまつわるインタビューも載っています。
気を落ち着けて、ムラカミを読もう。
例えば「KEEP CALM AND READ MURAKAMI」なんて書かれたTシャツが紹介されています。外国では、新刊の販売促進のためにTシャツやらトートバッグやら帽子やらを作ることがけっこうあるようで、村上春樹さんのもとには各地の出版社から「こんなものを作りましたよ」とその手のものがたくさん送られてくるようです。まぁ、本人は恥ずかしくて着られないそうですが。ちなみに「KEEP CALM」というのは、第二次世界大戦が始まろうとしているときに、英国の情報省が国民を落ち着かせ、パニックの発生を防ぐために作ったポスターの文句だったそうで、もともとは「Keep calm and carry on」(平静を保ち、普段の生活を続けよう)とのこと。With コロナの時代にぴったりの言葉ですよね。
気を落ち着けて、シゲマツを読もう。
気を落ち着けて、ミヤザワを読もう。
臨時休校中、漢字や計算などのプリントは最小限にして、ただひたすらに読書をするよう促しました。重松清さんしかり、インターネットの青空文庫を活用しての宮沢賢治しかり。全員とはいきませんが、けっこうな割合の子が気を落ち着けてシゲマツもミヤザワも読んだようで、しかもそれぞれ何冊も読んだようで、下手な国語の授業をやるよりはよほどいいと思いました。
総合的な学習の時間が導入されたときに「私だったら学年のはじまりの授業を全て読書にして、その時間を総合でとって、読む力をつけてから他の教科の学習をスタートさせる」というようなことを言っていた人がいました。誰の発言だったのか、何の本に書かれていたのか、もう覚えていないし総合の趣旨を理解していないようにも思われますが、気持ちはよくわかります。
読み書きはすべての学習の土台。
読むことは書くことの前にある。
でもまあそれはそれとして、世の中が何かとざわざわ落ち着かないときに、腰を据えて読書にいそしむというのはなかなか良いものです。どうかしっかりいそしんでください。
村上春樹さんもそう言っていますから。算数の教科書だって、読めばわかるように、すなわち独学ができるように書かれています。読む力があれば、教えなくてもひとりで学習を進めることができるんです。先生が下手に教えちゃったりするから、しかもそれぞれのペースを無視して一斉に教えちゃったりするから、子どもは教科書を読もうとしなくなり、教師は喉をやられちゃったりするんです。
気を落ち着けて、サンスウを読もう。
シゲマツとミヤザワに加えて、サンスウを読むことも4月と5月の課題としていました。ついでにいうと、シャカイもです。臨時休校明け、すぐに算数の最初の単元のテストをしました。テストの直前にミニレクチャーと質問タイムは設けたものの、授業としては全く扱っていない単元です。通塾率が20%に満たない高学年のクラスで、平均点は96点。単学級の持ち上がりのクラスなので、去年からやってきたことは間違っていなかったと感じました。
学び方さえわかっていれば、子どもたちは、できる。
だから履修主義ではなく習得主義にして授業を減らすべきです。授業を減らして、家庭環境が厳しい子を手当てするための時間を増やすべきです。気を落ち着けて、そうしましょうよ。
で、最後はやはりビール関係。Tシャツといえば夏、夏といえばビール・・・ですね。いや、何も夏でなくても、暖炉のオープン・ファイアの前で、ロッキング・チェアに座り、膝に抱いた猫の頭を撫でながら、冷たいビールをちびちび飲むというのも、人生における大いなる至福のひとつですよね。
体が熱いのは、昨夜のビールが残っているせいではなく、間違いなく太陽コロナのせいだろうな。やはりコロナよりも太陽コロナの方が問題だな。マスクの着用もその問題を大きくしているな。Tシャツだけでは太陽コロナに勝てないな。しばらくしたら分散登校が終わって6時間授業に戻るな。土曜授業もあるな。さて、どうしたものかな。最後に引用したビール関係の話は、次の言葉で締めくくられます。
想像力って大切ですよね。
現場のことを想像してほしい。
Tシャツだけど、体が熱いな。